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1章 不死の男 1ー8 決意

ホロは戦地に行く決意をする。

 僕とダアトは、王が住んでいた王城の中の居室ではなく、王城の外、すぐ近くにある客用の屋敷で寝起きしている。と言っても広さはそれほど変わらない、客用の屋敷の方が大きいくらいだ。王は無駄遣いが嫌いだった。大きい屋敷は多くの使用人が必要になることを嫌い、民と同じ作りの家に住んでいた。現在王の住んでいた屋敷は、リーチ医師を主導として念入りな消毒が行われているとのことだ。


 ダアトはいつも朝が早い。僕が目覚めるといつもいない。僕はベッドを降りて、布を両肩を覆うように巻いて腰で止める。その上に薄い外套を纏い、一つのピンで止める。一般的な町人の格好、簡素な外着に着替えて箒を持って庭を掃除していると、裏庭から何やら声が聞こえた。


 箒を持ったまま覗くと、シールースが槍を構えて、スイキョウが指導をしている。


「腰を落とさないで。脇を締める。足は開かない。内股でバランスをとる。そう。これだと前後自在に動ける。

 目線は相手の目だけど、視界全てで相手を感じて。相手の手元にとらわれず、相手の足元にとらわれず、全体を見る。

 山があって、その上に木がある。木の上にはカラスが二羽止まっている。あなたはカラスを見ているけど、視界には木も山も見える。

 貴方ならできるはず。」


 スイキョウは棒を持ってシールース将軍の姿勢を正している。


「突いた速度と同じ速度でこの姿勢に戻るの。最初はゆっくりでいいから、やってみて。」


 シールース将軍は人体を模した藁の束に、気合を発し突き、槍を戻した。


「腰が低い。足開いてる。すぐガニ股になる。

 もう一回。」


 スイキョウはぽんぽんぽんぽんと指摘した箇所を軽く叩き矯正する。


 シールース将軍がもう一度突く。


「戻すのは早いけど、それを意識しすぎて踏み込んだ足に体重が乗ってなかった。ゆっくりでいいからね。

 もう一回。」


 スイキョウは足を叩く。


 シールース将軍がもう一度突く。


「手だけにならないで、体全体で突く。

 もう一回。」


 二人は真剣だ。


 僕は声をかけた。


「おはよう二人とも、僕にも教えてくれ。」


 二人は手を止めて礼をした。


 シールース将軍は自身の使っていた槍を手渡しが、僕にはその槍は重すぎた。一緒に倒れかけたのを、シールース将軍が慌てて槍を持って支えた。


 スイキョウが木刀を渡しながら言う。


「ホロ殿はこの木刀でも振っていてくだい。」


 僕はぼやく。


「ぞんざいだなぁ。」


 スイキョウは澄ました顔で


「今日はシールース将軍が先約でしたので。」


 と告げると、僕に木刀の握り方と振り方だけ教えて、あとはシールース将軍に付きっきりだった。


「スイキョウは義理堅いなぁ」


 しばらく真面目にやっていたが、掃除の途中だったことを思い出し、スイキョウに木刀を返して掃除に戻った。


 掃除から戻ると、ダアトとマースが朝ご飯の用意を済ませていた。


「もう少ししたら、スイキョウが来ると思うから、一緒に食べよう。」


 マースが微笑んだ。


「やはり、血ですかねぇ。私は長兄のシウン様の邸宅で料理したこともありますけど、シウン様もよく皆を待って食べてました。」


「そりゃそうだよ。」


 しばらくしてスイキョウが戻ってきて席についた。僕は祈りの言葉を捧げ、三人がそれを復唱して食事になった。


「シールース将軍も連れてきたらよかったのに。」


「私もそう言ったんですが、結構な恥ずかしがり屋で。」


 スイキョウが短く答えた。


 食事が始まって呟くように口を開いた。ダアトに向けて、言うことがある。


「ダアト、いつも僕に着いてきてくれてありがとう。君が着いてきてくれるから、僕も正しい方向に進もうと努力できる。」


 出し抜けに僕が言うからか、ダアトは戸惑った顔をした。でもダアトは知っている。「(こう言う時、ホロはひどいことを言う。ホロが13歳の時、中原の店に行く、と言った時もそうだった。)」それが顔に出て、ダアトは嫌そうな顔をした。


「何?急に。」


「僕は戦地に向かう。」


 と言うとダアトは


「あー、そゆこと、ね。」


 と、予想していたのか驚かない。が、かなり腹の立った顔をしていた。


「前から決めてたの?」


「昨日の夜考えていて、今朝掃除しながら決めた。」


「今朝かぁ。今朝なら、どうかな」


「許容範囲内?」


「ぎりぎり許容範囲外。」


 ダアトはパンを食べた。腹が立つとお腹が減るらしい。


「なんで行くの?役に立たないでしょ。」


「怒ってるの?

