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七章「御前試合」

私が過去に来てから、現在(今)より1週間後でちょうど5ヶ月になる。

1週間後は、そう。ーーー御前試合だ。

待ちに待った、とはこのことである。今日は、1週間後のイベントについての説明がある。

あまりにも楽しみすぎて身体が震え、朝早くに目覚めてしまった。

窓の方に目を向けると空が暗い。

しかし、窓を開けると風が心地よく吹き付ける。空には月が浮かび、穏やかな光を放っていた。


陰陽師部隊本部に着くと、その扉の前にはたくさんの人がいた。

見かけない人ばかりで少し心細く感じる。

しかし、その人々を掻き分け進んでいくと本部長の立ち姿が見えた。

近づいて声をかける。と本部長は開口一番こう言った。


「久城。お前が、我ら二軍を背負っている」


意味が分からず、聞こうとする。

しかし、説明会の開始を告げる声によって、その問いは中断せざるを得なかった。


だが、終わってみてその意味は自ずと分かった。

私が二軍を背負う。

つまりは、二軍20名あまりから1名を選抜した結果、私だったらしい。

その選抜理由は、第二防衛戦で活躍したから。

そして、第2の疑問の解決。

あんなにも見かけない人が多かったのは、各地の陰陽師がこの温泉郷に御前試合のために集ったから。

すなわち、今年からの一軍は温泉郷のみの人員ではなく、他の陰陽師からも選ばれると言うことになる。

ーーーやはりその理由は、今年の死傷者が多かったからだろうか。

それから、御前試合を行う場所は離島。しかし、話を聞いたら移動手段は船ではないらしい。

どう移動するかと言うとーーー少し突拍子もない話だった。

先ず御前試合に際して黄金杯を開会式の時、出場する陰陽師分、10杯用意する。

それを各々手に持ち、呪力により火を灯す。

すると、自動的に離島に建設された決闘場に転移するらしい。

そんなことが可能なのかと聞いてて思ったが、実際にできるそうだ。


とりあえず、移動手段、当日御前試合に出る出場者が10名であることとどこの陰陽師部隊に所属しているのかは分かった。

その中で印象深かったのが2名。

1人が私の時代にもいるような人を見下した言動、態度をする女の子。

名を惧玲と言う。東京の陰陽師だそうだ。

それでも彼女の取り巻きは、彼女にうやうやしく接していた。そして、それをさも当たり前だと言わんばかりの態度。「ありがとう」も伝えずに「下がれば」などとお嬢様口調。

私が彼女に感じた印象は相当悪い。悪いが故に印象深かった。

もう1人は男。名は分からない。風体は華奢で、ぱっと見女の子に思えた。けれど、彼のまとう雰囲気が異質だった。そのギャップが印象深い。


しかし、第一印象が分かったはいいがーーー実力はどんなものか分からない。

私より強いかもしれないし、逆に弱いかもしれない。

ーーーでも、用心に越したことはないか

そう思った時、檜佐木が言った。

『わずか1週間ですが、私があなたに教えれる術が1つあります』

「それは?」

聞くと、檜佐木は含み笑いを込めてこう答えた。

『それは自室に戻ってからのお楽しみです』


ーーーーーーーーーーーーーー


自室に戻ると、檜佐木は座るように言った。

私は特に断る理由もないので、彼女の言葉に従い、畳の上に座る。それを確認した檜佐木は『私が今から教えるのは、陰断。高等陰陽術です』とそう言った。

「え?」

私は耳を疑った。

「今ーーーなんて言いました?」

檜佐木に聞く。と、

『高等陰陽術です。1つ覚えておくと便利ですよ』

「えーーーでも、私には早いんじゃ」

『御前試合が近いんです。ちゃんとあなたのレベルにあったものを選んでますよ』

「はあ」

『さて、それに関連してあなたに聞きますが、陰陽術の勉強は捗ってますか?』

「え?」

『その調子だとまだみたいですね……教本にもあると思いますが、陰陽術には効果時間ーーー言い換えれば持続時間というものが存在します。それが分かってるか分かってないかで戦闘を大きく左右すると考えて良いでしょう』

