宿屋にて
夜も更け、宿の片付けを終えようとしていた頃だった。
扉が音を立てて開き、冷たい夜風と共に三人の少女が現れた。
「リィナさん!? エリシアさんにセラさんまで……!無事だったんですか!?」
看板娘のミナは思わず大声を上げた。
昼に現れた勇者のティアが「仲間が流された」と真剣な顔で訴えていた。
それは街の中でも騒動になり、ギルドでも救出部隊が結成されつつあったのだ。
「……ああ、やっぱりティア、帰ってこれてたんだね」
盗賊のリィナが静かに微笑む。
その笑顔はどこか懐かしく、それでいて――ひどく艶やかだった。
「冒険者ギルドでは、大騒ぎだったらしいですよ!」
「ふふ、ティアらしいね」
魔法使いのエリシアと、僧侶のセラが小さく笑う。
気づけば三人に囲まれていた。
距離が、妙に近い。
「え、えっと……それじゃあ、ティア様に無事を伝えに行かないと」
「今は君のほうが大切かな」
リィナが、冗談めかして言った。
でもその目は笑っていなかった。
(――ドキッ)
胸が跳ねた。
リィナはずっと格好良かったけど……今日は何かが違う。
空気が、熱い。肌がざわめく。
「も、もうっ、冗談はやめてください!」
「君のことが好きだって言ったらどうする?」
真っ直ぐな視線。
冗談じゃない。これは本気だ。
でも――でも、それは、急すぎて。
「わ、私……っ」
逃げようと一歩下がると、すぐ後ろにセラの柔らかな体が当たった。
もう後退できない。
「あ、あの……っ」
言葉にならない戸惑いの中で、リィナの顔が近づいてくる。
息が、かかる距離。
瞳がとても綺麗で、離せなかった。
そして、唇が重なった。
驚く間もなく、舌が入り込んでくる。
いやらしい。だけど、なぜか心地よい。
まるで甘いお酒を飲んだみたいに、頭がふわふわする。
「……ん、ふ……っ」
唇が離れても、目が離せなかった。
リィナの手が、いつの間にか服の中へと滑り込んでいた。
(だめ……こんなところで、だめなのに……)
せめてベッドへ――と願ったその時。
身体が軽くなり、床に背がついた。
押し倒されたのだと気づいたのは、彼女が自らの服を脱ぎ始めたとき。
胸元に、花が咲いていた。
白く、美しく、あまりにも不自然に。
「……綺麗……」
知らないうちに言葉が口をついて出た。
それが、何を意味しているのかもわからないまま。
リィナがミナを見下ろしながら微笑む。
その笑顔は、穏やかで優しくて、けれど――なぜか少し怖かった。
「私の愛を、受け入れてね」
その声と共に、柔らかな唇が再び落ちてきた。
背中がぞくりと震え、肌に指先が触れるたびに甘い熱が走る。
もっと欲しい、もっと触れてほしい。
そんな想いが、心の奥からふつふつと湧き上がってくる。
もう、誰にも止められない。
街を侵食する華は、こうして根を下ろし始めた。