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六章 「第二防衛戦」

脳の中で、鐘の音が聞こえた。

脳内で繰り返し鳴り響く、鐘の音は陰陽師部隊に入隊した者全てに「クラガリの襲撃」を伝える。

ーーー緊急招集の合図だ。

私は跳ね起きる。

『おはようございます。緊急招集ですね。ーーー複製の波の強襲です』

檜佐木が挨拶と同時に現状を伝えた。

とは言え、心臓が緊張でばくばくする。

第二の襲撃だ。複製の波とは言え、一度襲来すれば、死人が出てもおかしくない。

窓を見やれば、空は漆黒の闇に包まれており、朝早いために暗いのか、複製の波に覆われて暗いのか分からなくなっている。

「ええ、嫌な朝ですね。暗いですし」

私はため息をついた。

そうですね、と檜佐木が笑う。

『とりあえず、準備です。強襲による衝撃に備えることも忘れずに』

「はい」

私は起き上がり、寝間着から陰陽師の着物に着替えた。

その着物は胸のあたりに、護符が入れられるようになっている。

とは言え、私はその中に入れるのは肌に変な感触を覚えるので、(1週間前に)護符を入れるようのポーチを購買部で購入しておいたのだ。

それを鞄の肩掛けに括りつけ、机の上に用意した護符の束を詰め込む。

そして立ち上がり、自室を後にした。

一階に駆け下り、お婆さんに他の客と避難するように伝える。

お婆さんは相変わらず涼やかな表情で、了承してくれた。

私は、それを確認すると宿から出る。

空を見ると、やはり漆黒の闇に覆われている。

だが、朝早いからではなく複製の波によるものだった。

何故なら、温泉郷を囲う結界が破壊されつつあるからである。

結界を張る作業も大変だろうに、毎回壊されているのはどうしてだと問い詰めたくなるが、そんなことは今どうでもいい。

緊急招集先は、中央階段を登った先の広場だ。

少し距離があるので急がなくてはならない。

結界が割れ行く音が聞こえる。

地響きと、それによる振動で体幹を保ちづらい。身体が揺れ、地面に倒れそうになる。

けれど、耐えて私は走った。


息切れが激しくなる頃には、なんとか中央の階段前についた。

ラストスパート。私は、息を整えて階段をのぼりにかかる。

とーーー、天上の黒い空から巨大な渦巻きが、徐々に広場に降りようとしているのが見えた。

胸騒ぎする。私は駆け出しながら、檜佐木に聞いた。

「あれもクラガリ?」

『ええ。複製の波の、本体です。核を持ってるはず』

「分かりました!」

私は急いで階段を駆け上がり、広場にたどり着く。

とーーー、本部長や二軍の皆がもう広場に集まっていた。人数的には30人前後と言ったところだ。

私は最後だったらしい。

「遅いぞ、久城!」

「すみません、本部長!」

走って近づくと、火扇が本部長の隣にいるのが見えた。

火扇が私の姿を確認すると、鼻で笑う。

私は少しイラッとしたが、内心思った。

ーーーあれ? 結局、遠征に行ってないような

戻らなくていいのだろうか。

一軍は、まだ遠征をしているのではないのか?