「そうなんですか?」

と、私が訊き返すと、彼女は肩を落とした。

『あなたーーーこれまで何を勉強してきたんですか……』

「すみません……」

『あなたに分かりやすく言いますと、例えばーーー呪力の剣です。あれには、持続時間がありますよね?』

「あ、そうですね! と言うことは、術者の呪力の消費量もそれに含まれると?」

『そうです。ただし、あらかじめ術の種類によって呪力の消費量は決まっているんですよ』

そう、檜佐木は声色を良くして話した。少し、テンションが上がったのかもしれない。

『特に、私がこれからあなたに教える高等陰陽術は、それが顕著に出ます。相手も違うものを使ってくるかもですが、それはまた後日にしましょう。とりあえず、陰断の印は教えましょうか』

「その印とは?」

恐る恐る聞く。

と彼女は笑ってこう答えた。


『あなたがこれまで覚え、扱えるに至った術と同じく、刀印ですよ』



ーーーーーーーーーーーーーー


1週間後。陰陽師部隊本部の扉前。

私を含め、選抜メンバー10名が、その場所に集められた。

手には、皆が各々配られた黄金杯を持っている。

それを品定めするように一軍の面々ーーー5人が、私達を囲うように立っていた。その1人、火扇が叫んだ。

「総帥のご来臨!」


10秒後ーーー扉が開き、ある人物がでてくる。その人物は橙色の生地に、暗い蒼色をした蝶が何匹も装飾されている着物を着ていた。

顔を見ると髭はなく、とても女性的な顔立ちをしている。

それにひどく若い。

ーーー彼女が総帥?

私は彼女が出てくるまで、勝手に男だと思っていた。年老いたおじいさんだとも勝手に思っていたが、違ったらしい。

とーーー突然、火扇が跪いた。

それに倣うように一軍の皆が、跪いた。

けれど、私を含む選抜メンバーは跪いていない。

挨拶なら私達も跪いた方がいいのでは、と1人焦る。現代日本人の嫌な習性だなと思うが、そう焦ってしまうのだから仕方がない。

けれど、総帥がふと表情を緩めたので、少し安心できた。

総帥が真剣な顔に戻り、口を開いた。

「開会式を始める前に、場所を変えましょう。御前試合をされる皆さん、4階に上がってください」

彼女の言葉に従い、彼女を先頭にして4階へと上がる。

そのまま、長い廊下の渡り、突き当たりに巨大な石扉があった。

石扉の両隣に灯籠がある。

その火が、石扉に刻まれた「虎」の絵を最も厳かに照らしていた。

その扉の前で私達は立ち止まる。

ついで、若き総帥が告げた。

「ではーーー開会式を、始めましょう」

総帥は微笑する。その上で言った。

「さあ、各自黄金杯に火を付けるのです。なに、大丈夫。呪力を流すだけです」

彼女の指示に従い、私達は黄金杯に呪力を流した。

とーーーたちまち、黄金杯に火が灯った。

総帥がそれを確認すると、


「それではーーー参りましょう。いざ、試合の場へ!」


石扉を開きにかかる。

完全に石扉が開いたその刹那、私達は光に包まれーーー視界が元に戻った時には、ローマの『闘技場』のような場所に立っていた。

その『闘技場』では、私達を囲うようにたくさんの観客が、円周状にひしめいている。

「試合内容は、次の通りです」

咳払いをし、総帥は告げる。

「この御前試合では、久城さん。あなたをベースとし、対戦していただきます。つまるところ、あなたは9人の陰陽師を相手に9人抜きすればいいわけです。しかし負ければ、その時点で久城さん。あなた抜きで勝ち抜き(トーナメント)形式に転換し、この御前試合を進行させていただきますので悪しからず」


しかし、その内容は私にとって気持ちの良いものではなかった。

訊いて、私は驚きを隠せなかった。けれど、そんな私の様子など関係なしに彼女は話を続ける。


「また、私の配下が、初戦のカードをお呼びしますので東西に分かれてください。自分が東西どちらであるかは、各自が持っている黄金杯の底に刻まれていますのでご覧になってください」


