絶望
リィナの指が、ユウカの肌に直接触れた。
晒された胸元を撫でる指先は、まるで柔らかさを確かめるように慎重で、愛おしさを込めた動きだった。
同時に、リィナの舌がユウカの首筋を這う。
ぬめりと熱が皮膚に残る。
ゾクリとした震えが背を駆け上がり、ユウカは震えた。
――これが、妄想の中で何度も夢見た感触だった。
(リィナ……リィナ……好き、大好き)
心の中で言葉が溢れた。
自分でも驚くほど、涙が浮かんできた。
抱いてはいけないと抑え込んできた願望が、いま現実となっている。
(……だめだ。演技を……これはリィナの作戦なんだ)
リィナが本気でこんなことをするはずがない。
だから、ユウカも演じなければならなかった。
快感に酔いしれる演技を。
「……もっと、もっとして、リィナ……っ」
本音が、漏れた。
理性が、剥がれた。
抑えていたものが、もう抑えられなくなっていた。
(いいじゃないか、我慢なんてもう――)
この感覚は、嘘じゃない。
リィナの指は優しく、温かく、愛おしかった。
きっと、それがリィナの目的にも合致するのだ。
ユウカは自覚しないうちに、リィナに足を絡めていた。
腰を引き寄せ、肌を密着させるように。
「気持ちいい……気持ちいい、リィナぁ……」
昂ぶった声とともに、感情が沸点に達する。
それに返事するかのように、リィナの指は彼女の敏感な個所に触れる。
ユウカの身体が大きく震え、痙攣する。
はしたなく喘ぎながら、意識が白く塗り潰されていった。
荒い息を吐きながら、ユウカは思う。
(これで……演技は終わり。あとはリィナが、隙を――)
けれど。
リィナはまだ終わらせていなかった。
静かに、ユウカの唇に深く、長いキスを落とした。
舌が絡まり、口内が甘く溶け合う。
まるで恋人同士のように。
そして、キスの終わりには、唾液の糸が引いていた。
「……かわいいね、ユウカは」
囁かれたその声には。嘲りが混じっていた。
一瞬で、背筋が凍った。
その笑い方は、リィナじゃない。
誰かを蔑むような、見下すような笑い方は、絶対にしないはずなのに。
「だ……ましたのか?」
言葉が震えた。
(……違う。これもきっと演技。敵の目を欺くための――)
言い聞かせようとする。必死に、心の中で叫ぶ。
(終わったら、きっと、また笑い合えるはずなんだ。辛い戦いだったねって――)
「私は、もういいや」
リィナが、ユウカの身体から降りる。
その声に、どこか疲れたような音が混じっていた。
代わりに、セラとエリシアがにじり寄ってくる。
影のように、ぬるりと、ユウカに身体を重ねてくる。
「い……いやだ……やめろ、やめて……っ」
せめて――
せめて、堕ちるのが避けられないとしても。
(リィナにしてほしい……)
けれどその望みは、もう叶えられない。
快楽という果実を、一度受け入れてしまった身体。
相手が誰であれ、次もきっと――感じてしまう。
「んっ……あ……っ、や、だ……ぁ……!」
熱と舌と蔓に飲まれながら、ユウカはゆっくりと、
堕ちていった。
それは、少女が少女でなくなる瞬間。
理性を、恋を、すべてを捨てた、華咲く儀式。
こうしてユウカは、
愛に負けた化け物へと成り下がった。