要くんは貧乏だからいじめられる
要くんは貧乏だった。
小学6年生になる頃には要くんが貧乏だって皆が気づいた。
でも4年生の頃は私しか気づいていなかった。
要くんは5日ある授業のうち2日は同じ服を着ていた。
要くんの上靴からは親指が出ていた。靴下も穴が空いてたらちゃんと親指が出ていた。
要くんの髪の毛には白い粉が付いていた。
要君の筆箱は百円均一で売ってそうな布のポーチだった。
要くんの筆箱の中に長い鉛筆が入っていたことはなかった。消しゴムのケースが付いていたことはなかった。
それは放課後、隣のクラスに置かれている落とし物コーナーから文房具を盗んでるからだ。
長い鉛筆やコンパスを盗むと持ち主にバレやすい。そう考えた要くんは、短い鉛筆と紙くずに似た消しゴムを選ぶようにしていた。
要くんは貧乏だった。
お父さんがいなかった。
それでも要くんは綺麗な顔をしていた。
私は綺麗な顔が好きだから要くんが好きだった。
4年生までは、女の子は皆、要くんのことが好きだった。
要くんは元気で明るい男の子だった。
でも、6年生になると要くんは貧乏だから臭いからと陰口を言われるようになった。
要くんは裁かれるのを待っていたかのようにピタリと静かになった。要くんは机に顔を突っ伏すようになった。
女の子は、要くんの綺麗な顔が見れなくなったから、要くんのことが好きじゃなくなった。
中学に入った後も、要くんは机に顔を隠していたみたいだ。
私は、その後の中学の要くんを知らない。
私は、入院することになった。
小児がんが再発した。
パパとママは毎回、目を真っ赤にして私に会いに来てくれる。私のお見舞いに来る前に沢山泣いているのだろう。
私はそんなパパとママの綺麗に染まった赤い頬が大好きだ。
私の髪の毛は全部消えた。
ひょろひょろのガリガリになった。
小学6年生の時の要くんと同じひょろひょろのガリガリ。
思うように動かせない私の手をママは力一杯握りしめた。
「何か欲しいものある?ママとパパが何でも叶えてあげる!」ママは泣きながら笑顔で聞いてきた。
私は「要くんが欲しい」と言った。
3日後、要くんが私の病室に来た。
久しぶりに見た要くんの顔はやっぱりとても綺麗だった。
制服を着た要くんはすっかりお兄さんだった。
ママに頼んでお化粧してもらってよかった。
要くんは私の方を見て少しびっくりしたけど、すぐに笑顔を作ってくれた。
後ろにいたママは涙を流しながら「ジュース買ってくるね」と言って病室を出て行った。
要くんは私の隣に座った。
「要くんが好き」
「ずっと言うね。それ」
要くんが困ったように笑った。
「僕は貧乏だよ。臭いし馬鹿だよ」
「いいの。顔が格好いいから。全部いいの」
「じゃあ僕が事故で顔がぐちゃぐちゃになったら嫌いになる?」
「え」
少し考えた。
「どうなの?」
要くんは回答を急かした。
「嫌いにならないや…」
そう言うと要くんは目を大きく開けてパチパチさせた。
「なんで?」
「私、要くんが放課後に文房具盗むところが好き、ポケットティシュがなくて袖で鼻を拭いているのが好き、図書館にある借りれない漫画をノートに書き写しているのが好き、臭いって言われて職員玄関のアルコールスプレーを体にかけているところが好き」
こうして私は要くんの好きなところを思いつく限り言った。
一つ一つ言うたびに要くんはポロポロと涙を落としていった。
「それは…好きじゃないだろ?」
「好きなの!」
私は要くんの手をかぶせた。握ろうとしたが力が入らなかった。
要くんは、そんな私の手を握り返してくれた。
「要くんが好き。もがいて生きてる要くんの顔が好き!」
「そっか…」
「死ぬってなったらね、お金があるとか良い匂いとか勉強ができるとか関係ないの!好きなものが近くにあるのが1番なの!私の好きは要くん!」
「うん…」
「要くんが好き!」
「そっか」
「要くんは私のこと好き?」
「…好きだよ」
やった両思いだ。
「私のどこが好きなの?」
「僕の名前はカナメ…君の名前はカゴメ…名前が似ているところ」
「え…それだけ?」
「それだけ」