さあさ分かれて、と総帥が手打ちして促す。

私は震える手で、黄金杯を傾けて底を見た。

刻まれていたのは、東。


「ああ、それと」と総帥が言う。


「言い忘れていましたが戦いでは、式霊の使用を禁じます。己の呪力、術式のみで戦いに臨んでください」


そう告げて、総帥は姿を消した。

同時、開幕を告げる号砲が鳴る。私の周囲にいた陰陽師達も東西の扉の方に分かれ、歩いて行った。遅れて、私も東の方に向かう。

石扉を重いがゆえにあくせくして、開けると中は待合室だった。

中には4人がいる。対戦相手だ。正直なところ、5vs5で戦うものと思っていたので、少し息苦しく感じる。

だが、一応、血の滲むような修行によって陰断を扱えるようにはなった。それに高等陰陽術のそれぞれの持続時間も頭に叩き込んである。だが、私の対戦相手がどの程度の実力かで勝てるかどうかが決まる。

ーーーけれど、そんなことは分かりきったことだ

私は檜佐木に向けて言う。

「檜佐木さん。今回は口出しは無用でお願いします」

それは、覚悟の表れ。私の揺るぎないその覚悟を感じ取ったのか、檜佐木は静かに『分かりました』と了承した。


一回戦目

「西の方、惧玲」

石扉の向こうで、歓声が上がった。

ーーーあの高飛車な娘、意外と人気があるんだな

あの人を見下したような言動、態度を思い出し、観衆の反応とのギャップに少し驚いた。

「東の方、久城」

呼ばれた。石扉を開ける。

暗い待合室に光が差し込み、目を細める。

そして、歩を進めると闘技場に出た。

瞬間、「ちょっと待ちなさい」と目の前の女が言った。

どうしてと、聞くよりも先に惧玲が私に背を向ける。

なにをするのかと思った時、

「みんな〜、応援よろしくね〜!」

猫かぶったような言い方をする惧玲。それに応える観衆。

そんな、アイドルじみたことをしだしたのである。

私は悟った。

ーーーああ、そうか。彼女はそういうことで人気を勝ち得たのか

だが、戦いにはそんなものは通用しない。

勝ったか負けたか。

その2択でしか、未来を勝ち得ないのだから。

目の前の惧玲に言う。

「構えて。もうすぐ、戦いの鐘が鳴るはずだから」

惧玲は歓声に応えるのをやめない。

「はあ? 私は今、みんなに応えてるの。邪魔しないでもらえる?」

むしろ、苛立ちながら返した。

呆れた。私は呆れかえってなにも言えなかった。

いや、違う。もう言う必要がないのだ。


ーーー鐘が、鳴ったのだから。


私は護符を取り出し、呪力の剣を生成。その上で、駆ける。一気に距離を詰めて、肉薄し、彼女の首元に剣先を突きつけた。

惧玲が震えた声で、言う。

「殺気、はんぱないね。ただの試合でしょ? そんな、必死になってなにが楽しいのよ」

「私は、遊びにきたわけじゃない。勝ちに来た」

私は簡潔に、されど冷たく返答した。

「全力で戦えないなら、ここでサレンダーして」

ーーー迷惑

言葉の意図を理解したのだろう。

彼女は少しうなだれーーー、しばらくして、

「私をやる気にさせたこと、後悔しないでね。私だって、ただの客寄せパンダじゃなく、陰陽師の名家の娘なんだから」

彼女の目に、戦闘の意思が伺えた。

口元には笑みが浮かび、彼女の全身から呪力が漏れる。

私の持つ呪力の剣が鳴動する。

瞬間、私の身体が、磁石が反発するように弾き飛ばされた。

風を感じる余裕もなく、地面に叩きつけられる。

咳き込む私に向かい、彼女は瞬時に近づき、護符なしで呪力の剣を生成した。

ーーー護符なしで!?

