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青春!探偵!ひとだすけ部!  作者: 北極鳥ユキ
第Ⅰ話「ひとだすけの始まり」
6/22

Part5「青春の始まり?」

 二人で教室に戻ると、人がかなり少なくなっていた。

 大山を始めとしてロッテの姿もない。どうやら帰宅してしまったようだ。


「ほら、部活系の物語ってさ、序盤は仲間集めから始まるだろ?」

「それで〝ちょうどいい〟俺に声をかけてきたって訳か」


 教室に置きっぱなしだった鞄と上着を回収すると、昇降口に向かって歩き出す。

 中央棟の真ん中にある階段を下っていると、ポケットの携帯端末(デバイス)が小刻みに震えて通知を知らせていた。


「あっ! セータ君!」


 正多がデバイスに目をやるよりも先に、少女の軽やかな声がアトリウムいっぱいに響いた。


 声する方では何人かの生徒に囲まれたロッテが両手を大きく振っていた。

 その周りにいるのは、大山を始めとした面々たち。学校におけるああいう人たちを指す言葉は沢山ある。一軍とか、カースト上位とか、リア充とか。

 いわゆる学校のイケてる奴らで、これまで正多が通ってきたどの学校にも必ず存在しているグループだった。


 史家が『キラキラグループ』なんてふざけた名付けるのも分かる気がした。

 その雰囲気は、まるで自分がこの高校の中心であると疑うことがないような自信であふれている。


 見た目からして、爽やか系イケメンの大山を始め、いかにも運動部っぽいスポーツマンとか、ギャルっぽい女子とか、男女ともに顔も雰囲気も華がある人ばかり。

 教室内で見かけた憶えがあるので、全員二年生だろう。

 彼らのことを見ると、史家の言う分『不相応』が分かった気がした。ごく自然とグループに溶け込んでいるロッテに対して、自分たちがあのグループと一緒にいるような状況は、かなり不自然に見えるだろう。


 ロッテの対等な相手は、大山のような色々とハイスペックな人間であって、平凡な高校生ではない。

 同じ高校に通う十七歳だというのに、世の中というのは実に不平等だ。


 すぐそこにいるロッテがずっと遠くにいるような気がして、少し悲しくなる。


「手を……いや、今度は足を洗ってくる」

「悪いことでもしたのか?」


 一行を見るや否や、史家は逃げるように退散する。

 彼と入れ替わるようにグループから離れたロッテが軽快な足取りでやって来た。


「連絡した瞬間に会えるなんてすごい偶然だね~。いまの人は?」

「クラスメイトだよ。録達史家、隣の席なんだ」

「ほんほん、隣の席の人とお友達になるなんて、マンガみたいだね!」


 興味津々といった感じで言うと、史家が逃げた方を目で追った。

 ふと、ロッテと史家は漫画云々で話が合いそうだなと思った。

 本人が居ないので確かめようは無かったが、もしかすると史家にだってロッテと仲良くなるチャンスは十分にあるのかもしれない。


「ロッテの方も、友達できたみたいだね」

「うん! セータ君のおかげだよ!」

「別に俺は何もしてないよ」


 そう返すとロッテは困ったような顔で、キミのおかげなんだけどなぁと言う。

 しかし、その困り顔はすぐにパッと明るく切り替わった。


「そうそう、それでね、今あそこにいる人たちとお昼ご飯を食べようって話になって、セータ君のことも誘おうと思ってたの。ロクタチ君が戻ってきたら一緒どうかな。近くのファミリーレストランに行くんだけど」

「いいの?」

「もちろん! わたしね、セータ君ともっと仲良くなりたいの!」


 ロッテはずる過ぎるぐらい可愛らしい笑みでそう言ってのける。

 そんなこと言われたら、世の中の男は皆(きっと自分に気があるんだ……)と勘違いしてしまうだろう。

 そう思いつつ、なんだかんだ言って正多も心の中で歓喜していた。


 そのまま「いいよ」と口走りそうになるが、ふと史家のことを思い出して飲み込んだ。分不相応。その言葉が頭をよぎる。


 あのグループの中に入れば、確実に浮くだろう。彼らが仲良くしたいのはロッテであって、彼女が誘ってきた波木正多ではない。つまりは邪魔者なのだ。


 返事を期待するロッテの顔と、その後ろでこちらの様子を伺うグループと、史家が逃げていった廊下の先をそれぞれ見る。


 正多は視線を落としながら、絞り出すように声を上げた。


「ん、ごめん、このあと少し用事があって」

「そうなんだ……」


 返事を聞くと、ロッテは落ち込んだように肩を落とした。

 正多はこれが妥当な判断なんだと自分を納得させる。

 もちろん本当はロッテと一緒に居たいし、話したいし、ファミレスにだって行きたい。でも、それでは史家を独りにしてしまう。まさか彼が一緒に来るわけもないだろう。それに、場に不釣り合いな自分が下手に割り込んでしまうと、せっかく友達ができたロッテの邪魔になってしまうかもしれない。


 だからこれは、仕方のないことなんだ。


 正多は自分を何とか納得させる。平凡な男の子と美少女の出会いはボーイミーツガールの鉄板だけど、世の中というのはそうそう上手くいくものではないらしい。


 あのグループとロッテが親交を深めていけば、関係はどんどん稀薄になっていくだろう。もしかすると、これは最初で最後のチャンスなのかもしれない──もちろん、そういう不安が無い訳ではなかった。