そう言って要くんは立ち上がり私の唇にキスをした。要くんの唇はカサカサしていたし、私の唇もカサカサしていた。
お互いカサカサしていた。
キスってカサカサなのか。
私は6日後、最高のお土産をカナエくんからもらって天国に行った。
だから、ここからは私が空から見届ける要くんのお話。
要くんは通信制の高校に通いながらコンビニでアルバイトを始めた。
お母さんとは一緒に暮らしていたけど世帯分離をした。
要くんは、初めてのバイト代でボトルのシャンプーとリンスを買った。合計で800円ほどだった。だけど石鹸でしか髪と体を洗ってこなかった要くんにとっては大きな一歩だった。
でもやっぱり要くんは臭いままだった。
そして要くんは気づく。
家が臭かったらどんなに体を清潔にしても意味がないと。
要くんは、次のバイト代で有料の黄色いゴミ袋を買い、あらゆる物を捨てた。
お母さんがデートをしている時に一気に捨てた。
そして15年住んできたアパートの窓を初めて開けた。
家が初めて息をしたような感覚だった。
その時、要くんの中で世界の何かが変わった瞬間だったそうだ。
高校を卒業した要くんは大学に進学した。
地元の皆は驚きを隠せなかった。
要くんの進学先は、東京の有名な私立大学だった。企業の奨学金に応募し見事合格。返済不要の奨学金を手に入れた。授業料も成績優秀で免除。
臭くて、馬鹿な要くんはもうどこにもいない。
要くんは沢山友達ができた。
勉強に励み、バイトに励み、全てが順風満帆だった。
でも要くんは彼女を作らなかった。
男友達には「女が発情する顔が嫌い」とこぼしていたそうだ。これは要くんのお母さんが影響している。
あの時の私は、言葉通り死にかけだったから、要くんの中で発情認定をされなかったみたいだ。よかった。
要くんはその後、警視庁の試験を受けて何のトラブルもなく合格した。
要くんは、警察学校、交番勤務を経て、公安に引き抜かれた。
要くんは大きな任務も小さな任務も淡々とこなしていった。
ある日、要くんは任務で大きな国に行った。
日本有事にかかわる重大な任務だ。
要くんは、そんな任務すら淡々とこなした。
任務が無事に終わり、ホテルの部屋に戻ってシャワーを浴びた。浴室から出ると12歳くらいの男の子がベッドに腰掛けていた。
この少年は大きな国が用意した餌だと要くんは気づいた。
ここ最近、女優のような若い女が要くんに近づいてくることが多かった。要くんはもちろん女が嫌いなのでそれを無視していた。
きっと大きな国は、女がダメなら男だと思ったのだろう。しかも子供。要くんを小児性愛者だと思ったのか。なんだか笑ってしまう。
要くんはそんな国が用意した少年の顔をじっくり見つめた。
少年の顔は、あの日の要くんと同じだった。
落とし物コーナーで鉛筆を吟味するあの顔だ。
要くんは腹から大きな声を出して笑った。
少年は少しびっくりした様子だったが、すぐに切り替えた。
訓練されたように上の服を艶かしく脱ぎ、要くんに近づいた。
要くんは懐から拳銃を取り出し、少年に向けた。
少年は「へ?」と初めて声を漏らした。
「日本に来ないか?」
それは要くんの人生初のプロポーズだった。
「へ?」
「だから…日本で僕の子供にならないか?」
要くんは少年に言った。
少年は少し迷った様子だったが、要くんの優しい瞳に思わず首を縦に動かした。
少年はマカルと呼ばれる、国の接待要員だった。
要くんはマカルに日本用の名前を授けた。
「ねぇ要さんこの名前ダサいよ」
少年はぶつぶつと新しい名前に文句を言っていた。
日本に着いて1週間。少年も要くんも打ち解けあったようだった。
「良いだろ。文句言うな」
「いやでもさ…。カゴメって名前さ、カナメさんと1文字しか変わらないよ」
「いいだろ別に。ゴとナは母音違うし」
「ふーん、あっそ。当ててやろうか?」
「何を?」
「カゴメって…要さんが好きな女の名前だろ?」
内藤カゴメはニンマリ笑った。
「勘の良いガキは嫌いだよ」
内藤カナメは内藤カゴメのおでこを指で弾いた。
私は…要くんが好き。
読んでくれてありがとうございました。
この話、連載にしようか悩んでます(^-^)
タイトルは内藤カゴメの女子校潜入日記です笑