でも、今はダメだ。彼にそんなことを聞く状況ではない。それに、そんな間柄でもない。

だから私は、その疑問を一旦打ち消した。

ーーーまた今度、詰問すればいい


本部長が怒声じみた指示を飛ばす。

「総員、戦闘準備!」


皆が一斉に、式霊を召喚する。

各所から湯柱が上がり、中から光球がこちらに向かって飛んでくる。

それは中々に壮観だった。

各々の主人の前に、次々と姿を現わす式霊達。

私の式霊のように狐同様、動物型もいれば、甲冑を着込んだ武士に近い人型もいた。

だが、それらに見惚れてる場合ではない。

私も皆に倣い、式霊を召喚した。

南東の方で、湯柱が上がる。

その中から光の球が飛び出し、ものの数秒で私の目の前で着弾した。

刹那、卵が割れるように光の球がひび割れ、狐が現れる。

私は恐る恐る彼に聞いた。

「もう、体調はいいの?」

『ああーーー』

彼は思い出したように頷き、低い声で答える。

『クソみてえな術式にも慣れたからな』

「あの時は……ごめん。断りきれなかった」

私がそう言って頭を下げて謝ると、彼は『はっ……』と鼻で笑った。私は彼の表情(かお)を見る。

彼は朗らかな表情していた。

『別に気にしてねえよ。俺がうぜえと思ってるのは、てめえの役職と他の陰陽師どもだ。あと、俺たち式霊を舐め腐ったあの慣習だな。

ーーーおら、もうちょいで始まるんだろ? てめえも気にするな』

「ーーーありがとう、パートナー」

私は呪力の剣を右手に宿し、前方に渦巻く暗黒を見据えた。

それが徐々に勢いを増していく。

そしてーーー圧縮され、拳大の光の球

となった。本部長が言う。


「奴のお出ましだ。構えておけ」


刹那、爆縮とともにその光の球が破裂した。

自滅したものと思ったが、違う。

膨大な煙の中に、大蛇のような図体が見えた。目測で、全長10メートル。体表面は紫色に発光する幾何学模様で覆われている。

煙が払われるとほぼ同時、その大蛇は口を開けた。

口の中から膨大な黒煙が発生している。10数秒後ーーー、高密度の熱線が放たれた。


「来るぞ! 各自、防御結界用意!」


呪力の剣を解除し、私は「心火防魔の陣」を発動する。

周囲にいる皆も、各々の防御結界を発動した。

ーーーだが、結界は熱線が直撃するや一瞬にして掻き消える。

私は瞬時に新たな防御結界を張ることで対応したが、他の人たちは慌てふためき、対応しきれずに次々と灰と化していく。

私の目の前にいた人も、悲鳴をあげながら身体を燃やし尽くされた。

残ったのは、黒焦げた灰だけだ。

だがそれでも、先の熱線で燃焼しきらなかった血肉が私の防御結界にべっとりと張り付いている。

吐き気を催すものの、私は耐えた。

現状を把握するために周囲を見回す。

残存していて戦闘可能な人員は私を含めた新人10人、二軍5人、一軍である火扇、そして付き人と本部長だけだ。最初は二軍含めて30人いたはずだが、相当数を減らされている。