「ごめんね、ロッテ。あっ、でもその……今度、時間があるときに一緒に行ってもいいかな。俺も来たばかりで詳しくないから、近くのお店が気になるんだ」

「もちろんだよ! 今度一緒に行く時のためにちゃんと場所を覚えておくね! あとはメニューと値段、注文の仕方とか……」

「場所だけで大丈夫だよ」


 ロッテは嬉しそうに顔を上げる。

 多分、自分の顔も同じように嬉しそうな表情を浮かべているのだろうと正多は思う。自分でもびっくりするぐらい自然に次の約束を取り付けられて、気分がよくなっていたのだ。

 そうだ、別に今日行かなくても今度があるじゃないか。ロッテとはクラスメイトだし、なにより友達なのだから。機会なんていくらでもある。

 これは始まりなんだ。


「また明日ね! セータ君!」

「うん、また明日」


 ロッテは手を振りながらグループの方に戻っていく。

 合流するとグループは昇降口の方に向かって歩き出した。しばらく視線を向けていると大山ともう一人、名前の知らない女子生徒がこっちに手を振るのが見えた。


「いいのかよ、断って」

「うわっ、びっくりした」


 満足気に見送ると、その姿が見えなくなったタイミングで史家が現れた。


「どうせ、史家は来ないだろ? ロッテは友達できて大丈夫そうだし」

「当たり前だ。あんな奴らと一緒に居られるか。……でも、本当にいいのか?」

「しつこい。良いって言ってるじゃん。それにさ、あのグループに入るのは俺じゃ無理そうだった。正直言って場違いだよ。史家の言う通り、分不相応ってやつ」

「ふーん。でも才能はあると思うぜ。お前は彼女が居たことない非モテだと予想していたが、手際よく約束を取り付けるあたりとか」

「あれは偶然だよ。そんな才能があるなら、とっくにあのグループに入ってる」

「ま、それもそうだな。あの子と話してる時ずっとにやけてたし」


 正多は思わず両手で口元を覆い隠す。


「ははっ、うそだよ、引っかかったな! ま、美少女からお誘いを受けたら誰だって嬉しいからな。別に恥ずかしがることは無いぜ」


 史家はニシシッと口を大きく開けていたずらっぽく笑う。


「しかし、ファミレスか。あいつら青春してるなぁ。羨ましいぜ、まったく」

「ファミレスぐらい普通に行けば?」

「いいか、正多。俺みたいなタイプはファミレスに行かないんだ。一人じゃ寂しいし、かといって一緒に行ってくれる相手も居ないから……」

「悲しい奴だな。っていうか、史家が逃げなければロッテ達と一緒に行くルートだってあったかもしれないのに」

「それはそれ、これはこれ。ところで正多はさ、あいつらのことが羨ましいか? ひと夏の思い出作ったり、恋をしちゃったりとか。かけがえのない思い出をたっぷり作って、一生の思い出だって誇れるような。そんな青春に、お前も憧れるか?」

「はぁ……? まぁ、うん。誰だってそうじゃない?」


 どんな漫画も、どんな小説も、現実だってそうだ。現役の高校生に限らず、将来を夢見る子供も、過去に後悔や未練を残す大人も、皆どこかで憧れている。

 青春は思春期にかけられる呪いのようなものだ……と、正多は思っている。


「でも、そのチャンスが目の前に会ったのに断った。なんでだ? チャンスを掴もうとは思わないのか?」


 正多はむっとした。断った理由の一つには史家の存在だって入っているのだ。チャンスを掴む度胸も無いのか、なんて言われる筋合いはない。


「いいんだよ、別に。あのグループに入ることだけが、その青春ってやつじゃないだろ?」

「そうだ……その通りだ。やっぱ、俺に目に狂いはなかった」


 史家は俯いて、正多には聞こえないぐらい小さく何かを呟く。

 そして顔を上げると、目一杯の力で正多の肩を叩いた。


「いったぁ!」


 肩に激痛が走ったので思わず声を上げる。


「いいか正多、青春を送れるのは一部の奴らだけだ。ほとんどは、俺は、俺らは、その外側にいる。でも、そんなの不平等じゃないか。俺だって高校生なんだから、青春したい!」


 正多は肩を抑えながら、興奮した様子の史家に困惑する。


「いてて。史家はてっきり『青春なんてクソくらえ! リア充死ね!』とでも言いそうなタイプだと思ってたよ。てかほんと痛いな」

「後者は間違いないが……ともかく、憧れているだけじゃダメなんだ。俺らで、あいつらに負けないぐらいの青春を送ってやろうぜ!」

「お、おう?」


 正多はその勢いにのまれるように返事をする。


「ずっと考えてたんだ。どうすればいいのか。今はハッキリと分かる。自分がなすべきことも、どうすればいいのかも」

「えーっと、何の話? いったい何をする気なんだ?」

「お前を部活に入れる! ロッテちゃんも部員にする! 部活を使って、青春を謳歌する!」


 史家は正多に向かって堂々と宣言する。


「いまこそ、王道部活もの青春ストーリーの始まりだ!」


 そして明後日の方向に向かってピシッと指をさした。

 そこに何かあるのかと思って、正多はその指先が示す方向を見てみる。


「あ、いやあの、これはそういうポーズを取ってるだけだから。気にしないでくれ……」


 史家は恥ずかしそうに言った。

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