Part17「生徒会室にて」
考えた末に、生徒会長である大山界人を頼ることにした。
連絡を取ってみると一階にある生徒会室にいるとのことだったので早速向かう。
在室中の張り紙がある扉をノックしてから開くと、室内には数人の人影がありかなり賑やかな様子だった。
大山だけではなく、彩里や、白髪のギャル、運動部っぽい人……つまり、あのグループが集合していたのだ。
大山は部屋の奥にある生徒会長の席に座っている。室内には他に生徒会役員の席があり、更にそれとは別に入り口のすぐ傍にソファーが二つあって、グループの面々はそちら座っていた。
「こ、こんちわ……」
正多が「白髪ギャル」と心の中で呼称している女子生徒と目が合う。かなりイケイケな見た目で、ブリーチであろう白玉団子みたいな真っ白な髪に、アイライン、ピアス、アレンジされた制服。どこをとっても目立つ女子高校生だった。
もう一人の「運動部っぽい人」は背の高い男子生徒で、いかにもなスポーツマンタイプ。ワックスでパーマ風に整えられた髪型から、大山と並んでも遜色ないぐらいに外見に気を配っていることが分かる。
この二人と大山、彩里、ロッテ、それとここに居ない男子生徒一名を合わせて、例のグループを構成している。
正多はこの二人とは話したことすらないので、嫌われているとかそういうのではないのだが、少なくとも彩里や大山のように友好的ではなさそうだった。
「あ、正多じゃん!」
生徒会室で真っ先に声を上げたのは彩里だった。
「どしたん、なんかあった? 生徒会に用事? いま会長しかいないんだけど、大丈夫? っていっても、生徒会は会長と副会長の二人しかいないんだけどね」
いつもどおり彼女は怒涛の勢いで声を掛けてくる。
その流れにやや押されながら、大山に用事があることを伝えた。
「そっかそっか。ほら、界人! 正多が用事だって!」
彩里は入り口で立っていた正多を引っ張っていった。
「彩里も生徒会なの?」
訊ねると、あたしが生徒会に見える? と笑って返される。
「あたしらは界人が一人で暇してる~っていうから、顔出しにきただけだよ。あ、邪魔だったら出ておこうか?」
気を使ってくれたが、その提案は断っておいた。あの二人と同室に居るのは気まずいが、クラスの中心ということは謎の少女について知っている可能性が高い面々でもあるわけだ。
「やあ、波木君。なにか困りごとがあるんだって? 力になるよ」
大山は机の上に置かれたスナック菓子をつまみながら手を振っている。
「今日は録達君は一緒じゃないのかな。それとも、またどこかに隠れてるだけ?」
「史家なら補習だよ」
「え、マジ?」
ぎゅっと革張りソファーの擦れる音がする。
振り返ってみると、ソファーに座って背を向けていた白髪ギャルが体ごと振り返って、まじまじと正多の顔を見ていた。
「補習っていうのは英語かい?」
「そうだけど。どうしてわかったの?」
大山は何故か言い当てる。
史家の補習が英語だと分かるや否や、白髪ギャルは興味を無くしたようで、はぁ~と聞こえるぐらいに大きなため息をついて、体を前に戻した。
「なーんだ。つまんなーい」
「実夜はいつも通りだね。波木君も居るんだし、もっとほら友好的に」
「界人といい彩といい、アンタたち『孤高の天才』に優しすぎ。あんな捻くれた奴、ウチみたいにするのが普通だし。ねえ、仁もそう思うでしょ」
「まあな。アイツは見下してんだ、俺らのことをさ」
白髪ギャルは実夜という名前のようだ。ついでに、運動部っぽい人の方は仁という名前らしい。
ソファーの方からは二人の声が聞こえてくるが、その内容は史家をこき下ろすものだった。二人は余程に史家のことを嫌っているらしい。
「はいはい! 録達の悪口ストップ! そういう陰口は陰で言ってよ! こんな生徒会室のど真ん中、しかも正多の前じゃなくってさ!」
