信じて欲しい
エリザは学園で1人で過ごすようになっていた。
魔法封じのブレスレットを付けているため、最近はミールの姿も見えない。
ただ、毎朝、エリザの枕元に、かわいいお花が置いてあるのは、「応援しているよ、頑張って」と言うミールからのメッセージなのだろう。
アメリアやマルティナとは、はじめはロリエッタやその取り巻き達に邪魔をされて、ギクシャクした関係になっていたのだけれど、実は今は良好だった。
エリザはロリエッタが自分を孤立させようとしているの知っている。だから、2人と話をして、学園では距離を置くようにしているのだ。
そうでもしないと、彼女は何を仕掛けてくるかわからない。2人を危険な目には合わせたくはなかった。
ロリエッタは2人には親切で優しい。だから今の関係を保っていけば良い。エリザは2人にそう伝えた。
「何か私たちに言えない理由がありそうね。いいわ、エリザがそうして欲しいのならそうする。でも、覚えていて。私たちは、いつでも貴方の味方よ」
「わかったわ。エリザ、無理をしないでね」
アメリアとマルティナがそう言った。
エドとは、あの日以来、話をしていない。
彼はどうしているだろう
「私はウィリ様が行方不明になったことに、全く関与していないわ。そのことを、彼に伝えて欲しいの」
エリザがアメリアに言った。
「エリザ、エドがひどいことを言ってごめんね。ウィリ様を心配するあまり周りの情報に惑わされて、あなたに暴言を吐いてしまったと、今では悔いているわ。
あなたを、貴様呼ばわりしてしまった。そう言って、毎日、自分を責めているの。
私からもお願いするわ。彼を許してあげて」
よかった。エドの心はまだ近くにある。
「『もう自分を責めないで』そうエドに伝えて欲しいわ」
エリザはそう言った。そして、アメリアやマルティナと同じように、「学園では話しかけないで。」とお願いする事も忘れなかった。
エリザは安心していた。この状況の中、自分を心配してくれる友達がいる。それだけで耐えられる。
アメリアやマルティナと離れ、学園で1人で行動するようになった頃から、エリザの悪口や陰口はエスカレートしていった。
けれど、エリザはその状況の中、完璧な立ち居振る舞いで人々に接していた。
(ここで1度目のお妃教育が役にたつとは思わなかったわ)
クラスメイトたちは、そのエリザの様子に圧倒され、表立っては何もできなかった。
けれど、事態が急変した。ウィリアム殿下が見つかったのだ。
アルベール様とリアムも一緒に見つかったらしい。
その3人を発見したのがロリエッタで、倒れていた彼らを、彼女が聖女の光魔法で癒し、治癒を施したらしい。
この情報が学園に流れた。
「ウィリアム殿下が見つかったらしいわ」
「これで、エリザベート様が誘拐に関わっていたかどうかがハッキリするわね。もう、隠し切れないわ。捕まるのも時間の問題ね」
3人が行方不明になったときの記憶を失っている事は、噂にはなっていなかった。国の上層部が止めているのかもしれない。
ノイズ公爵家からは、エリザに、リアムが無事に見つかったと言う知らせは入らなかった。ウィリ様とアルが見つかったと言う知らせも、入らなかった。
だから、学園の噂で初めてエリザは、3人の無事を知ったのだ。
ただ、実を言うと、先日とても不思議な夢を見たのだ。
夢に出てきたのは義兄のリアムだった。
「エリザ、今から何が起こっても僕や父上を信じていて欲しい。辛いめに合わせてしまうけれど、必ず助けるから信じていて欲しい」
そう言って、とても辛そうな顔をして自分の瞳を覗き込むので、エリザの方がリアムを心配してしまうほどだった。
「わかりました。何が起こってもお兄様とお父様を信じます」
夢の中でエリザはリアムにそう言った。
けれど、それは夢の中での事だ。実際にはエリザには大変辛い現実が待っていた。あれほど優しかった、父アフレイドが急に冷たくなってしまったのだ。
2日後に迫った王都学園の卒業パーティーの用意をするため、屋敷に戻った時も、アフレイドは、エリザに会おうともしなかった。
2度めの人生ではじめての事だった。アフレイドはまるで1度めに戻ってしまったようだった。それは、兄のリアムも同じだった。
あの夢が果たして本当のことなのかどうか。エリザは不安だった。けれど、この厳しい現実の中、その夢にすがるしかなかった。
マーガレットは、エリザに会おうともしない、アフレイドとリアムを黙って見ていた。
「お父様には何か考えがお有りなのよ。今は信じて待つしかないわ。お父様があなたを見捨てるわけがないもの。リアムにしても同じよ。
何が起こっているのか私にはわからないけれど、2人を信じて待ちましょう。
エリザベート、あなたは、私とアフレイドの大切な天使なのだから。自信を持って」
母の言葉にエリザは涙を流した。
そうだ。今はお母様がいる。1度めにはいなかったお母様が・・
明後日の卒業パーティーの準備が、着々と整っていく。パーティー用のドレスを着たエリザを見て、マーガレットが満足そうにうなずいた。
「エリザ、よく似合っているわ。さすが私たちの自慢の娘だわ」
(ああ!よかった。私は1人じゃないわ。ここにお母様もいる)
エリザは過ぎ去った1度めを思い出すかのように、遠くを見つめた。あの時、一人ぼっちだったエリザベートはここにはいない。
私は悪役令嬢エリザベート・ノイズよ。ロリエッタ、あなたが何者であろうとも、私は負けはしない。エリザの瞳がキラリと光る。
彼女の魔力を封じていたブレスレットが、微かにヴァイオレットに輝いた。そして、その時、エリザは自分に魔力が戻ってきたのを感じたのだった。
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