 ・・・いっぱい理由はあるけど、僕が行かないと、兵士はやる気でないでしょ。番頭がいなっから、大店の皆はさぼるでしょ?そんな感じかなぁ。」


 ダアトは首を傾げた。そうかなぁ?


「死んじゃったらどうするの?」


「できるだけ後ろにいるよ。」


「私も行く。」


 と言ったが、僕は首を横に振る。


「却下します。危ないでしょ。」


「危ないのはホロも一緒でしょ。

 ・・・まったく、ホロは一度決めるとなかなか曲げないからなぁ。」


 ダアトはスイキョウを見た。


「ねぇ、スイキョウお願い、ホロと一緒に行って守ってあげて。」


 僕が口を挟む。


「それもだめ、スイキョウには絶対ダアトを守ってもらう。もともとそういう約束だし。それに君に何かあったら」


 それ以上は言わなかった。


 あの村でスイキョウに出会わなければ、セバンにその役目を頼むつもりだった。


 ダアトは首を傾げて尋ねる。


「君に何かあったら?その先を言ってよ。」


「言わない。」


 考えて言う。


「とにかく、これからこういうことは何度も起こるんだよ?将軍達の家族は皆それに耐えて暮らしているんだ。強くならなくちゃ。」


 皆そうしてるから、これは結構有効な手だ。


 ダアトはそうかなぁと考える。


 僕は続けて言った。


「手紙を書くよ。」


 ダアトは納得してない顔で頷いた。

 

 朝食を終えて王宮へ向かうと、レオン将軍がボロボロの青年を肩に担いで歩いていた。


「おはよう、レオン将軍。その人は?」


「おはようございます陛下。ん?ああ、これですか。私の愚息です。」


「息子さん?あら、どうしてそんなことに。」


「いやあ。」


 聞くと、朝の調練の時ジェンハッドが指揮をしていたのだが、その時レオン将軍の息子は部隊長をしていた。体格も良く、気が強いので一向に指揮に従わなかった。一度は見逃したジェンハッドだったが、二度目は激怒し、


「指揮官の命令に従わない隊長は軍規違反に照らし合わせ斬刑に処す。」


 と宣言した。慌ててレオン将軍は赦しを得るために自分の息子をぼこぼこに殴ったということだった。


「ちょっと水でこいつを冷やしてきますわ。

 命拾いしたなぁ、倅よ」


 はっはっはと笑うと、レオン将軍は去っていった。


 王城は本丸の周りに倉庫や文官の働く資料室があり、王や武官文官、使用人の邸宅があって、その周りを壁で囲んでいる。王城の入り口から入ってすぐの大広間で、調練は行われていた。


 ジェンハッドの号令に400人程が一斉に動く。先の件もあってか、特に部隊長は必死だ。


 僕はしばらくその様子を見ていた。


「(ジェンハッドは言うだけあってさすがだなぁ。これは期待できそう。)」

 

 僕はその横を抜けて、謁見の間の左にある建物、倉庫に向かった。


 倉庫は三つあり、食糧用、武器庫用、貴重品用と大きさも高さも違う。それぞれ見張りが二人立っていて、出入り口は一つしかない。


 ちょうど食糧用の倉庫の入り口にセバンを見つけた。セバンは何か紙を手に持って見つめ険しい顔をしていた。


 これは都合が良いと声をかける。


「おはようセバン大元帥!」


 セバンは僕を見ると


「おやようございます、陛下。」


 と声をかけたものの、そのなりを見て眉を顰めた。


「陛下、人目のつくところでそのような格好は困ります。」


「ん?」


 自分の服は、商人の時に使っていた服だが、


「おかしいかな?」


「今後陛下には王としての威厳を損なわないようにしてもらわなければなりません。まず形からでも入ってもらわないと。」


「そうかい?

