九章「魂浄祭」
魂浄祭。それは7日間に及ぶ温泉郷の一大イベントだ。私は前日に説明されたことを少し振り返ってみた。
1日目は、温泉郷東口で待機している二軍との合流で終了する。
2日目からは温泉郷内を東、中央、西の順で練り歩く手はずになっている。これを6日目まで続け、7日目には山中を駆け上がり、二軍遠征部隊の体育館に神輿を戻す。
これが、私達二軍遠征部隊の魂浄祭の全貌である。
神輿の収納場所はというと、7日目までは、二軍遠征部隊の神輿を陰陽師部隊本部に収めることができるのでそこに収めることになっている。
魂浄祭の1日目が始まった。
昨日の夜行われたリハーサルでの疲れがまだあり、気怠いもののこの祭りも仕事だ。参加するからにはしっかりとやらないと。
私は気を張って、自室から出る。その足で、体育館(二軍遠征部隊の間では「作業場」と呼ばれている)に向かった。
扉の前まで着くと、ガヤガヤと声が聞こえてくる。
魂浄祭当日は、温泉郷が盛況となる一大イベントだ。陰陽師としての祭りの意味もあるが、温泉郷の売り上げにも貢献したい。
そうとなると、緊張する。心臓がばくばくして、息が乱れる。
それを抑えるために一度深呼吸した。心の中で10秒数え、息を整える。と、だいぶ緊張度合いが減った。私はひと安心する。
ーーーよし、行こう
扉を開け放ち、中へと入った。暗い。だが、暗闇に慣れてくると段々と現状がつかめてきた。
作業場には、東京組と近界組がもう控えていた。
東京組は神輿を囲むように待機しており、近界組はその横で整列している。私が最後だったらしい。急いだつもりだったのだが、私よりも来るのが早い。みんな気合入ってるなと私は思った。
近界組の後ろを早足で通り、東京組の列に並ぶ。
だが、人が多いのかそれともそもそもいないのか分からないが、丸加垣先輩の姿が見えない。
私のように来るのが遅れたのか、と思ったその時、最前列よりも前にある壇上にライトが点灯した。
暗闇に慣れていた時に強い光だ。目がチカチカする。周りからも少し呻くような声が聞こえてくる。
涙で視界が歪んだ。その中で、壇上に上がる靴音がした。
姿はぼやけて、黒い人影にしか見えない。
その人影は朗々とした声で、告げる。
「みんな聞いてくれ!」
けれど、その人影の発した声でだれか察することができた。
ーーー丸加垣先輩?
視界が慣れてくる。紫色の光がまだ残っているが、先輩の顔を見ることくらいはできるほどに回復した。
「私は東京組が1人、丸加垣だ。祭の宣誓を担う役割を頂戴した。
その前に、まずはこの祭りを始める上で皆に、心に留めて欲しいことが1つある」
彼は一度言葉を切り、
「防衛戦においての死者数だ。それが年々増加の一途をたどっている。私たちはこれまで、防衛戦参加資格がなかったことを理由に温泉郷の防衛戦に加わっていなかった。けれど、今年度。この祭りが成功した暁には、次の防衛戦に参加する権限が与えられる。つまるところ、防衛戦に参加する人員が少ないから参加して欲しいということだな」
「ふざけるな」という声が上がる。
近界組の1人、若い男だ。彼は、列から出て叫ぶようにしていう。
「そもそも、上層部が決めていたことだろうが! 何が権限が与えられるだよ、二軍遠征部隊なめくさっていた奴らが防衛戦に対処しやいいじゃんか!」
「ああ、俺もそう思うよ」
丸加垣は頷いた。
「俺たちは、二軍遠征部隊。これまで、上層部の決定で防衛戦に参加すらさせてもらえなかった。与えられたのは、近界組なら温泉郷外二キロ界隈の実体化したクラガリの対処。東京組なら遠征で当右京に行けるが東京内外のクラガリの対処。二軍よりは優遇されていると思っているが、温泉郷内の安全は任せてもらえなかった。つまるところ、俺たちの役割は悪く言えば防衛戦で生き残ったクラガリの駆除ってことだ。残飯処理みたいなものだな」
