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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

海底の探しもの

作者: 赤猿

 暗く冷たい海の底。



 沢山の海藻と岩に囲まれたその場所で、彼女は生きている。



 あの日、波に奪われたものを探して。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「行ってきま〜っす!」



 玲奈(れいな)は元気に玄関を閉じ、歩き慣れた道を進む。その背中にはまだ綺麗なランドセルを背負って。


 そんな背中を眺めながら大輝(だいき)は、キッチンに立つ千枝(ちえ)に話し掛ける。



「……あの子、また背が伸びたね」


「そう?」


「あぁ、伸びたさ。千枝はずっと一緒に居るから分からないのかもね」



「……そうかもね」



 千枝はカレンダーを捲る。



「次に帰って来るのはいつになりそうなの?」


「うーんそうだな……多分来月の頭くらいには」


「えー遅くない? そんなんじゃ玲奈すぐ大人になっちゃうよ?」



「……僕だって一緒に居たいよ」


「……ごめん。イジワルしちゃったね」



「……今日さ、久しぶりに……どう?」



「……良いよ。それじゃ! 私パートだから」


「うん! 気をつけてね」



 千枝はバッグを持ち玄関を開く。




「行ってきます」


「いってらっしゃい!」


 大輝は小さくガッツポーズをしていた。





 千枝は自転車に乗ってパート先のスーパーを目指す。その足取りは軽く、少し上機嫌に見えた。



「……今日はカレーにしようかな」


 そんな事をつぶやきながら携帯を確認する。メールの欄にはパート先で休みが出たとの報告があった。



「げ、今日大変じゃん…………っ!」


 軽く地面が揺れる。



「ビックリした……地震?」



 千枝が確認の為に自転車を降りた時、大地が激しく鳴動する。街路樹が泣き喚き、電柱が音を立てて揺れた。



「……大きいっ……玲奈!」


(多分まだ学校着いてないよね……!)




 千枝はすぐに玲奈の元へと向かおうとする。しかしその揺れは収まるどころが次第にその大きさを強めていった。


 千枝はその場に、うずくまる事しか出来なかった。



「キャアっ!」


 塀が音を立てて崩れる。崩れたブロックは千枝の左足に直撃した。



「うぅ……!」


(痛い痛い痛い痛い……! これ……折れてる?…………玲奈!)




 ようやく揺れが収まった。


 街路樹は倒れ家は半壊、まさに悪夢のような光景が千枝の目の前には広がっていた。


 

 しかし千枝はそんな景色には見向きもせず、折れた左足を引きずりながらも今来た道を引き返す。



「う…………うっ……!」


(玲奈……玲奈……無事でいて…………!)




 やがて千枝は自宅の前まで辿り着いた。いや、自宅だった物の前まで。

 

 壁は倒れ屋根は沈み、家と言うには程遠い瓦礫の山がそこにはあった。



「……っ! 大輝っ! 大輝返事してっ!」



 返事は帰ってこない。


 千枝は涙を飲み込み、再び歩き出した。愛娘の通う学校へと。



 通学路を進んでも進んでも、娘の姿は無い。



(玲奈……もしかしてもう学校に……? なら……良かった)



 千枝は安堵のため息をつく。


 そして通学路の最後の曲がり角を曲がった時、その眼には





 迫りくる水の塊が映った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 女は海面から顔を出す。今日も探し物は見つからなかった。



「玲奈ちゃーん!!」



 岸から老人の声が響く。



「みかん、お裾分けーー! ここ置いとくからねーー?」


「はーい!」


 

 玲奈は元気に返事をし、岸へと上がる。




「…………寒い」



 彼女は明日も、海の底へと潜る。


 探し者を見つけるために。

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