状況は最悪だが、新人全員が生き残っていることについては、本部長に感謝だ。彼の課した無理な訓練のおかげで、生存できているのだから。

私は、相対する敵を見据えた。

前方の大蛇はこちらを睥睨したまま動かない。

おそらくであるが、先の攻撃で生存した私達を様子見することで、次の攻撃をどうするか、考えているのだろう。

嫌な敵だ、私はそう思った。

第一防衛戦の敵は、無数の手を持った図体のでかいクラガリだった。

あのクラガリは、私達を持ち前の圧倒的手数でただ蹂躙し尽くすのみで、思考力のない攻撃が目立った。そのため、火扇が高速戦闘で対応することで勝つことができたのである。

けれど今回の敵は一定の距離を保ち、私達の動向を見ている。と言うことは、信じられないが、私達人間と同じように思考が可能と推測できる。

そうなると厄介だ。攻撃をしようにもその対応策を必ずこうじてくるだろう。

そして、忘れてはならないことがもう一つある。防御結界をもろともしない、あの熱線だ。受けても消えるのでは、呪力がいくらあっても足りない。

私は自分の頬を、一筋の冷や汗がつたうのを感じた。

ーーーでも、瞬時に再度張ることで助かったのは良かった

1回目張った防御結界が、どう言う原理で燃焼して消えたかはこの際、どうでもいい。

対応策としては、「瞬時に再度防御結界を張る」。これだ。

あとは、何とかして奴の隙を見つけて斬りにかかるだけ。

ーーーでも、その隙が見つからない

その隙を見つける方法。それがあればいいのだが……。とりあえず、私は動いた。

防御結界を解除し、狐と共に人を掻き分け、本部長に声をかける。

「本部長」

「なんだ」

本部長が持ち前の防御結界を解除して、私と顔を合わせた。

そしてため息をつき、言う。

「この状況がどうなってるのかわかっているはずだろう。自分の持ち場を離れて、どうした?」

「報告に参りました」

「ほうーーー看破する方法かね」

「いえーーー奴の攻撃は今のところ1回目攻撃を受けて破砕されたあと、結界を貼り直すことで避けるしか……」

「そうかーーー」

「でも」と私は続けた。

「看破する方法は今のところありませんが、私にその隙を見つける役割を与えてもらえませんか?」

火扇が驚いた顔をして、言った。

「このような進言、聞いても無駄です。持ち場に戻らせましょう」

『また無茶を言うーーー』

檜佐木までも、火扇に同調するのかと胸が痛んだ。が、

『ーーーですが、隙を見つけられるとあなたは自信を持って言えるのですね?』

檜佐木が聞く。

私はその問いに、即答した。

「ーーーはい!」

『なら、OKです。言ってやりなさい、「火扇、今回は引っ込んでろ」と』

「そのつもりですよ」

「何を話している」

火扇に苛立ちを含めて、そう言われる。私は、にやりと笑い、火扇に向かって言い放った。

「火扇さん、今回はそこで指を咥えて待っててください」

「何をバカなーーー!?」

「そこまで言うなら、任せよう」

「本部長!」

「ありがとうございます」

「だが、その代わりに失敗は許されない。それは分かっているな?」

「はい」


私は頷き、目の前のクラガリを見据えた。傍らの狐が問う。

『お前、あんなに豪語していたが本当に大丈夫か?』

返答として、私は少し困ったような笑顔を見せた。

「大丈夫」

でも、口にする言葉に力を込めて。

ーーーなぜなら。

「本部長にはまだ『隙を見つけていない』って言ったけど、実はそれらしきものを見つけてるの」

『なに?』

狐が訝しげな顔を浮かべる。

『それは本当に隙なのか?』

狐の追求に、私は少し考えたがそれ以外に思いつかず、頷いた。

「それが正しいかどうかは、検証してみないと」

『ーーーして、その隙とやらは?』

狐に訊かれ、私は答える。


「熱線を放つ直前。私達に照準を定めて、撃ち放つ時に10数秒のフリーズがある。それを狙う」


『待て。それは危険だ』

「どうして?」

『奴はその隙を分かっているんじゃないのか? じゃなけりゃ、煙が払われた直後に放たねえだろ』

「うん。君の言うことは分かるよ。だからこその検証なの」

正直なところ、この隙だと思われるもの以外は分かっていない。

その隙でさえ、「賭け」の域を出ない代物だ。

それを狙うのは、どんなに命があっても足りないかもしれない。

ーーーでも、やらなくては先に進めない

その私の覚悟を感じたのか、狐は苦笑した。そして、言う。

『分かった、やってみろよ。で、俺にやることがあるなら言えよな』

「ありがとう!」

私は狐に感謝を伝えた。

ーーーあとは、奴が隙を見せるのを待つだけ

前方のクラガリに視線を向ける。

そして少しずつ、クラガリとの距離を詰めていく。

クラガリは警戒しているのだろう、こちらを睥睨したまま動こうとしない。

しかし、私が近づくごとにクラガリから発せられる殺気のようなものが強くなっていくのを感じた。

ーーーやはり、私がどう動くか見てる。……なら

私は、試してみることにした。

護符を5枚ほど取り出し、クラガリの目の前の地面に投げつける。

クラガリの眉が少し動いた。

だが、それだけだ。それ以上の動きはない。私はさらに試す。

クラガリの目の前に投げつけた5枚の護符に、呪力を通した。

一枚だけでも、呪力を多少消費するが5枚ともなるとそれ以上だ。それに加えて、式霊を召喚したままである。式霊の召喚、維持も術者の呪力を相当喰らう。そのため、今の私の行為は自殺行為にも等しかった。

だが、目の前のクラガリの警戒レベルを調べるのに、それは必要だと私は感じたのである。

ーーー少しの動きでは、あのクラガリは攻撃に転じない。でも、これなら!