そうだ、と賛同する声が上がる。上層部の決定なんて知るかと怒声が上がる。
それでも、彼は「でも、俺はみんなと一緒に温泉郷を守りたい」とはっきりとした口調で告げた。
周りのざわめきが静まる。
「白崎川村は俺たちの故郷だ。二軍や一軍だけに守ってもらうのは癪だろ?」
彼は、息を吸い込んで、告げた。
「だからみんな俺を助けるつもりで、まずはこの祭りを成功させないか」
彼のその言葉の後、無音が続いた。
あまりの静けさに耳が痛くなる。
ーーーやはりダメか
と、私が諦めかけた瞬間、「当たり前だ」と賛同する声が上がった。
それに続き、拍手が起きる。
最後には、万雷の拍手となった。
ーーーすごいな、先輩。みんなに愛されてる
人望がある人と言うのは、こういう事だと例を見せられた気分。
周りは盛り上がり、拳を突き上げる。
私はその中で1人、「防衛戦参加か」と心の中でつぶやいていた。
丸加垣先輩が壇上から降りた。東京組に加わり、神輿を担ぐ。
私もそれに続いた。リハーサルの時にも思ったが、神輿はやはり重い。20人単位で持ち上げて、重量が分散されているはずなのに、肩に重しを乗っけているかのように重い。
だが、私達は声を張りあげることで、重さから意識をそらそうとした。と、意外と聞くようで少し感じた。
けれど、人が動き出すと今度は神輿の担ぐ部分が思いっきり肩に擦れて痛い。私は多少涙目になりながら、前の人に続いた。
だが、まだだ。祭の宣誓は終わったが、まだ神輿が外に出ていない。それだとまだ本当の意味で始まったとは言えない。
私は痛みに耐えながら、神輿を担ぎ、歩を進める。後ろの人の息切れが聞こえた。もうか、と思うが昨日の疲れが残っているのもあり、内心突っ込むのにとどめた。
近界組の2人が、扉の前に立っている。彼らが開ければ、本当の意味で祭がスタートする。
私達は、左右に揺れる神輿をそこまで担ぎ止まる。瞬間ーーー扉の前で待機していた2人が、勢いよく扉を開け放った。
外は夜の闇に静まり返り、流れ込んできた風が私達を優しく迎えている。それに応えるように、私達は移動を開始した。
体育館から出て、すぐ。
一番前の人が声を張り上げて言った。
「いいか、お前ら。山中は暗いからな。本当ならリハーサルの通り、温泉郷内に入ってからの式霊召喚だが、足下の安全を確保する意味も兼ねて、当日俺たちだけ召喚が許されている。各々、式霊を召喚しろっ」
その声に従い、私達は式霊を召喚した。20人規模の光の球が飛来し、夜の闇を照らす。その様はまるで、蛍火が集まったかのようで、美しい。
そして、それぞれ主人の足もとに降り立つと、光の球がひび割れ、中から多種多様な式霊が現れた。
私の側には、不機嫌そうな顔をした狐が一匹。他の式霊たちは、主人を守るようにして歩いている。
けれど、狐は『何故、呼んだ』とやはり不機嫌そうな顔で、唸り声をあげるばかり。
私は、「この催しが嫌いなのは分かるけどさ。ほら今、暗いじゃない? 私を助けると思ってさ、隣を歩くだけでいいから」と困ったように笑いかけた。と、彼は嫌々ながらも唸り声をやめ、前を向く。
私はそれにほっとして、進む速さを上げた前の人に続いた。
その調子で暗い山道を西へ。
担ぐ神輿は相変わらず重く、左右に動く。
それでも私は、重さと他の人が動くことで肩を掠る神輿の痛みに耐えた。
しかし、疲れが進む足を本格的に止めにかかってきた。
限界が近い。本部長のしごきに耐えることができたのが嘘みたいだ。
視界が霞んでくる。
汗が吹き出ているからだろうか。目にしみた? それとも、疲れで?
