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青春!探偵!ひとだすけ部!  作者: 北極鳥ユキ
第Ⅰ話「ひとだすけの始まり」
9/22

Part8「初めての依頼」

 転校三日目の放課後。

 部室には、空き教室から持ってきた三つの椅子が並んでいた。

 座っているのは、とっても機嫌の悪そうな顔の史家。気が付くと勝手に仮部員にされていた正多。そして依頼人として再び部室に顔を出した彩里だった。


「ねね、録達さ、そんな顔しなくてもいいじゃん。あたし、依頼人だよ? しかも一人目でしょ? もっと愛想を良くしなよ」

「俺たちに依頼したいなら、まずはロッテちゃんを連れてくるんだな」

「んなこと言ったって、今日はバスケ部に行ってるよ」


 二人はずっとこんな感じだった。

 このままでは話が進まないので、仕方なく割って入ることにする。


「……それで、どんな依頼なの?」

「やっと聞いてくれた。もう部長を正多に譲ったら?」

「またサッカー部の名前を出したら追い出すからな!」

「出さないって」


 彩里は軽くあしらうと、ようやく依頼について話し始めた。


「依頼っていうのはね、知り合いが飼ってる猫が迷子になっちゃって、その子を探す手伝いをして欲しいの」


 そう言うと、二人にポスターを見せる。

 黒と茶色の毛並みをした猫の写真と『迷い猫探しています』という文言。ポスターによれば迷子になっているのは『チョコちゃん』というオス猫で、鈴が付いた首輪が特徴だという。


「あたしもポスターを張ったりして協力してるんだけど、まだ見つかってなくて。失踪してから、もう二日ぐらいかな。家猫だから、早く見つけたいんだけど……」


 彩里はさっぱり手がかりが掴めていないと、少し落ち込んだように言った。


 桜鳥高校や正多のアパートがある琴似(コトニ)区は超高層ビルの立ち並ぶ中央区のすぐ隣ながら、戦前の街並みを色濃く残す閑静な住宅街が大半を占めている。

 そんな琴似区は南北に長い形をしていて、ちょうど真ん中に琴似駅がある。

 桜鳥高校や正多の住んでいるアパートがあるのは駅を挟んで南側のエリア。そして、今回チョコちゃんが失踪したというのは北側のエリアだった。 


「と、いう訳で探しに来たわけだが」


 市営バス琴似循環線から降りた史家は仕切り直すように言って「これからどうする?」と両手を上げ、さっぱり分からんという感じのジェスチャーした。


 初めての依頼ということで意気揚々と学校を出たまでは良かったが、当たり前ながら二人とも都合よく猫探しのノウハウなど持っていなかった。


「とりあえず、例の公園から地道に探してみよう」


 正多の提案に史家は頷いて返す。

 二人はチョコちゃんが最後に目撃された勝樺(カチカバ)公園に向かって歩き出した。


 彩里から教えられた情報によれば、迷子猫のチョコちゃんはアウトドア派で、家から勝樺公園にかけてのエリアを歩き回ることが多いのだという。普段であれば夜には必ず家に帰って来るのだが、二日前にそれが途絶えたのだ。


 市立小学校に面している勝樺公園は住宅地の中にしてはやけに面積の広い公園だった。充実した遊具と運動場(グラウンド)、休憩所に広場まである。

 放課後という時間帯もあり、公園内では小さな子供を連れた親子に加えて、多くの小学生たちが遊んでいた。


「あれはなんだ?」


 正多が指をさしたのは公園の中心部に位置している銅像だった。台座にブロンズ板が取り付けられていたので、表記を覗こうとすると史家に止められる。


「んなの見るだけ時間の無駄だ。ほら行くぞ」


 史家は見向きもせずに銅像の横を通り過ぎる。彼に続いて銅像に近づくと、それが銃を持つ兵士の像であると分かった。正多にはそれが粘土で作ったような粗削りの体が、足元の”何か”を踏みつけているように見えた。


 二人は手分けして公園の茂みや、公衆トイレの裏、穴の開いたドーム型の遊具などなど、隠れられそうな場所をしらみつぶしに探すことにした。


「チョコちゃーん」

「おいおい正多よ、名前を呼んだって猫は返事をくれんだろ」

「じゃあどうしろと」


 はぁ、とため息をつきながら自販機の裏を覗き込む。


「ねえねえ、お兄ちゃんたち、何してんの?」


 ふと、そんな子供の声が聞こえてくる。

 振り返ってみれば、いつの間にか周りには小学生たちがぞろぞろと集まっていた。勝樺公園に居るのはほとんどが小学生なので、高校生は物珍しいのだろう。


「迷子の猫を探してるんだ。黒色で鈴の付いた首輪の猫、誰か見てない?」

「みてなーい」

「わたしもー」

「そっか。ありがと。もし見かけたらお兄ちゃんたちに教えて……」

「そこの子供たち! 兄ちゃんたちに手を貸してくれないか!」


 正多が話を終えようとすると、史家が割り込んできた。


「迷子の猫『チョコちゃん』はお腹を空かせて困っているんだ。だから早く見つけないといけない。でも公園は広くって二人じゃ大変だから、みんなにも手伝ってほしいんだ」

「迷子の猫を探せばいいの?」

「そうだ。一番に見つけた子には、俺がおかしを買ってやろう。さあ、どうだ?」

「やる!」「ぼくも!」「わたしも!」


 史家の提案に、子供たちは次々と乗っかった。


「よぅし、猫はこの公園の周りにいるはずだから、近くを探してくれ。でも、危ないところに入ったらダメだぞ? 人の家にもだ。それと車にも気を付けろよ?」


「「わかった!」」


 史家の明瞭な指示の下で子供たちは散り散りになって猫を探し始める。


「子供の扱い方が上手だな」

「まあな。それに、こういう地道なのは『効率良く』やらないと」


 公園にいた小学生たちはたちまち猫探しに熱中し始めた。それは間もなく公園内で軽いブームになって、遊んでいた子供たちのほとんどが参加していた。


 捜索を続けていると日が落ち、小学校の鐘が鳴って帰宅時間を知らせる。


「ぼくたち帰るね」

「おう、今日はありがとな」


 子供たちは鐘の音に合わせて帰宅して、夕暮れの公園には二人だけが残される。

 あれだけの人数が参加したが、手掛かりなどの収穫はゼロ。

 黒い毛並みであることを考えると夜間の捜索は困難を極めそうなので、今日のところは二人も引き上げることにした。

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