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再び独りに

その日、城の自室に突然エリザが訪ねてきた。


「ウィリ様、会いたくて来てしまいましたわ」


週末の休みを利用して城の自室に戻っていたウィリアムは驚いた。 


これまで彼女が、連絡もなしに、瞬間移動で自分の部屋に現れた事など一度もなかった。


何かおかしい。いつもと違う空気を感じて、ウィリアムは心の中で警戒した。

 

「この部屋から見る景色は最高ね。私、好きだわ」


エリザはウィリアムに断りを入れずに窓を開けた。


するとヒラヒラと黒い蝶が入ってきた。蝶はウィリアムの部屋を飛び回った後、エリザの肩に止まった。


(危険だ!)


そう思うのと、黒い霧が発生するのが同時だった。ウィリアムとエリザは黒い霧に包まれてしまった。


「お前はエリザではない。お前は誰だ!」


ウィリアムはその女に言った。

すると、霧の中で『その女』は妖艶に微笑んだ。


(ウィリ様、私を忘れてしまったの?私と貴方は真実の愛で結ばれているのに。私は貴方の愛するロリエッタよ。


ウィリ様、思い出して。私、また、エリザベート様に意地悪されたの。学園で仲間はずれにされているの)


先ほど妖艶だと思った彼女は、今度は儚げに涙を流していた。


(ウィリ様、あんなに優しくして下さったのに、私を忘れてしまわれたの?


私よ、ロリエッタよ。お願い!私を思いだして・・ウィリさま・・)


そう言って、ウィリアムに身体を預けるようして泣き崩れる


「ロリエッタ?」


そう言った途端、頭の中に一つの映像が浮かぶ。それは、1度めにエリザベートを追い詰める自分の姿と、アルベールの火魔法の攻撃を受けるエリザの姿だった。


「エリザ!」


ウィリアムは大声で叫んだ。そして、そのまま、目の前の女の腕の中に倒れ込んでしまった。


(そうよ、ウィリ様。あの日を思いだして。私を助けて。私を守って。私は貴方の運命の相手、ロリエッタ・トリエールよ)


ロリエッタは優しく腕の中のウィリアムの頭をなでて、そして、抱きしめた。


(ロリエッタ・・)


感情のこもらない声でウィリアムが言った。


(そうよウィリ様。さあ・・行きましょう)


それから暫くしてメイドが部屋を訪れた時には、ウィリアムの姿は何処にもなかった。


そして、この時、ウィリアムが大声で叫んだ


「エリザ!」


という声が、開けた窓の下で庭の手入れをしていた庭師まで届いていたのだった。


・・・・・


義兄のリアムとウィリアム王太子殿下が、行方不明になった数日後に、女子寮のエリザの部屋に珍しい客人があった。アルベールだ。


「エリザ、誰かが貴方を陥れようとしている。とても不穏な空気を感じる。あの日、一緒にいた精霊に助けを求めて逃げるんだ」


彼はそれだけを言うために、わざわざ手続きをしてエリザに会いにきてくれたのだ。


「アル、ありがとう。こうやって話をしに来て下さって、本当に嬉しい」


そう、最近はエリザには話し相手が誰も居なかった。とうとう、お昼仲間達も彼女から離れていってしまったのだ。


ウィリ様が行方不明になって数日後、エリザが教室の席に座っていると、エドが部屋に入ってきて、エリザの前に立った。


「エリザベート・ノイズ!まさか・・まさか・・まさか貴様が、俺や殿下を裏切るとは!殿下をどこにやった!」


エリザは驚いてエドを見た。


「エド・・私は犯人ではないわ。信じて」


「エリザ・・」


エドが何か言いかけた時に、ロリエッタが割って入ってきた。


「エリザベート様、そうやって、また、エドモンド様を撹乱かくらんさせるのは、おやめになって。


貴方の事でエド様がどれほど悩んでおられたことか。さあ、エド様。私と一緒に参りましょう」


そう言ってロリエッタはエドを連れて行ってしまった。


その日を境に、エドモンドはエリザを避けるようになった。あれほど友情を確かめあったアメリアとマルティナも、エリザから離れて行った。


彼女達がエリザを気にして話しかけようとすると、ロリエッタやその取り巻き達が2人に話しかけて、連れて行ってしまう。


そんな繰り返しの中、エリザは独りになっていく。


そして今日、アルベールが訪ねて来てくれて、久しぶりに人と話をしたのだった。


けれど、この時のエリザは知らない。

その日の夜に、アルベール・ロレーヌも、ウィリアム殿下やリアムと同じように、姿を消してしまうことを。


彼はきちんと許可を取ってエリザを訪ねていた。それがアザとなって、彼が行方を晦ませた事にもエリザが関与していると、断定されてしまうのだった。


それに追い討ちをかけるように、魔法騎士団からエリザに、『魔法封じのブレスレット』が送られてきた。


ウィリアム殿下の誘拐に関与した疑いがあるので、これを付けておくようにとの国からの命令だった。


「まるで、罪人のようね」


それを付けた瞬間に、精霊達の声が届かなくなり、あれほど沢山入ってきていた情報も、全く入って来なくなってしまった。


『テネーブ、その時は助けてね』


だんだん独りになっていくエリザは呟いた。


『安心しろエリザ。お前が見えなくても俺は見ている。大丈夫だ』


そう言ったテネーブの声も、エリザには届かなかった。

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