すれ違う心
すすむは色々考えながら帰宅した。春香と会ってから今までの事を、一つづつ思いだしているところだ。春香と二人だけで心の声でお話をしたこと。大勢の人たちの間で春香の耳に響く声を聞いたこと。カンガルーのアニスのこと。熊のクリックさんのこと。ペンギンのルーファや鯨のカナーンのこと。
春香とブランコに乗ったこと。春香の一人ぼっちの学校生活のこと。北の大地の寂しい魔法使いのこと。出会った日の春香は、帰ってこないキリンのテムを待ち続ける恋人で、
二日目の春香は、怖いクマを偏見で見るなと叫ぶお姉さんウサギで、
三日目の春香は、途絶えてしまった希望の中で、一縷の明るさを願う花の女神さま。
四日目の春香は、自分の本当の姿に気付いて、森に寂しく去っていくキツネのコンで
五日目の春香は、寂しいカンガルーのアニスで、独りぼっちのルーファで、仲間のいない鯨のカナーン。そして、そんな姿を客観的に見つめる彼女自身。
六日目の春香は、普通の女子高生。
そして、
今日の春香は、魔法使いになりたいと願っているのに、願いが果たされない少女。おぼろげながら、すすむの頭の中で春香の姿が物語の登場人物と重なりつつもすれ違う。時間の前後や現実と空想がごっちゃになって分類できない。しかし、逆にそれらが融合して一つになると、春香の秘密に入り込んでもっと親しくなれそうな気がするのである。夕食の香りが漂う時間まで、すすむは絵本を抱え込んでいたが、考えはまとまらない。
やがて、すすむはおばあちゃんと向かい合わせに食事のテーブルに付いた。先ほどかかってきた電話では、今日のおじいちゃんはいつ帰るか分からない。おばあちゃんは先に孫に食事をさせようと決めたのである。
「どうしたの?」
おばあちゃんは箸が止まった孫にそう問いかけた。
(ほうれんそう、嫌い)
どこかに無くなっちゃえというすすむの思いは果たされない。きっと、春香ならそんな思いを察して願いを叶えてくれるはずだ。
「好き嫌いは大きくなれないわよ」
おばあちゃんの言葉に、すすむは心の中で返事をした。
(おばあちゃんって、お母さんみたいに言うね)
「どうしたの、お腹は空いてないの? 」
(おじいちゃんはどうしたの? お父さんのところへ行ったんでしょう)
食事をしながら、テレビを見ながら、布団の傍らで絵本を読んでもらいながら、すすむの心は、おばあちゃんとすれ違う。
(もし、ボクが春香さんみたいだったら、みんなぼくの気持ちを分かってくれるのかな)
でも、春香の心から伝わってくる寂しさは、すすむの想像を否定する。すすむは色々考えすぎて寝息を立て始めた。
おばあちゃんはおじいちゃんの帰宅を待ちながら、膝の上で眠ってしまった孫の頭を撫でて
「子はかすがいっていうのにね」
そう呟いて息子と義娘の事を考えた。そして、夫が息子夫婦のわだかまりを、うまく解くことができればと願った。