私は驚愕する。

普通、護符がなければ「呪力の剣」のような呪力をある形に抑えるという操作は困難を極める。

私の場合、「心火防魔の陣」ーーー防御結界の護符を生成する術ーーーが限界だ。

それが、呪力の剣という鋭利な武器を生成して、長時間持続させるのは本当の実力者しかできないのである。

だからこそ、彼女の緻密な呪力操作に私は驚いたのだ。

ーーーやはり、彼女も一軍を目指して

彼女は天高く呪力の剣を掲げたかと思うと、一息に振り下げた。

ーーーいや、もう戦いに集中しろ

風切り音を帯ながら迫る呪力の剣に、私の剣をぶつける。

甲高い金属音が上がり、振動が私の腕に重く響いた。

「この攻撃は防ぐか。なら!」

彼女の口元が動く。

見たところ、何かを唱えてるように思える。

ーーー祝詞?

そうであるならーーーと危機感を覚えた瞬間、惧玲の呪力の剣が「たわんだ」。

歪み、波打つ。

そして、蛇が動くように蛇行しながら伸びた。

私に巻きつこうと、襲い来る。

私は「心火防魔の陣」を発動し、防御結界を生成。防ぐことに成功した。

だが、惧玲の剣がみしみしと音をたてて、縛り上げてくる。

ーーー危機的状況には変わりないか

私の額に冷や汗が伝う。

その冷や汗が目に入り、しみた。

思わず、目を閉じる。暗闇に閉ざされーーー刹那、思いついた。

ーーーそうだ、あの術。檜佐木に教わったあの術なら

私は、「陰断」を発動した。

影の刃を走らせる。

防御結界を縛り上げる呪力の剣と防御結界の間に滑り込ませ、そのまま呪力の剣を引き剥がしにかかった。

「少し、力技過ぎないかなっ!?」

惧玲が、驚き、少し呆れたような声を出す。

「あなたも力技なんだし、お互い様!」

けれど私はそれを一蹴し、影の刃に込める力を倍増させた。金属を擦り合わせたような甲高い音が響く。

ついで、少しずつであるが彼女の呪力の剣が剥がれ始めた。

彼女は苦悶と焦りを含ませたような顔になる。だが、歯をくいしばり、呪力を込めた。剣の縛りが強くなる。私は、素直に「やるな」と彼女を賞賛した。

力は拮抗している。

勝ち負けはこのまま続けばどうなるか到底分からない。

けれど、今の私はーーー当初胸の内にあった勝ちにこだわっていなかった。

自分でもよく分からないが、この試合を楽しみたかった。

彼女も、苦悶の表情を浮かべているが、口元は笑みがある。


そしてーーー勝敗は決した。


結果は私の勝利。

彼女の呪力の剣を引き剥がすことに成功したのである。だが、彼女は諦めなかった。もう一度呪力の剣を生成しようとした。しかし、呪力切れを起こし、その場に倒れた。

ーーー勝った。勝ったんだ

いっときは忘れた勝利への渇望。

けれど、彼女に勝ったことで、再度蘇ってくる。

ーーー私は、次も勝つ。私は、一軍にならなきゃいけない

一軍になれば。なりさえすれば、より多くの情報が手に入る。

そうすれば、私の知りたいことーーー“私”に近づくことができる。

私は、良い戦いに興じてくれた彼女ーーー惧玲に頭を下げ、西の石扉へと歩いた。