 でもまだ、礼装の仕立てが済んでなくて。正装よりも簡単な作りのやつ。」


「発注者を調べて締め上げておきます。」


「よせよせ。それよりも貴重品用の倉庫に一緒にきてくれ。」


 二人はそちらに向かう。その間もセバンの小言が止まらない。


「衛兵は何をしています。先日雇ったスイキョウという者はどこで油を売ってます?」


「彼女はダアトの衛兵だ。落ち度は無いよ。」


「陛下の戴冠のパレードの日程はどういたします。」


「国民の前であのぶかぶかの正装を着て転んでみろ。収拾がつかなくなるぞ。

 それに火急の時期だ。

 国民にはそうだな、書面で出して炊き出しでもしたほうが喜ぶかも。軽罪の恩赦とか。そっちは任せる。」


 貴重品の倉庫の2人の門番に言って倉庫の中に入った。貴重な北の動物の毛皮や絹織物の他に貴金属類。高級な、装飾の入った鎧なども置かれている。防腐処理は定期的にやっているはずだが、カビ臭い。高めの位置に光を取り入れる窓が開いていて、昼間は灯りを使わなくても十分に見えるようになっている。この構造はどの倉庫も同じだ。


 中で管理の仕事をしている人達に声をかけ、僕は目的の品を探した。


「あ」


 ぶかぶかの正装を見つけ手に取る。忌々しい。思わず眉根が寄る。


 僕の顔を見て勘違いして、管理者が慌てて取り繕おうとするが、


「良い、決して仕立て屋には出すな。どうせもう着ることはない。」


 と宣言した。女性の管理者が青ざめる。


「あ、いや、そんな青ざめないでよ。怒って言ったんじゃないから。ね。もっと簡易な礼装は仕立て屋に出してるんでしょ?だったら問題無いよ。

 泣いちゃったよ。大丈夫だから、君に言ったんじゃないから。」


 僕はそう言ってなだめてから、鎧のある棚に近づいた。


 セバンが不審に思って聞く。


「何を探しておいでで?」


 僕が答える。


「ん?なに、僕に合う鎧が無いかと思ってね。」


 セバンが驚く。


「まさか、戦地に赴くつもりですか?馬にも十分に乗れず、剣も持ったことが無い貴方が。」


「ナチュラルにディスるよね。」


 僕は鎧からセバンに顔を向けて言った。


「だからこそ行くんだ。そんな僕だから行くんだ、考えてもみろ。これから戦争という時に、矢の届かない場所でぬくぬく暖かい布団で寝起きする、血統だけで王になった者に、兵士が命をかけられるかよ。そうだろ?」


「しかし、貴方にもしものことがあったらこの国は終わりです。」


 僕は管理者を遠ざけて、セバンの言葉を遮る。そしてセバンの近くで言う。


「僕に戦場で何かあったら、ダアトとの結婚が成立し、ダアトが配偶特権で王位を一時継承するように手配している。ダアトは僕より適任だよ、まあ、流石にダアトは戦場に出せないな。」


「文官達が難癖をつけますぞ。せめて婚姻の儀を済ませてもらいませんと、揉める原因になります。」


 僕はセバンの両肩に手をかけて言った。


「察してくれセバン、察してくれ。今はただの女性だから意味があるんだ。結婚が成立していない限りダアトは狙われない。それに、戦地の方が僕にとっては安全なんだ。昨日の謁見でそう感じた。」


