黒い微笑み
行方不明になっている3人が、発見されたと言う情報が魔法騎士団にはいった。
王都から離れたところにある、今は使われていない教会の敷地内に彼らは倒れていた。
教会を復活させる為に、たまたま訪れた、聖女ロリエッタが発見したのだ。
「ウィリアム殿下! リアム様! アルベール様!」
ロリエッタの治癒魔法で、3人は意識を取り戻した。(ロリエッタの魔力は、いつの間にか戻っていた)
彼らは記憶を無くしていた。自分が誰かもわからないような状態だった。
ロリエッタは甲斐甲斐しく3人の世話をした。彼女の施す光魔法に包まれて、3人は顔色も良くなり、気持ちも落ち着いていった。
「皆さまが見つかって安心致しました。行方知れずになったと伺ってから、毎日、無事に戻られるようにと、祈っておりました。
私の祈りが神に届いたのですね。ああ・・神様。3人を無事に返して下さってありがとうございます」
大捜索隊の人々の前で、彼女はそう言って涙を流した。
「殿下、リアム様、アルベール様、今度はお一人ずつ治癒を施そうと思います。よろしいですか?」
「わかった。君には心配のかけどおしだね。申し訳ない」
ウィリアムが返事をした。リアムとアルベールが頷いた。
「では、殿下。どうぞ」
そう言ってロリエッタは、ウィリアムを連れて祈りの部屋に入った。
教会の祈りの部屋には防音の魔法がかけられている。ここで話した事が、一切外には漏れないようになっているのだ。
「このお部屋なら、ゆっくりとお話ができますわ」
そう言って彼女はウィリアムに椅子を勧めた。
「それでは殿下。記憶を取り戻す為の治癒を行います」
彼女はそう言ってウィリアムに近づいていく。
『私のウィリ様。私は貴方のロリエッタよ』
肩に手を置いてロリエッタが言った。
『僕のロリエッタ・・』
虚ろな表情でウィリアムが呟く。
『そう。貴方の愛するロリエッタよ』
彼女はそう言って、その虚な瞳を見つめる。
いつの間にか立ち込めていた黒い霧が晴れる。
「ウィリアム殿下、思いだされましたか?」
暫くして彼女が尋ねた。
「ロリエッタ!思い出したよ」
ウィリアムはそう言って眩しそうに彼女を見つめる。霧はゆっくりと消えていく。
この時、彼に戻ったのは1度めの記憶だった。
今、ウィリアム殿下は、真実の愛を誓ったロリエッタを思い出していた。
自分の癒し魔法でウィリアム殿下の記憶を蘇らせる。
それを大捜索隊のメンバーに目撃させる。
その為に、ここに彼らを置いておいたのだ。
あとのことも、この数日の間に仕込んである。
ここで彼を助けたことで、ロリエッタはウィリアム殿下の恩人になったのだ。
黒い霧の中で、彼女は満足そうに微笑んだ。
もう、この王太子は自分の思いのままだ。
「ウィリ様、ああ・・良かった」
眩しそうに自分を見ているウィリアムに、ロリエッタは涙を浮かべて寄り添った。
次に案内されたアルベールも、祈りの部屋の黒い霧の中で全てを思いだした。
「全て思い出したよ、ロリエッタ」
「アルベールさま・・」
「アルだ、ロリエッタ。2人の時はそう呼んで欲しい。そう言っただろ?」
アルベールはロリエッタに近づき、そっと抱きしめる。
「やっと私のアルが戻ってきたわ。嬉しい!」
そう言って、ロリエッタはその抱擁に応えた。
全てを思い出して、ロリエッタと親しげに話す2人を、リアムは見ていた。
「ロリエッタ、上手くいったね」
「ええ、リアム。貴方の計画どおりになったわ」
2人はそっと微笑み合う。
「僕を孤独の世界から連れ出してくれた、キミの役に立てて嬉しいよ。次は僕が動く番だね。
僕は別行動をとるよ。ノイズの屋敷に戻って、父に会ってくる」
リアムが言った。
「アフレイド・ノイズ。彼が堕ちるのも時間の問題ね」
ロリエッタは楽しそうだ。
それを聞いて黒い微笑みを浮かべる、銀色の貴公子。
彼はその日、他のメンバーと一緒に城には向かわなかった。
「城に行く前に、心配している父に会ってきます」
リアム・ノイズは、捜索隊に参加している魔法騎士団の仲間にそう言って、屋敷に戻るために姿を消したのだった。
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