ーーー次は、二回戦目。


10分の休憩を挟み、二回戦目。

「東の方、久城」

呼ばれた。私は、重い石扉を開け放つ。

暗い待合室に光が入り、暗いところに慣れていた私は少し目を細めた。歩を進める。

その闘技場を円周状に囲む観客席は満席で、歓声があがっていた。

「西の方、昏真」

向かいの石扉が開く。対戦相手が入場した。私より大きな歓声があがる。若干イラッとしたが、対戦に集中するとあまり気にならなくなった。

観察するに、相手は男だった。私くらいの背格好で、そこまで大差がない。

ぱっと見女性にも間違えそうである。

それほどまでの細身で、美貌も兼ね備えていた。

だが、それでは筋肉があまりなく、体格さでも似通っているのなら、戦闘では相当苦労しているはずだ。

そんな彼が、どうしてここまでの人気を勝ち得たのか。

彼が、歓声に沸き立つ客席に手を振っている間に黙考してみたが、全く分からない。

ーーーまあいい

かぶりを振り、私は彼を見据えた。

ーーーそんなのは、戦っている時に自ずと見えてくるはずだ

「第二回試合、開始!」

試合開始を告げる鐘が重々しく響く。

私と昏真はほぼ同時に、護符を取り出した。

ーーー印も刀印で同じ。

ーーーということは。

刀印で挟む護符に呪力を通す。

双方に、呪力の剣が創造された。

ーーーやはり、考えることも同じ

「昏真さん、あなたも剣戟でこの試合を制すつもりですか?」

「いや?」

「なら何故、同じ陰陽術を」

「簡単に言ってしまえばーーー」

彼が動く。

前傾姿勢を取り、一気に距離を詰めるつもりのようだ。

私は剣を構え、相手の動きに注視する。

しかしーーー一瞬で彼の姿が、視界から消えた。

前傾姿勢を取ってからの挙動が、一切分からなかった。

ーーーまさか、音もないなんて

驚き、私はあたりを見回す。

けれど、彼の姿は見当たらない。

ーーーどこに


唐突に、背中が痛んだ。

見るに、服が血で滲んでいる。

切られたのだ。どくどくと血が溢れる。


『圧倒的な陰陽術で、君を潰すためだよ』


声が聞こえた。

再度、周囲を見回す。けれど、やはり姿はない。


ーーーどこだ


探す。こうしている間にも私の全身がずたずたに切り裂かれて行く。

私は気が急いていた。


ーーーこのままでは負ける


それだけは避けねばならない。

まだ二回戦目だ。いくら御前試合を受ける他の陰陽師が強いからとはいえ、こんなところで負けるわけにはいかない。

歯をくいしばって私は必死に耐えた。

ーーー耐えろ、そして見つけろ

呪力を持つ陰陽師とは言え、怪物というわけではなく、人間だ。

なら、必ずそこに付け入る隙があるはず。そして、陰陽術にも制限時間がある。檜佐木がそう言っていた。

対戦相手が使っているのが、「透明化」ならあともう少しで効果時間が頭打ちとなるだろう。

激痛を訴える身体に耐え、私は必死に目を凝らした。

ーーー透明化? それとも、瞬間移動?

