精霊王カイの余興
エリザベート、テネーブ、ロリエッタの3人は、夜更け過ぎに、ドリミア城から王都学園のロリエッタの部屋に戻ってきた。部屋に戻るとすぐに、テネーブは姿を消した。
「ねえ、ほんとうにパパとママの所に帰れるの?」
開口一番、ロリエッタはエリザに詰め寄る。
「パパとママ?それは何ですか?」
エリザは素知らぬ顔をしてそう言った。
「エッ?」
ロリエッタが声を上げる。
「私に聖女は似合わないから、あんな人達なんか放っておいて、〈私の世界〉に帰りなさいって。その為の協力を惜しまないって、言ってたじゃない!」
確かにエリザはそう言った。その為の協力を惜しまないと本当に思っている。
先ほどは、城の庭で小さくなって震えているロリエッタが、1度めの自分と重なって、つい声を荒げてしまった。
けれど、この甘ったれた少女を、このまますんなりと〈あの世界〉に返そうとも思わない。
1度めのロリエッタを真似て、同じ事を行おうとした彼女を、許せてはいなかった。
『其方はこの者に何を望んでいる?』
そう言って現れたのは、精霊王カイだった。カイの言葉はロリエッタには聞こえてはいない。
『彼女に、自分の行いを反省して欲しいわ』
エリザは念話で答えた。
『それで其方の気が済むなら、その願い叶えよう』
精霊王カイが言った。
『そして、もし、彼女が心から反省をしたら、彼女の願いも叶えてあげて欲しいの』
カイはエリザを見た。
『本当に良いのか?』
『はい』
『〈向こうの世界〉の時間を操作して、この者の魂を戻す事は出来る。しかし・・』
『何か問題でも?』
珍しく躊躇している精霊王に、エリザは尋ねた。
『この者の魂を戻すと、空いた身体に1度めの魂が戻ってくる隙が出来る。
時の狭間を彷徨っているだろう彼奴が、戻ってくるやもしれぬ。それでも良いのか?』
願ってもない事だった。
『大丈夫です』
エリザはハッキリと答えた。
『承知した。今からこの者は深い眠りに落ちて夢を見る。〈1度め〉の夢だ。その夢の中でこの者は〈1度めのエリザベート・ノイズ〉を体験するのだ。・・面白い余興であろう?・・』
精霊王カイはそう言って笑った。
先ほどエリザに詰め寄っていた少女は、いつの間にか、ベッドに横たわって眠りについていた。
それからエリザは久しぶりに、女子寮の自分の部屋で休んだ。
「そろそろ、あの子が目覚めるよ」
ミールに起こされて、彼女も一緒にロリエッタの部屋に移動する。
そこには、精霊王カイの他に、闇の精霊テネーブ、光の精霊ルミーニ、そして、聖女レティシアがいた。
「お祖母様・・」
「久しぶりね、エリザ。昨夜は立派だったわ。流石私の孫娘ね。貴方を誇りに思うわ」
聖女レティシアはそう言ってエリザを抱きしめた。
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