侍の少女
夜の街を、三人で歩く。
盗賊のリィナ、魔法使いのエリシア、僧侶のセラ。
いつもの三人。
笑いながら、話しながら。ごく自然に。
ふらりと、灯火のついた家に立ち寄る。
少しして出てくると、その灯りはもう消えていた。
そしてまた、別の家へ。
灯火が消え、静けさが満ちる。
それを、何度か繰り返す。
「男は、苗床には適してないみたい」
エリシアが囁いた。
「愛を受け入れる器がないから、腐葉土に変えてあげるしかないのよ」
静かに。だが確実に。
街に「愛」が増えていく。
それはとても喜ばしいこと。
――だが。
「キサマ、何をしている」
その声が、夜を裂いた。
リィナが振り返ると、そこにいたのは同じパーテーィの侍の少女――ユウカだった。
「ユウカ……無事だったんだ。ほっとしたよ」
穏やかに微笑むリィナ。
だが、ユウカの目は鋭いままだ。
「何をしていると聞いている」
ユウカは刀を構えた。
その気配は殺意に満ちている。
「奇妙な“気”を感じたので辿ってみれば……キサマ、本当にリィナか?」
「私はリィナだよ、何言ってるの?」
リィナは笑って見せる。
だが、何かが違うとユウカの本能が告げていた。
横で、魔法使いのエリシアが呪文の詠唱を始める。
「エリシア、ダメ!」
リィナが慌てて制止する。
しかし、エリシアの瞳は赤く輝いていた。
「……あいつ、リィナに本気で殺意向けてるじゃない。なら、殺さないと」
火炎魔法が数発、夜空を裂く。
だが、すべてはユウカの読みの内だった。
一閃、気をまとった身のこなしで回避。
次の瞬間には――
「え……?」
エリシアの首が、夜風に転がった。
静寂。
魔法が、止んだ。
「……殺した」
リィナが震える声で呟く。
「物の怪に身体を奪われて生きるよりはマシだ」
ユウカは静かに返した。
だが、リィナの声は激しさを増していた。
「違う! あれは……確かにエリシアだった!」
「少し変わってしまったかもしれない。でも、でも、それでも、あれは……!」
「一緒に戦って、支え合って、信じてきた私の仲間だったのに、どうして――どうして殺したの!」
ユウカは言葉を失った。
リィナのその叫びに、偽りはなかった。
「気」がそう告げていた。
――私は、間違ったのか?
心に迷いが生じたその瞬間。
「ユウカのことなんて、嫌いだ!」
その言葉が、胸を突いた。
「ま、待ってほしい、これは……違うんだ……!」
ユウカは戸惑い、刀を下ろしてしまった。
刹那。
地を這うように、エリシアの身体から這い出した蔓がユウカを絡め取る。
刀は吹き飛ばされ、身動きが取れない。
「ふ、不覚……!」
地面に転がっていたはずのエリシアの首が喋った。
「不覚じゃないわ。必然よ」
「あなたはリィナのことが好き。だから、その言葉が無視できなかった。
「当然じゃない」
リィナが一歩、踏み出す。
その瞳には喜びが浮かんでいた。
「そっか、ユウカは……私のことが好きだったんだ」
「だったら私も、いっぱい、愛してあげる」
優しい声。
壊れた愛。
もう、逃げられない。
夜は、まだ終わらない。