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学校

 学校。すすむが見たこともないほど大きな遊び場の端に、コンクリートのビルディングが幾つか建っている。建物の中は幾つもの部屋に仕切られて、部屋の中では、大人の人が一人立っているほか、春香たちは幾つもの列を作って行儀よく座っている。手を挙げて何かを話している人、机の上で字を書いている人、本を読んでいる人、隅っこでは鼻毛を抜いているのまでいる。

 春香もいる。春香は部屋の中央より少し後ろで熱心に、黒板に数式を書く先生を見ており、教科書の端っこに先生の鼻を誇張して似顔絵を描いた。春香は数学が苦手なのだ。

 場面が変わると食事の風景だ。あちこちに幾つものグループが出来ていて、みんな何か楽しげに話ながら食事をしている。

 春香は?。

 春香は屋上で、デザートのリンゴをかじっている。一人で何か遠くを見ている。

 また、場面が変わる。校庭を遊び回る男の人や教室の中で雑誌を見せ合う女の人たちがいる。春香は……、数人の女の人と話をしている。遊びにでも誘われているのかも知れなかったが、春香は笑いながら手を横に振って、一人で本を読み始めた。

 次の場面は帰り仕度をした人たちだ。春香は別の部屋に入って行く。本がたくさん並んだ部屋だ。春香は何冊かの本を念入りに選んで、隅っこの誰もいない机を選んで本を置き、座って本を読んでいる。向こうの机にグループを作って座った数人が春香を見て何かひそひそ話している。春香は彼らに気づかない振りを装っている。

 どの場面も、春香は1人だ。春香は人を避けている。何か人に知られたくない秘密でもあるのだ。

 春香にとって衝撃的な事であったらしい。男の人のイメージと言葉がすすむに伝わった。

「藤森。明日、お母さんと一緒に相談しよう」

 藤森という呼び名が、春香と春香の家族を含めた呼び名だと言うことは分かる。その呼び名に春香の不快感や不安感を伴っているのは何故だろう。

 春香の秘密?

 春香がすすむに隠しておけと言ったこと?

 春香が魔法使いだと言うこと?

 すすむは額に風を感じ、前髪が額を撫でるくすぐったさに目を開けた。春香はブランコで風を感じながら、運動に疲れた体を気持ち良く冷やしているのだ。すすむはその春香の膝の上だ。春香は時々軽く地面を蹴って、鎖に絡めた左腕は、すすむの体を支えている。

すすむは春香の体温を背中に感じながら、首を傾げた。

 いつ、ブランコまでやって来たのだろう?

 いつ、春香は、すすむを抱き上げたのだろう?

 心でお話をするだけではなくて、こうやって移動するのも春香の

能力の1つらしい。

 春香はすすむの心に語った

(今日はお話する暇が無かったわね)

 日が傾いてブランコの影が長い。すすむと春香の影も長い。もうお別れの時間だ。

二人はいつものように公園の入口で手を振って別れた。

(日曜日には朝から遊びましょうね)

 春香は今日の遅刻を穴埋めする約束をした。そして、ふと思いだしたような調子で続けた。

(その代わり、私の事は、誰にも秘密よ)

 すすむは春香に付いて行きたい衝動に駆られたが、独りぼっちで横断歩道を渡った。

 なんとなく、孤独感が自分だけのものではないことが分かる。春香も寂しいということと、春香がそれに耐えているということが、すすむむに少し勇気を与えた。


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