二人を止めた彩里や、何かと史家を気に掛ける大山がどう思ってるかは分からないが、これで実夜と仁の両名が史家のことを嫌っているという事だけはハッキリした。
正直な所、史家がどれだけぼろくそに言われようと──もちろん嫌な気持ちにはなるけど──構わないのだが、それよりも気になる点がある。
「天才って史家が?」
「あれ、知らなかった? 彼は学年首席の特待生だよ」
大山は少し驚いたように返す。
「そこの白い奴はああ見えて勉強ができる方でね。定期試験で学年一位を取るって息巻いてたんだけど、今のところ録達君に連敗中。この前も全国模試でボロ負けしてるんだ。それで拗ねてあんな風になってるわけ」
「いちいち説明しなくていーから」
実夜はむすっとした顔で反論する。
「てか、全国一桁とか取れるわけないっしょ普通」
「全国一桁って……えぇ? じゃあなんで史家は英語の補習を?」
「そこがすごいところさ。英語はダメダメなのに、他の教科は完璧なんだ」
なんだか頭がこんがらがって来る。史家は頭が良いのか。
あの史家が?
そんなに頭が良いようには見えない。っていうか、そんなこと一言も言ってないし、教えてもくれなかった。
「話が逸れたね、ごめん。それで用事って?」
「あぁ……えとロッテが人を探しているんだ。同級生らしいんだけど、名前が分からなくって」
気持ちの切り替えに少し時間がかかったが、なんとか口に出す。
正多から話を聞くや否や、大山と彩里は顔を見合わせた。
「ああ、千崎さんの件……」
まだ具体的なことは何も話していないのに、彩里は人物名を呟く。
「千崎さんって?」
「ロッテが探している女子のこと。千崎ミソラ。廊下側の席に座ってる子」
彩里は既に何もかもを知っているようだった。
驚きつつ、説明を求めるように彼女の顔を見ると、申し訳なさそうな表情で見返してくる。
「そのこと、あたしも相談されててさ。まあ、適当にはぐらかしておいたんだけど……」
「はぐらかすって、どうして」
「別にロッテに意地悪がしたいわけじゃないんだよ? ただ……その、ね、千崎さんにはよくない噂があって」
彩里は続きを話すべきか、迷うように一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「その……簡単に言うと『遊んでる』っていう話でね。街でスーツの男と二人きりで歩いてたとか、夜の街で男と一緒にいるのを見たとか。真偽は定かじゃないけど、クラスに馴染んでいなかったし、噂のせいで更に孤立してる感じかな……」
「気にするだけ損だと思うけどねぇ。あれもあれで、天才様の同類っしょ。どうせ、火遊びしてる自分かっこいーとか、孤独な自分可哀そーとでも思ってるんじゃない?」
「実夜! あんた流石に言い過ぎ」
彩里はソファー越しに聞こえてくる軽口を強めの口調で咎める。実夜はそれで白けたと言わんばかりに背を向けて黙り込んだ。
やや沈黙があり、彩里は眉を寄せて気まずそうな顔を浮かべた。
「まぁ噂もそうだし、お互いのためにならないとも思ったの」
「と、いうと」
「千崎さんは学校休みがちで、人付き合いも苦手っていうか、話しかけても積極的には交流してくれない録達と同じタイプだから、ロッテが一方的に声をかけてもお互い悲しいだけになっちゃうかもって」
話を一通り聞いて、ロッテの行動が腑に落ちた。
たぶん、ロッテは彩里の嘘に気が付いていた。「上手くいかない」というのは、彩里たちに接触を妨害されたことを指しているのだろう。
仮に、明日にでも教室でお礼を言いに行こうとしても、グループに阻止されてしまう可能性が高い。頼ってきたのも直接的ではなく、転校生を挟んで接触しようとしたからだろう。
一通り事情を理解すると、礼を述べて生徒会室を出た。




