Part13「ひとだすけ部」
保護したチョコちゃんはあちこちケガをした状態だった。
どうも怪我が原因で家まで帰れずにいたらしい。事故にあったのか、猫同士の喧嘩にでも巻き込まれたのか。そこは分からないが、見た限りでは傷は既に治りかけの状態で軽い手当で済みそうだった。
どうやらチョコちゃんは昼の間は側溝の中に身を隠し、夜になると公園に出ていたようだ。昼夜で公園と側溝の間を往復移動していた理由は、生存本能から人のできるだけ少ない場所に隠れていたのではないか、という結論になった。
側溝を辿ると勝樺公園に行きつくことに加えて、子供の多い公園は夜になれば逆に人は居なくなるという点から、”迷”探偵である伏見の立てた推理だ。
もちろん、それが事実かどうかは猫のみぞ知る。
「と、いう訳で、無事に保護した」
「よくやったよ録達! あんた天才! ……で、この人だれ?」
「私はしがない探偵です」
ロッテ経由で彩里を呼び寄せると、一行は飼い主の家に向かった。
「はい到着。ここが飼い主さんの家だよ」
「おー、ニッポンのおうちだねー」
ロッテは家の外観に感心するように言った。
そこは近代化された日本家屋と表せるような感じの一軒家だった。屋根のソーラーパネルが際立って不自然に見える、なんとも不思議な外観。家屋の横には生垣に囲われた庭があり、敷地は近所の家々よりは二回りぐらい大きかった。
チョコちゃんを連れ立って敷地に入ると、老夫婦が一行のことを出迎えた。
「彩里ちゃん、迷惑をかけたねぇ」
「彼らが探し出したんです。録達に、波木に、ロッテ。それと……探偵さん?」
「あらまあ、随分と大人数で。ささ、上がってくださいな」
家に入ると線香の匂いがした。
おばあさんに案内された洋室のリビングには仏壇と豪勢なキャットタワーが置かれている。軍人の家なのだろうか、棚の上には幾つかの勲章メダルが置かれている。他にも親子三人の家族写真と並んで猫と老夫婦の映る写真が飾られており、飼い猫を溺愛していたことがうかがい知れた。
チョコちゃんはするりと史家の腕の中から流れ出て、仏壇の前で丸くなる。おばあさん曰く、お気に入りの場所であるらしい。遺影は若い兵士のものであり、老夫婦の息子であることを伺わせた。
「いやはや、チョコは君に懐いているみたいだね」
史家はこの家に入ってから何やら居心地が悪そうだった。熱いお茶と和菓子、そしてチョコちゃんとの交流を楽しむロッテ&彩里とは大違いだ。
「録達君といったかね。珍しい苗字だったから、まさかと思ったが──」
「ぶえっくし! ぶえっくしょん!」
家についてからぷるぷると小刻みに震えていた伏見はついに限界を迎えて、手の中で何度もクシャミを爆発させた。
「ちょ、伏見さん大丈夫ですか?」
「ぜいだぐん、外までつれてってくだざい……」
隣に座っていた伏見が目を真っ赤にして助けを求めてくる。
なんで家に入ったんだろうと思いつつ、正多は伏見を外まで連れて行った。
貰った箱ティッシュを片手にしばらく庭で待っていると、おじいさんと史家が庭に出てきて、歩きながら何かを話していた。少しするとロッテと彩里も出てくる。
「セータ君、これ、おばあさんにもらったよ!」
ロッテは和菓子──最中から羊羹など──を抱えていた。そういえば、せっかく出してもらったお茶と菓子は、誰かさんのせいで食べ損ねていた。
「今回は助かったよ。また遊びに来てくれ。チョコも喜ぶよ。……探偵さんの方は、ええと、その、アレルギーの薬を持って遊びに来てくれ」
「はい……」
伏見はずびび、と鼻をすすりながらと答える。
「それと、録達君、話せてよかったよ」
おじいさんは何やら史家に対しては特に思い入れがあるようだ。史家は特段答えることは無く、小さく一礼だけ返してその場を去る。
正多は史家の様子が変なことに気が付きつつも、なんと声を掛けたらよいのか分からずに、ただ彼の背中を追って家を後にした。
無事に猫を発見することができたことで捜索隊は解散となり、一行は帰路に着く。正多だけは史家に呼び止められて、帰る前に部室に寄ることになった。
「なあ正多。人を助けるっていいことだな」
「なんだ急に。そんな当たり前のことを」
「その、な、改めて実感したっていうか、なんつーか」
「あの家のおじいさんと何を話してたんだ?」
その様子からして、あのおじいさんが影響しているのは間違いない。
勇気を振り絞って訊ねてみたが、「いろいろあるのさ」とだけ言ってそれに答えることは無かった。
「……ともかく、この猫探し活動のおかげで、人を助けるって良いことだと思えた。人を殺すよりはな」
普段とは打って変わって感慨深そうに言ったので、正多は当惑してしまう。
「と、ここで重大発表だ!」
史家が唐突に声を上げる。その口調はいつも通りのテンションだったので、なんだか少しだけ安心した。
「ようやく部活の名前が決まったぞ。すごいだろ!」
「まだ決まってなかったのか? あの『なんかする部』ってのは?」
「それは(仮)だ、カッコ仮。これからは、ちゃんとした部活になる!」
史家は扉にある張り紙を持ってくると、くしゃくしゃに丸めてぽいっと捨てた。
「で、何部になるんだ?」
「ふふ、俺らは今日から……」
にやりと不敵な笑みを浮かべると【W4・第3教室『ひとだすけ部』】と書かれた張り紙を用意周到にポケットから取り出してみせる。
「じゃん! ひとだすけ部だ!」