いずれにしても二つとも体力を凄い勢いで持ってくものばかりだ。

術が解除されるまで、そう時間はかからないはず。

そう思案した時、鮮やかな虹彩を放つ粒のようなものを発見した。

私は呪力の剣をそこに突き入れる。

くぐもった呻き声が聞こえ、後に、対戦相手が現れた。

彼の腹部に呪力の剣が、深々と突き刺さり、鮮血が溢れ出る。

吐血を繰り返しながら、彼は言った。

「やるね」

「どうも。急所をついたので、サレンダーしたほうがいいと思いますが?」

「あはは」

急に彼は笑った。

「なにを、笑っているんですか」

「君はさ、ほんとに僕を捉えた、と思ってるんだよね?」

「ええ、そのはずです」

「それは間違いだ」

「そんなはずはありません! 」

私は思わず、叫んでいた。

「現に、この呪力の剣であなたをとらえています! 暖かい血だって感じるわけですし」

「じゃあ、術を解くよ? 」

3、2、1というカウントダウンが血塗れの彼の口から発せられる。

そして、ゼロという声が聞こえた瞬間、私が貫いていた「もの」が変異した。

「そんなーーー」

私の視界に映ったもの、それは野犬の死骸だった。腐った臭いが漂う。

驚愕に動けない私は、後ろに気配を感じ、かろうじて振り返る。

と、その鼻先に呪力の剣先を突きつけられ、私は負けを悟った。

だが、せめて知りたいことがあった。

私は震える口を開き、疑問点を聞く。

「あなたは、幻視の術が使えるのですか?」

「違うよ」

「なら一体!」

「だって、腐乱臭のする野犬の死骸なんて、幻視だけでどうにかなるわけないでしょ?」

「そ、うか」

「なら答えは一つ。持ったものを好きなものに変化できる、それが僕の術なのさ。臭いなら芳醇な香りに、死体なら生き物に変えることができるんだ、便利でしょ?」

ーーー規格外にもほどがある。

こんな相手、勝てるはずがない。

私は苦笑し、空を見上げた。

「私の、完敗です」

ーーーーーーーーーーーーーー


意気消沈していても、時は進む。

私の戦いは終わった。

そう思っているうちに、最後の戦いが行われた。

1人は先の戦いで、私を打ち負かした昏真。もう1人は、大男ーーー名を陽と言った。

彼らは、最終戦に相応しい激戦を繰り広げ、会場にいる観客を沸かせた。

そしてーーー闘技場の真ん中で、閉会式が行われる。式が閉会する間際、優勝した者の金属杯に、火が灯った。優勝した者は、昏真だった。


彼は確かに、秀でた才を持っていた。


姿形を、臭いを、生死でさえも、操る天賦の才。

私が勝てる可能性など、一つもなかったのである。


檜佐木は、私が悔しさで打ちひしがられているのを慮ってか、声をかけないでくれていた。


その1週間後、私はある男に声をかけられた。

「久城君。君の二軍遠征部隊配属が、決定したよ。昇格おめでとう」

どのように聞いても、その言葉が皮肉にしか思えない。

「どうして、ですか」

私は苛立ちながら、訊いた。

「私は負けたんですよ?」

ーーー私は、自分の考えの正しさを証明したかった。

けれど、負けた。負けたのだ。

昏真ーーー彼の前では、どんな陰陽師にも立つ瀬がないだろうとさえ思わされる。

「確かに君の戦い方は、彼に遠く及ばない」

歯をくいしばる。でも、だめだ。負けた時のあの感触がどうしても胸の中で渦巻いて、感情が黒く染まっていく気がして仕方がない。

彼は「でも」と言葉を続けた。

「勝利への渇望ーーー相手へ食らいつかんとするひたむきさ。それは、誰にも優っていた、と俺は思うよ。だからこそ、二軍遠征部隊に入り、任務をこなしてもらいたい」

その言葉は、さっきの調子とは違い暖かく思えた。顔を上げて、彼に向き直る。

「あなたは、誰ですか?」

そう聞く私は彼にとって、呆けているように思えただろう。けれど彼はそれをからかいもせずに、こう答えた。

「俺は、丸加垣。二軍遠征部隊、東京組が1人。お前の教育係だ。よろしく頼む」

私は胸がーーーいや、心が、熱くなるのを感じた。

これは唯一無二の好機だ。

断る理由はない。一軍にこそ入れなかったが、遠征部隊である以上、最低限度の情報はつかむことができるだろう。

ーーー打算的な考えではある。でも、真実に近づくためなら利用できるものは利用すべきだ

それに、一軍には劣るが東京組ともなれば総帥に謁見することも可能となるかもしれない。

ーーー式霊の立場を変えるチャンスはまだある。

「はい」

私は首肯した。

「それでは」

と、彼の目が少し、穏やかな光を帯びた気がした。

私は微笑し、差し出された手を握る。

「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」

そうして握手を交わした。


ーーーーーーーーーーーーーーーー



二軍遠征部隊養成学校なるものは、温泉郷西の山中にあった。

丸加垣によると生活は、入隊するとそこになるそうなので出立してから、養成学校につくまでに一度、温泉宿によってもらった。

お婆さんに感謝を伝え、引っ越しの準備をし、今に至る。

養成学校は三階建ての校舎で、宿舎と体育館らしき建物もくっついていて、思った以上に広い印象を受けた。

丸加垣に促され、養成学校の中に入る。

玄関を通ってすぐに、開けた空間に出た。その中心にカウンターがあり、受付係のような女の人が立っている。

見たところ、入ってすぐに受付カウンターがあるのは陰陽師部隊本部と同じだ。

彼女に話しかけると、「お待ちしておりました、久城さん」と彼女は頭を下げた。

私もそれに倣い、「あ、どうも。丸加垣さんに紹介されてこちらに来ました」と頭を下げて挨拶する。

彼女は「さて、それではまずはこの誓約書にサインしてください」と言いながら、万年筆とプレートに載せられた紙を私に手渡した。

私はその紙に書かれた文章を一通り黙読してみる。

要約すると、「仕事は今後こちらが出します。なお居住地もこちらになりますが、それで構わないならサインしてください」と言う文章だった。

ーーーなにを今更

そう思って少し笑みがこぼれる。丸加垣がこちらを見たので慌てて平静を装い、サインした。誓約書のセットを受付係に返す。と、彼女は「それでは簡単に仕事内容を説明させてもらいますね」と話し始めた。

