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変わらないもの

エリザベートによって浄化されたドリミア城は、建築された時の美しさを取り戻した。


フェナンシル伯爵領に移っていた国王陛下も城に戻り、他の人々もそれぞれ自分の職場に戻ってきた。


王都学園の卒業パーティーは、数日後に改めて開催され、その時にアントワーズとウィリアムの婚約が、正式に発表された。


ここから、新しい時が刻まれていく。


「終わったわ」


エリザベートの長い長い2回めの旅が終わった。


『お前は良く頑張った』


幸せそうなアントワーズを見ていたエリザベートに、テネーブが言った。


「あの夜の闇が私に泣く場所をくれた。いつも優しく見守ってくれたのは貴方だったわ。ありがとう、テネーブ」


万感の思いを込めてエリザは言った


『涙は心を癒す。礼には及ばない』


テネーブはエリザを見た。そして続けた。


『夜の闇に隠れて泣いていた子供が、昼の光の中で試練に立ち向かっていた。俺はそれを見ていただけだ。


あの時、ヴァイオレットの光が爆破した時、お前の魂が別の世界に飛んで行くのが見えた。


その時、全ての時間が戻ったのだ』


エリザは黙って聞いていた。


『あの聖女の中にいた2つの魂は、あの爆破の時に時の狭間に飛ばされたのだ。聖女ロリエッタの魂と黒の魔女の魂。その2つの魂は、永遠に時の狭間で彷徨うはずだった。


せっかく、その狭間から抜け出せたというのに。大人しく生きていれば、助かったものを・・』


テネーブは知っていたのだ。


『お前が再び、この世界に生まれて来た時、光の精霊ルミーニが前にも増して騒ぎたてたのを覚えている。だから、見に行ったのだ』


「私が生まれた瞬間を見ていたの?」


『そうだ。全ての精霊が見ていた。精霊だけではない。きっと、全ての神々も見ていたのだろう。生まれる前から空気は澄み、天使の笑い声が聞こえていた。


お前の1度めを知る全ての者が、お前に祝福を与えた。けれど、その祝福と魔力は、聖女レティシアによって封印されてしまった。


俺はお前が気になっていたから、時々、覗きにきていた』


「知っているわ。貴方だってしらなかったけれど、時々、知っている気配を感じて心がポカポカしていたもの」


テネーブは笑った。


『お前は良く頑張っていた。夜の闇の中で泣かなくなったお前の笑顔は、俺の夜の闇を照らした。月や星よりも輝いて見えた。


もう俺が見ている必要もなくなったと思った時に、お前の方から声をかけて来たのだ。


精霊王カイが精霊の森にお前を連れてきた夜の事だ』


「覚えているわ」


『お前は初めて俺に話しかけた時と、同じ言葉を口にした』


「貴方のその漆黒の瞳と漆黒の髪。絶対に見た事があるわ。覚えているもの・・キラキラと輝いて宝石みたいで・・私、好きだわ」


私はあの時、彼にそう言った。


『お前は泣かなくなっても変わらないな』


テネーブの話はそれで終わった。


「変わらないのは貴方の方よ、テネーブ。愛しているわ」


馴染みのある温かい気配が少し戸惑ったように揺れた。


そして、エリザを包んだ。


『俺と来るか?』


その問いかけにエリザは頷いた。

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