私から迸る呪力の塊に、逆巻く風に変異させるイメージを加えた。

刹那、私から迸る呪力がイメージ通り、旋風へと変貌する。

いやーーー旋風と言うのは生易しい。竜巻が妥当だろう。それにイメージ通りと言う表現も間違いだ。

思った以上。私のイメージを超えている。私の呪力とイメージにより生じた荒れ狂う暴風が、クラガリを包み込み、姿を全く見えなくした。

竜巻は、私の呪力で操作できる範疇を超え、ジリジリと退いていく。

それが通った地面は、深く穿たれ暗闇が覗いた。

それほどまでの呪力の奔流に、中の大蛇はなす術もないーーーと思ったのも束の間。

竜巻の中で、荒れ狂う風の音以外に鳴くような、呻くようなーーー重低音がした。それは耳を叩き、身体を震わせる。ついで竜巻の中で、紫色の幾何学模様が禍々しく光った。

その刹那。

破裂するような音ともに、竜巻が打ち払われる。その余波で、強風が吹き荒れ、後方から悲鳴が聞こえた。大蛇の眼が、燃えるような赤に輝き、口が開く。黒煙が発生した。

私はそれに合わせて、呪力の剣を生成し、右手に宿す。

ーーー勝負だ

大蛇が私に向かって、熱線を放つその10秒の間。

私は呪力を両足に集中させる。

そして、同じように風をイメージ。

変異した風を蹴る形で、私は跳んだ。大蛇にまっすぐに、砲弾のように。大蛇との距離が急速に近づいていく。

残り3メートルも満たなくなった時、見つけた。燃えるような赤に光る核を。それは、大蛇の顎下にあった。

残り1メートル。

私は呪力の剣を構える。

大蛇の口から赤く燃え滾る炎が見え始めた瞬間、私は蛇の下顎を核もろとも、斬りあげるように呪力の剣を大きくなぎ払った。

骨が砕かれるような音ともに、大口が閉じる。ガラスに罅が入るように、核に亀裂が生じた。だが、浅い。複製の波を退かせるには至らない。

大蛇が憤怒の色を目に宿したその瞬間、


「パートナー!」


私は叫んだ。


応じる声と同時に狐が、大蛇の頭上に現れる。


『合わせろ!』


核に狐が渾身の頭突きをかます。

私はそれに乗じて、呪力の剣をもう一度核に叩き込んだ。

その二つの衝撃で、ついに耐えきれなくなった核が大きく砕かれた。その残骸が空気中に舞う。

大蛇が消え始める。しかし、唸り声と共に大口を開け、私達に迫った。

大口の中は熱気が溢れ、その中に入ったが最後、死は免れない。


それでも、生きるために。


空中で身動き取れない中で私は、呪力の剣を構えた。クラガリを睨みつけ、歯をくいしばる。

ーーー来るなら来い。斬りきざんでやる


死が間近に迫っても、喰らい付こうと思ったその時、ーーー本部長の怒号のような指示が聞こえた。


「滅却の火矢、放て!」


ついで、後方から轟音が聞こえた。

風を切り裂き、火炎を散らす多くの音が重なりあった音。

それが瞬く間に接近して、気づいた時には大蛇が数え切れないほどの火矢によって蜂の巣になっていた。

そしてーーー、その数多の火矢から大蛇の体表面に亀裂を入れるように燃やしていく。それは、マグマが大蛇から溢れているかのようだった。

その紅い亀裂が大蛇を侵食し尽くした時、爆発した。爆風により火を纏った残骸が飛び散り、私と狐を吹き飛ばす。

数秒後、地面に叩きつけられたが私達は何とか一命をとりとめた。


ほっと一息つく。後ろから歓声が聞こえた。振り返ると、陰陽師の皆が防衛戦を生き抜いたことに歓喜していた。

肩を組み、「あとで飲み交そうぜ」と口々に言う。「今日は宴だ」と楽しそうに。

その中で、私を睨む者が1人いた。

私はそんな視線を向ける人物を見る。


火扇だった。


彼の顔はこう言っていた。


ーーーそんな無茶がいつまで続くか、楽しみだよ



ーーーーーーーーーーーーーー

第二防衛戦から2ヶ月が経った。

訓練をすべて終了し、私は二軍に正式に入隊することになった。

とは言え、新人である私達はそれでひとかたまりとしてこれからも活動することになるらしい。

とは言え、訓練期間が終了し、肩の荷がおりた気分だ。

とりあえず私は、クラガリについて調べることに本腰を入れることにした。

何故か。以前からもちょくちょく調べていたが、二軍に正式に入隊した今、権限の問題で閲覧できなかったものが見れるようになったので、より情報を取得できるからだ。

とりあえず、温泉宿から出て陰陽師本部へと向かう。

その道中、郷の現状が視界に入った。

郷は、だいぶ復興されてきている。

1ヶ月前の話だが私も業務の一環で、復興作業を手伝ってきたが、それでもまだ足りなかった。

建築やゴミ処理などに慣れてなかったのもある。

でも、今では破壊された箇所が少なくなっており、以前と比べれば、観光スポットとして恥じない郷となっている。

そのために、温泉郷を訪れる客も日を追うごとに増えていっているのだ。

復興作業に当てる資金や温泉宿の広告費などもその客が出すお金から賄えるので、ありがたい。