どちらせよ、もうどれくらい歩いただろうか。
そうして、ふらついてきた身体に任せたくなった時、声が聞こえた。
『もうすぐ西口らしいぜ、意識保てよ。俺はてめえが気失ってたら、存在すらできねえんだからよ』
狐の声だ。その声だけじゃなく、一番前の陰陽師が「皆、気を張れ。もう少しだ」と叫んでいる。
「うん」
私は頷き、弱気になりかけていた自分を意識から放り出した。
前を見据える。視界の端には、温泉郷の結界が見える。それが薄いところーーーそこが、東西南北の温泉郷入り口である。そのうちの西口、それはあと目測で10メートル。
私たちは、掛け声をあげながら少しずつ近づいていった。
そして、その西口の前にたどり着く。
先頭が神輿から離れた。一人分減ったことで重量が増す。右肩の擦過傷が押され、痺れるような痛みが私を襲った。それに歯を食いしばって耐えた。
先頭だったその陰陽師は、術式を展開。合掌すること数秒後、思いっきり右の掌を結界に押し出した。
刹那、結界がその箇所だけ5メートルほどの長方形に搔き消え、通り抜けられるようになった。
先頭だった陰陽師が、神輿に戻る。
ついで、重量感が元に戻った。
私たちは、それを合図に温泉郷へと入った。
その時に見た光景ーーーそれは温泉郷に、溢れんばかりの客が私たちのパレードを見に来ていたところだった。
凄まじい歓声とともに私たちを迎え入れてくれている。それに応えるように私たちは声を張り上げ、中央通を目指した。
そして、中央通にたどり着いた時、本部の二軍と合流した。
彼らも彼らで神輿を担ぎ、今は本部に向かって、私たちと一緒に歩いている。
しばらく歩いてーーー中央階段前にたどり着いた。私たちはそこで一度、神輿を下ろした。と、神輿が光に包まれ、階段裏の本部へと吸い込まれていく。
私たちはそれを見送ったあと、糸が切れたように観衆の前で座り込んだ。
息切れがひどい。汗もひどい量だ。
狐はそんな私に、『おつかれ』と言ってくれ、少し気分が楽になった。
こんな調子で1日目の夜が終わった。
2日目の朝、久しぶりの温泉宿の自室で泥のように眠り、夜を迎えた。
その夜の行事も無事、成功を果たす。
3日目の夜からは、第1幕の他第2幕がある。その間は少し時間があるがーーー気が重く感じていた。
そんな折、狐が言った。
『俺は、陰陽師が嫌いだ』
「言ってたね」
『もっといや、この祭りがだな。俺たちを都合よく人間の見世物にしやがるからよ』
「見世物、か。そうだね、祭りの趣旨がクラガリの抑止とは言え、温泉街に陰陽師以外の人を呼ぶわけだもん。式霊には耐えらんないよね」
『お前、今日やけに物分かりいいな。どうした?』
ーーー疲れてるんだよ、とは言えない。
けれど、少し苛ついているのを表現したくなった。
「その言い方、悪意を感じる」
『おいおい、別に意地悪で言ってるわけじゃねえよ』
「ねえ、聞かせてパートナー。君がどうしてそこまで陰陽師を嫌い、怨む理由を」
『少し長くなるが……いいか?』
「いいよ。次の部まで3時間弱あるしーーー」
そう返し、狐を人気が少ない開けた場所まで誘導する。
中央階段をのぼった先の、広場だ。
その山と頭上の月が望める柵に背を預け、私は狐に聞いた。
「ここならいいかな。じゃ、聞かせて」
『分かった』
狐は頷く。『話す前に聞くことがある』と狐は私に聞いた。
『俺たちが、どうして式霊と言われているか、知ってるか?』
「動物の霊を使役するから……だったっけ?」
『ならどうして、甲冑の鎧を着た人の霊のことも式霊と呼ぶ』
「あ」
狐の言葉で気付いた。
甲冑を着た人と、あの時私の首を絞めた影がーーー重なる。
ああ、なんてーーー似ているのだろう。
私の顔はこの時、酷かっただろうと思う。
