愛する心
彼女たちから生えた蔓が、胸にまで根を這わせてくる。
肌をなぞり、脈動するように脈打ち、ぬるりと内側を撫でる。
それは快楽というより、意識の輪郭を溶かしていく侵略だった。
「っ……やめ、やめて……!」
喉の奥から絞り出すような言葉すら、熱く溶かされる。
誰かの舌が唇をなぞり、笑う声が耳元をくすぐる。
「ねぇ、リィナ……すごく、気持ちよさそう」
それはエリシアの声。
昔はあんなに、冷たくて棘のある言葉ばかりぶつけ合っていた。
けれど、それも懐かしい。
いつからか、同じ作戦を立てるようになり、同じタイミングで魔物に斬りかかり、笑い合えるようになっていた。
本当は、あの時間が好きだった。
ふたりとも不器用で、でもお互いを認めていた。
「リィナ……私ね、昔から、あなたがいないとダメだったんです」
セラの声。
幼馴染。ずっと一緒だった。
病弱だった彼女を背負って山道を越えた記憶。
初めて魔物を倒した帰り道、手を握って震えていた彼女の指先の温度。
全部――懐かしくて、愛しい。
「だから、お願い……一緒に、咲きましょう」
蔓が胸を締めつけ、花弁のような愛撫が腹を、脚を、内ももを撫でる。
快楽が波のように襲ってきて、頭が真っ白になる。
それでも――必死に考える。
(だめ……だめ、だめ。こんなの、違う……!)
彼女たちはもう人間ではない。
笑顔も言葉も、すべて果実の甘い幻覚かもしれない。
ここで流されれば、もう戻れない。
「……お願い、元に戻って」
小さな呟きが、蔓の中に溶けていく。
目尻から、一筋の涙が滑り落ちた。
その涙を、エリシアが唇で受け止めた。
セラが頬を撫で、耳元に囁く。
「私たちは、何も変わってませんよ」
「貴女を好きなままです、それはずっと変わっていません」
私の周囲は、やわらかな愛撫の牢獄。
ふたりの舌と指先と蔓が、意識の端を溶かし、骨までやさしく包み込んでいく。
「……っ、あぁ……ぁ……」
気持ちいい。怖い。くやしい。苦しい。
だけど、こんなにも愛されて、こんなにも幸せにされて。
心が静かに、ゆっくりと――折れていく。
ああ、こんなに気持ちよくて。
ふたりも幸せそうなら……。
……もう、いいのかもしれない。
意志の灯火が、花の熱に溶けた。