「四つの約束」の世界へ
この日、すすむは待ちきれずに、春香より先に公園にいた。今日の風は優しくて、すすむを包み込むようだった。
(おおきい……)
すすむは公園の広さを考えた。この世の中が、すすむと、すすむの傍らにすわる春香だけの広さなら、こんな寂しさは感じずにすむだろう。公園の片隅で木の切り株に似せた椅子の中で橋から二番目を、すすむは春香の指定席にしている。すすむの隣の椅子に人影は
なく、すすむはそこに座ってすすむに微笑みかける春香の姿を思い浮かべるしかない。
すすむが落ち着きもなくお尻を動かしたり、お尻と椅子の間に指を差し込んでもじもじするのは、お尻の方からじんわり冷たさが伝わってくるばかりで、ちっとも温かくならないからだ。やむなく、すすむは砂場に移動した。気まぐれに幾つか山を作ったのだが、今日は気に入るものが出来ない。すすむは全ての山を念入りに潰して平らにした。
「……」
今日の春香は言葉より先に、感情をすすむに伝えた。不安と心配といたわりが混じり合って、すすむの心に湧き上がったのである。昨日より不安で神経質そうなすすむの姿を見ていたのだろう。すすむに昨日までの好奇心が薄れ、自信を失ったようにしょんぼりと小さく見える。すすむが振り返ると、いつの間にか、すすむの背後に春香の姿があった。春香は全てを察したように黙ったままだ。だから、すすむも黙ったままだ。春香はすすむの横にしゃがんで、視線をすすむと同じ高さにして、ハンカチですすむの涙を拭った。すすむを庇うように、すすむのダウンジャケットのエリをたてて手を引いて誘った。
(寒い風ね。もっと、暖かいところに行きましょう)
暖かいところという言葉に、暖かい仲間がいる場所という感情がこもって伝わってくる。
春香は水のでない噴水の縁に腰をかけて、今日はお腹を空かせていたすすむのためにバスケットからハムサンドを出した。夕食までの中継ぎの小さなサンドイッチだった。ほんのわずかしかお腹に入れなかったカレーライスは、とっくにすすむのお腹の中で消え去っていて、すすむが感じる空腹感が春香に伝わってきたのである。
春香はスケッチブックを開いて鉛筆を走らせた。彼女の指先が濃い線を撫でて、線がぼかされて空間に変わると、荒涼とした墨絵のような色のない景色が広がった。肌寒く、飢えて、気力の失せた感触が、すすむが入り込む物語に引き継がれた。
(さあっ、今日は冒険よ)
春香は心で言葉を伝え、すすむはそれに元気よく返事をした
(うんっ)