客にもっと感謝の意を込めて、温泉宿で働きたいと言う思いはあるが、ただでさえ陰陽師の仕事で疲れ果てるのだ。激務になるので少し億劫だと思ってしまう。

そう思って、少し私は苦い笑みを浮かべた。

私はその笑みを紛らわすように、顔をあげた。

空には月が悠然と輝いている。

陰陽師部隊本部の上にある広場ーーーそのまた上に輝く、月。

美しさはある。綺麗でもある。

けれど、月もろとも空を覆い隠さんとする複製の波が、温泉郷を襲撃する時、通る「道」でもある。

その月を睨み、あとはもう目を向けず、陰陽師部隊本部の扉を開けた。


受付係に挨拶し、その横を通り抜ける。そして、二階へと上がって、その廊下突き当たりの図書室へと入った。

ーーー相変わらず、蔵書が多い

ため息を吐きたくなるが、とりあえず自分の求めるものを探しにかかった。

棚を隅々まで眺める私に檜佐木が言う。

『複製の波について、ですよね』

探しながら、

「はい」と私は返した。

『それなら、奥から3つ目にありますよ』

「え?」

私は足を思わず止めた。

「それって、一軍だけが閲覧を許されているものでは?」

『大丈夫。ここに保管されているもののほとんどは、二軍に正式に入隊していれば閲覧OKですから』

違う。私が言いたいのはそうことじゃない。

「いや、奥から3つ目の棚は規定で二軍は閲覧不可なんですって」

そう説明書にあった。

『いえいえ。久城さん、ちゃんと説明書読みました? 規定で記されているのは、一軍の管轄のもの。それは3階にある『特別図書室』を指すんですよ』

ーーーそんなバカな

特別図書室なんて初耳だ。でも、この過去の世界に詳しい彼女が言うのだから、やはりあるのかもしれない。

そんな風に解釈して、彼女の話を聞く。

『ここにも一軍しか閲覧してはいけないものがありますが、細かく言えば「自室に持ち寄って」閲覧してはいけないんです』

「という事はーーー」

『そうです。もう分かりますよね?』

「ここで読むだけなら咎められない」

『その通り! ーーーさて、思い存分調べてしまいましょう』

いたずらっ子のような笑いを含ませ、言う檜佐木に私は少しため息を吐いた。でも、本当に檜佐木の言う通りなら情報が大量に手に入る。

私は内心、期待しながらその棚へと向かった。


私が求める蔵書は、その棚にあった。名は、「複製の波より派生するクラガリとその種類」。目次を開いてみる。

「一章 複製の波とは」

この章に、著者による複製の波の考察が記載されているようだ。

二章は年表。三章からは、その年表に沿う形で陰陽師部隊発足時から今年度までのクラガリが記載されている。

その陰陽師部隊発足時と言うのが、江戸時代後半1867年らしい。

ーーー江戸時代から続いているのか

私は内心、驚いた。

だが、まだ驚くべきことがある。

ある年。

立て続けに、複製の波が襲来した年があった。


25回。


二軍程度の実力でも退けられただけ、そこまで脅威と言うわけではなかったみたいだが、25回は多い。

それに加えて、読み進めていくうちにある傾向が分かった。


複製の波は、第一、第二ーーーと襲来を重ねていくほどに強くなるらしい。


陰陽師は人だ。闘いが続けば疲弊していくのが普通である。

だからこそ、20回を超えたあたりで人死が出たようだ。それでも、その年を制したらしい。


けれど、それは昔のこと。そして、今年度の第二防衛戦のように、知能があったクラガリではない。

私はページをめくった。


第二防衛戦あたりに到達したところで、私はある考えに至った。


もし、強くなるのであればーーー人と同じような知能もより、付いていくのではないか。


そう。第二防衛戦のときのあの蛇には、「相手の様子を見る」という知識があった。だが、最終的に怒りにかられたために動きが単調になり、退治ができた。

しかし、今後はどうだろうか。


より人間的な思考パターンを獲得していくのではないか?


そう思って、私は自分の身体が寒くなったのを感じた。


とは言え、期待していた内容に近い。収穫はあった。

檜佐木に感謝の意を伝える。

のちに、第一および第二防衛戦のクラガリと、複製の波が襲来するその回数が増えるごとに強くなることを鞄の中に入れておいた手帳に記しておいた。


そこでーーーふと思った。


ならなぜ、第一防衛戦で「思考」がないクラガリが出たのだろう。

第二防衛戦から強くなるごとに徐々に思考パターンを獲得する。それは分かった。

でも、江戸時代から続いているのなら「複製の波」は年毎に強くなっているのではないか?

けれど一年が過ぎたら、思考がないクラガリに逆戻りする。


なぜ?


その疑問に、檜佐木も分からなかったのか、何も答えてくれなかった。

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