けれど、その真実に至った時、その意味を知った時、ひどく衝撃を受けたのだ。
「……まさか」
くちびるが震えるのを感じる。
『そうだよ』その私を見て、狐の声がいささか優しくなった気がした。
それでも私が気づき、否定したかったことを彼は口にした。
『俺たち式霊の起源は、クラガリにある』
「そうーーーだったんだ」
悲しみと共に合点がいった。陰陽師がなぜあそこまで式霊を酷使するのか、その理由が。
「でも、どうしてクラガリを……」
『目には目を、歯には歯を。人間は呪力がなければクラガリを相手にできんが、クラガリ同士なら殺し合いも簡単にできる。俺たちは体良く、利用されているわけだな』
胸が痛む。そんな存在、奴隷と変わらないじゃないか。
私たちは、こんなにも繋がっていると思っているのにーーーそれでも、今この瞬間には、狐との距離が離れているように思えた。
ーーーどうして君は、そんな悲しいことを淡々と話すの?
口に出して聞こうと思ったが、うまく言葉にできない。
その私の問いに、彼の代わりに檜佐木が答えた。
『悲しいことですが、それが彼らの存在理由なのです』
声の調子は低く、悲しみに加えて、怒りが混じっているように思えた。
『陰陽師の兵器として使われる存在ーーーそれが彼ら、式霊』
「そう、なんだ」
『さて、これを踏まえたうえで話すよ』
「うん」
『俺には、友がいた』
狐は語り出した。
ーーーーーーーーーーーーーー
今よりも10年くらい前かな。
俺たちは、闇から産まれた。
前後左右全てが真っ暗世界さ。
それでも、怨嗟の声や悲痛な声が混ざった声が、ずっと鳴り響いていた。
最初はうっとおしいことこの上なかったが、何十日、何百日と経つうちに慣れていった。
そして、ある時ーーー光が見えた。
その先に行くと、温泉郷の中。
俺たちは実体化の一歩手前。
黒い靄に包まれていたな。
そう、お前がいつも見ているクラガリの姿だ。
だからこそ、それに詳しい奴には見つかりやすい。俺たちはすぐに、陰陽師の二人組に捕まった。
身体を縄でぐるぐる巻きにされてな。そして、実体化を促進させる術をかけられた。
俺たちの体はみるみるうちに、狐に変貌していき、30秒もすれば2匹の狐の出来上がりだ。
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「前から思ってたんだけど、その鏡は? その時から持ってたの?」
『ああ、この鏡な』
狐は懐かしそうに笑い、そして
『俺の友のーーー遺品だよ』
悲しそうな、それでいて恨みを含んだ表情で彼は言った。
私はそんな彼にどんな言葉をかけていいか分からず、「そう……」と返すことしか出来ない。
彼は、話を続けた。
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さて、出生から陰陽師に捕縛され、無理矢理実体化させられたところまで話したな。
そのあと、陰陽師本部のーーー「クラガリ管理室」ってところに運ばれたんだが、ーーーそう。のちに、人工的に実体化されたクラガリのことを陰陽師は「式霊」と呼称するようになる。
で、俺たちは実体化して間もないから管理することを名目として「光の球」に変化し、温泉の中に放り込まされることになった。
それが相当嫌だったんだろうな。あいつにとって。
俺? 俺もたしかに嫌だったが、捕まった以上、抵抗したら殺されると思って、逆らわなかったよ。
「逃げた奴を探して来い。抵抗するようなら喉元を少し噛んで大人しくさせてからな」
その命令にもな。縄を解いてくれたし、心は捕らえられていたが身体が自由になっただけまだましだ。
俺は本部を駆け出て、奴を探した。
けれど、見つからず、次の日の夜になって悲鳴が聞こえた。
