Part14「アレがやりたい」
四月も中旬に入ると、雲一つ無いからりとした晴天が目立つようになった。
乾燥した風はまだまだひんやりとしているが、天に輝く暖かな日差しもあって耐えられない程でない。ようやく春の兆しがこの北国まで到達したようだった。
そんな晴天の下、伏見は桜鳥高校の近くにある小さな公園に赴いていた。
入り口から中を見渡してみると、自販機の横にママチャリに跨った状態の史家の姿が見える。彼は伏見に気が付くと自転車から降りてきて、「伏見さん!」と元気よく声をかけてきた。
「こんにちは史家くん。今日はどうしたんですか? 急に呼び出して」
「伏見さんに依頼があるんです」
「依頼ですか? なんでしょう、今度は犬でも探します?」
「そういうのじゃなくってですね……」
史家は改まった様子で「ごほん」と咳ばらいをする。
「ひとだすけ部の目標には『青春をする』というものがあります。そして、ここには都合よくママチャリがあります。ママチャリ、青春、二人組……あとは分かりますね?」
「それってつまり、まさか〝アレ〟ですか」
ふにゃっとした顔から真剣な面持ちになった伏見は、ゴクリと唾をのむ。
「そう……二人乗り。青春物の大定番、チャリンコ二人乗り!」
「って、だめですよ、史家くん。二人乗りは条例違反です。実際に危ないですし、怪我をするかもしれません」
伏見はまた表情を緩めると、ここは大人としてしっかり言わなければ──あとでシュミットさんにどやされる──と思いながら優しく指摘した。
しかし、納得のいかない史家は食って掛かる。
「でもでも、みんなやってるし、青春物語じゃ定番中の定番じゃないですか! 俺だって一回ぐらいやってみたい! お願いします! 一生のお願い!」
「で、でもぉ……」
正直言って彼の気持ちが分からない訳でもなかった。確かに男女二人乗りというのは、誰しも一度は憧れる青春シチュエーションであることに異論はない。
けれど、アレが許されるのは青春の熱に浮かれる子供だからであって、大人がまじめにやっているとやや恥ずかしさすら感じるレベルだ。
「ていうか、なんで私なんですか? こういうのは同級生の女の子とすべきです」
「誘える相手がいないんです……」
「あっ……なんがすいません」
目に見えて落ち込んだ様子を見せたので、余計なことを聞かなきゃよかった、と少し後悔。目線を逸らしがてら辺りを見渡してみると、公園の周りは住宅地で人通りが少ない上に、道幅が広いが車も通っていない。割と安全そうな場所だ。
「ちゃんとロケハンもしました。この時間は人も車も少なくて超安全です!」
「無駄に努力してるんですね」
「このチャリだって、オレンジ色の派手な髪色したぜんぜん仲良くない同級生に恥を忍んで借りてきたんです」
史家はこの日のためだけに、わざわざ彩里から自転車を借りてきたことを思い出して、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
史家に「お願いします!」と深く頭を下げられ、伏見は困り顔を浮かべた。
ここまでされてしまっては断りづらい……。
もう一度、道を見ている。やっぱり人通りも車の通りもない。
この道をまっすぐ進むだけなら怪我だってしないだろうし、それに自分のあずかり知らぬところで下手に怪我をされるよりも少しだけ遊んで、満足してもらったほうがいいかも。
そうしよう、と伏見は自分を納得させた。
「分かりました。少しだけですよ」
「やったぁ! 伏見さん最高! 美人! スタイル抜群! 名探偵!」
「褒めても何も出ませんからね?」
少し照れながら言うと、伏見はおもむろにサドルに跨る。
「あ、伏見さんが前なんですね」
伏見を後ろに乗せるつもりだった史家は渋々といった感じで荷台の上に乗った。
「さあ、出発しますよ!」
「青春に向かってレッツゴー!」
***
「なあ、ロクタチ」
「はい」
「一つ、聞いてもいいか?」
「はい」
「その腕どうしたんだ?」
「聞かないでください」