「仕事内容としましては、二軍にいた頃とそう大して変わりません。とは言え少し変わったことといえば、養成学校なので昇進するには筆記試験及び実技試験があることぐらいですね」

訊いてて、「なにがそう大して変わってないだ。だいぶ変わってるじゃないか」と私は思った。

「また」と彼女は続ける。

「11月に近づいてきましたら行われる、魂浄祭と言う温泉郷一大イベントに私たちも参加します」

「こんじょうさい?」

「はい」

いまいちピンときていない私に受付係は微笑し、こう言った。

「魂浄祭。陰陽師部隊本部が主催するイベントです。その祭りの趣旨が陰陽師達が神輿を担ぎ、温泉郷内を練り歩くことでクラガリによる脅威に、命を落とした人々の魂を、天上の世界に送るための儀式的祭りです。……まあ、願掛けのようなものですが、それを毎年七日間、夜に行っているのですよ」

「そう……なんですね」

と言うことは、私もその祭りに参加することになるらしい。

少し気がすすまないが、まあ仕方ない。

私がそう思っているのにもつゆ知らず、彼女は話を続ける。

「それでですね。陰陽師部隊本部の皆さんは毎回、神輿を自作して担いでいるので、私たちもそれに負けないように神輿を9月ごろから作り始ます」

少し面倒だなと私は思った。

9月と言ったら、今が7月の中旬なので1ヶ月と少しだ。意外と早い。丸加垣が口を開いた。

「大丈夫。神輿の本格的な作成は東京組に入ってからだよ」

何が大丈夫なのかと疑問に思い、詳しく聞くと、彼はこう答えた。

「近界組は、神輿の担ぐ部分の組み立てが主かな。あとは、当日担いで練り歩くくらいだよ」

「それから」と受付係が補足する。

「練り歩く時に式霊を召喚してもらいます」

何故かと聞くと、「クラガリの抑止のため」と答えた。


あまり納得が行く答えではなかったが、ここで追求しても仕方ない。

私は内心諦めに近い形で、「近界組の仕事っていつから始まるんですか?

荷物だけ置いて来たいのですけれど」と話題を変え、聞いた。

「仕事なら直ぐにでもご紹介できますよ。ーーー宿舎に行かれるのでしたら、このカウンターから西に歩かれますと宿舎に続く、渡り廊下がございます」

「ありがとうございます。それで、私の部屋は何号室ですか?」

「三階の306号室です」

もう一度礼を言って、私と丸加垣はカウンターを後にした。

私は丸加垣に声をかけた。

「丸加垣さん」

丸加垣が振り返る。それに合わせて訊いた。

「東京組に上がるための、試験っていつですか?」

「1ヶ月後だね」

8月。と言うことは、神輿の作成時期よりは前だ。

試験日は早いと思ったが、神輿の作成時期と被らないというのは幸運である。私は安堵した。


ーーーーーーーーーーーーーー


渡り廊下を歩いて、少しすると宿舎内に着いた。

階段で三階までのぼり、自室を探す。

自室に着いたら、丸加垣から1カ月後の試験に向けた教本をもらった。

机の上に置いたあと、校舎一階カウンターへ向かう。

近界組最初の仕事をもらい、こなす。夜には温泉宿で接客業をし、そのあと、養成学校宿舎に戻って試験に向けた勉強をした。

そんな生活を1ヶ月続けーーーついに試験当日を迎えた。筆記に実技ーーー私の時代のある試験を思わせる。私は一度苦笑したが、あとは試験に集中した。

そしてその1週間後、合否発表。

結果は、合格。

檜佐木、丸加垣にも賞賛され、とても嬉しかった。


そしてーーー東京組、最初の仕事が言い渡される。

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