遅かったんだよ。人が食い殺されていた。陰陽師だった。足と首をがっつりとな、食いちぎられていたさ。
俺はそれを報告した。と、陰陽師総出で奴の捜索が始まり、捕縛された時、俺は内心安堵した。
罪はあるが、陰陽師とともに依頼をこなせば許してもらえると。
けれど、それは甘い考えだった。
陰陽師たちは、俺の友を殺すことを決定したんだ。
俺は逃がそうとした。奴の体に巻き付けられた縄を必死に食い千切ろうと努力した。だが、呪力によって編み込まれた縄はそうそう千切れない。むしろ、俺の呪力を吸い込み、頑丈になっていった。そして、時間を無為にし、俺たちは見つかった。
俺は奴から引き剥がされ、「殺さないでくれ」と泣き叫ぶが、聞いてもらえずーーー奴の首に呪力の剣を突き立て、陰陽師は殺した。
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『これが俺の過去であり、陰陽師の闇だーーークソみたいだろ? 』
彼はどれだけの苦痛のもとに生きてきたのだろう。
友の死を間近で見て、それでもなお恨むべき陰陽師のもとにいる。
これほどの苦痛ーーー屈辱、それは聞いた限りでは計り知れない。
『殺したんだよ、俺の友を。
生来の友を。家族でもあったさ!
許せるわけがないだろう?
怒りを、怨みをーーー抑えきれるわけないだろう!』
彼の必死の叫びを聞いて、私は言った。
「でもねーーー私は嬉しかったよ。そんな憎い陰陽師の卵だった私をあなたは助けてくれた。そして今、自分の過去を苦しいのに話してくれた」
彼の身体を抱擁する。外気に晒されているからか、暖かいはずの身体が少し冷たい。それが、陰陽師との確執を現しているように思えた。
ーーーそれでも、私は彼に
「だからーーーありがとう」
精一杯の感謝を、伝えた。
彼は、無言だったが私の腕の中で頷いた。
少ししてーーー
「おーい、時間だぞ」
呼ばれた。私はその声に応え、「行くよ」と彼を促した。
第二幕は程なく始まり、そして無事終了。
4日目から6日目も無事に終わり、7日目の山中の校舎への帰りも無事に終わることができた。
祭は成功である。
そして、打ち上げがその次の日の夜にあり、飲み明かした。
そのまた次の日の朝、頭痛がする中で叩き起こされ、丸加垣先輩とともに東京に行くことになる。
そして今、東京駅に着き、都心部に向けて歩いているところである。
「今回はどういう依頼なんですか?」
「簡単に言って仕舞えば、東京の街に実体化したクラガリがいないかどうか調べることだ」
その道中、先輩が立ち止まった。
門の下あたりを注視している。
「どうしたんですか? 」と聞くと、「焼け跡のようだな」と彼は答えた。
私は彼の隣に立ち、見せてもらった。とーーー、凄まじい焼け跡があった。
「これは、一体?」
丸加垣先輩は言った。
「出火元は、当時の料理店ーーーお食事処と言われていたところからだな」
どうしてか、尋ねてみる。
と、先輩は「考えてみりゃ分かるだろ?」と笑った。私は少し考えてみる。だが、ピンと来ず、「分かりません」と返した。
すると、先輩は神妙な顔で言った。
「本当に簡単なことさ。可能性は二つ。鍋に火を通すのに使う、囲炉裏。煙草の火。それらの消し忘れさ」
「ああ」私は納得した。そして、こう思った。
ーーー現代の火事と、さして変わらない。
それから実体化したクラガリの探索をすること5時間。見つからず、その間は都心部の観光になってしまった。
けれど、昔の東京は現代の東京の原型だったんだなと思うほどに洋風と和風を取り入れており、面白く思えた。
そしてーーー温泉郷に戻って、すぐ。神の下す運命とはここまで残酷なのかと私は思い知った。