 セバンは、まさか、と呟く。


 僕はセバンの肩を叩く。


「まあそれも、生きて帰ってからの話だ。今は全力で戦争に力を傾ける時だ。」


「わかりました。

 しかし、いずれは血の繋がっているものにと言う流れになるでしょう。」


「そうだね。

 ・・・姪がいただろう。シウン兄さんの子供の。今どこに住んでるの?」


「ストラス国に帰っております。ストラスの教育の影響が強いかと。」


 セバンは嫌そうに顔を顰めた。


「ううん、そういえばヒツマー将軍は?結構近い血筋だったと思ったけど、姿を見ないね、南のサウスロノウェにいるの?」


 ヒツマー将軍は長兄のシウンと歳が近くて仲がよく、当時自分も遊んでもらった記憶がある。長身の偉丈夫だった。


「そうですね、ヒツマー将軍が健在ならば血筋も近いし問題無いです。しかしながら、長兄のシウン様が亡くなられてから所在が知れません。」


「そうか、残念だな。・・・レオン将軍やカリオフ将軍も血の繋がりがあるって聞いたことがあるけど。」


「確かにあります。ありますがそこまで遡ると、在野の有象無象を血縁者と立てて国家転覆を企む逆賊が現れかねません。」


「ううん。そうか。

 まあ、それは僕が死んだらだ。今は死なないように鎧を探そう。」


 セバンは頷いた。


 鎧探しを再開する。「これがいいと」と白と金の見事な装飾の鎧を選んだ。サイズもぴったりで、装飾も見事だ。


 セバンが口を挟む。


「陛下、それは400年前の鰐の大陸で行われた戦争の伝説の英雄アレクの鎧のレプリカで大変高価です、おやめください。」


「ええ?そうかい?これがいいんだけど、なんとかインチキできない?」


「国の宝は陛下一人の宝では無いのです。

 こちらの黒鉄の鎧はどうでしょう。見てください、この傷の数を。この鎧は決して矢は通しません。安心です。」


「これサイズ大きいし、すごい重いよ。」


「武器庫の方にうつりましょう。そちらの方が鎧は種類があります。」


 しばらくしてようやく二人の納得する鎧が見つかった。

 

 その後、僕はセバンに武官とジェンハッドを集めてもらい行軍の相談をした。

 

 現在東の都市イーストロノウェにはカリオフ将軍の副将クロス将軍と、4000の兵が滞留している。


 攻撃目標の小都市リトルグロウは情報では兵が3000程守っている。


 早速イーストロノウェへ向かう人選が行われた。


 向かうのは僕、ジェンハッド、カリオフ将軍、シールース将軍で、6000の兵とした。合流したら計10000になる。


 僕は呟く。


「思い切りすぎたかな。」


 ジェンハッドは言う。


「圧倒的な戦力で短期決戦を狙います、これでも少ないくらいです。それに、このリトルグロウ攻めはあくまで準備です。」

 

 編成に時間がかかったが、とにかく出発の日が来た。


 僕とシールース将軍は毎朝スイキョウに稽古をつけてもらっていた。


 出発の日の朝、僕はダアトを抱きしめて、どうか健やかに、と伝えた後、スイキョウに、ダアトを頼む、と特に言いつけて出ていった。


 ジェンハッドの号令で、一行は進み出した。王宮から城下町へ。セバンの手回しか、住人が歓声をあげたり、花びらを巻いて歓迎した。


 僕は赤い鉄の胸当てと兜、その他を動きやすい皮鎧に身を固めて一行の中心にいた。途中僕と目があった子供達が不安そうな目をしていた。


 いや、不安なのは僕だった。僕が不安だから、皆僕を怪訝そうに見るのだろう。


 僕は軽く手を振った。できる限り、なんでも無い顔をするように努めた。


 わずかだが、子供達の顔が緩んだように思う。手を振り返してきた。


 若干風が涼しくなった九月、この大陸では九月からは冬季。その入り口だ。

一ヶ月が二十一日から二十二日で、一年は十六ヶ月から十七ヶ月。毎月十一日はこの大陸で祝日に定められている。一月から八月までは夏季、九月から十七月までは冬季。十六月から始まる雨季は、地域によっては三月から四月まで続くこともある。

ホロ:主人公 16歳 ヒューマレース 天然パーマのモジャモジャ明るい髪、身長165程度 眠そうな二重の目

ダアト:18歳(?) ストーンレース ホロの婚約者 石質の褐色の肌を持つ 銀髪が肩まで 身長165程度

マース:38歳 ヒューマレース 王宮の使用人 肩までの黒髪をポニーテールにした女性 身長150後半

セバン:50歳 ヒューマレース ロノウェの大元帥 ホロが幼い頃の敎育係 肩までの髪を中分け 身長180後半

レオン将軍:50歳 ヒューマレース ノースロノウェ将軍 金髪 ライオンのような髪と髭 身長190弱

シールース将軍:61歳 ヒューマレース ウェストロノウェ将軍 下顎とお腹(筋肉)が大きい 茶髪 オールバック 身長200 いつも笑顔

スイキョウ:6000歳越え ストーンレース 褐色に日に焼けたブロンド 緩やかなウェーブの髪が肩を隠す程 身長250

ジェンハッド:?歳 ツリーレース 戦争マニア 赤髪、肩に届くぐらい

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