精霊の森
時は聖女ロリエッタのお披露目パーティーまで遡る。
もうすぐドリミア王国に瘴気が発生すると、レティシア様は言っておられた。
もし聖女になったロリエッタが瘴気を浄化しなかったら・・出来なかったら・・
その時は私が!
そう思って1人で頑張ってきた。
そんな自分が滑稽に思える。
「私は、皆さまを、この国を、救いたいのです。信じて頂けませんか?」
人々に心を込めて訴えた。
聖女ロリエッタにも尋ねた。
そんな私に人々やロリエッタは言ったのだ。
「お前なんか要らない。出ていけ!」と。
「私は聖女なのよ?祓えない瘴気なんてないの。貴方が居て何の役に立つと仰るの?」と。
張り詰めていた糸がプツリと切れた。
もう知らない。瘴気の事も魔物の事も。
そんなに言うなら自分達で何とかすれば良い。
過去も現在も含めた、全てのしがらみから解放された。
その気持ちを知ってか知らずか、カイがエリザを連れて来たのは『精霊の森』と呼ばれる場所だった。
「とりあえず『ここ』にやって来た。しばらくは、ゆっくり過ごせば良い」
そう言ってカイは姿を消した。入れ替わるように姿を現せたのはミールだった。
「ここは『精霊の森』よ。貴方を歓迎するわ、エリザ」
「エッ?」
驚いた。『精霊の森』は本当にあったのだ!
幼い頃、お祖母様が話して下さったお伽話には、よく『精霊の森』が出てきた。
その森で出会う精霊達の話を聞くのが楽しくて、同じ話を何度も何度もお願いした。
「お祖母様、エリザもそこに行きたい!」
「ええ、貴方なら行けますよ。エリザ」
ワクワクしながら願いを口にする私に、いつもお祖母様は、そう言って下さった。
(お祖母様、私は今『精霊の森』にいるの。精霊の森は本当にあったわ!)
懐かしい記憶が蘇って、自分の世界に入り込んでいたエリザに、緑の精霊ミールが話しかけてきた。
「エリザ。ここでアイツらをギャフンと言わす方法を考えようよ」
ミールはなんだかワクワクしている。けれど、ごめんなさいミール。私はもう関わるのをやめるわ。もうどうでもいいの。
別に私が慈悲深いわけじゃあないの。その逆かも知れない。
記憶を取り戻してからずっと、乙女ゲーム『王国の聖女ロリエッタ』の悪役令嬢の運命を変える為に頑張ってきた。
『転生』か『元いた世界に戻って来た』のかすら、今の私にはどうでも良く感じる。
王都学園に入学して『聖女ロリエッタ』に出会うのが怖かった。ゲームのような(1度めのような)運命になるのが怖かった。あの、ゾッとするような孤独が怖かった。
けれど、聖女ロリエッタに出会って、彼女も転生者だとわかった時、何かが変わった。
封印が解けた時に入ってきた情報で、1度目の事もはっきり思い出した。その時も私はロリエッタ様にはあまり興味がなかったし、悪意を抱かなかった。
だからミールがいうように、ギャフンと言わす方法を考える気にはなれないのだ。
もう、好きにしてもらえばいい。
それよりも・・『精霊の森』・・
この場所を満喫したい。エリザはワクワクしながらそう思った。その事を伝えるとミールは楽しそうに笑った。
「エリザ、最高だよ。あれだけ挑戦的にエリザを悪女に仕立てている彼女達を、放っておくなんて」
「エッ?そうなの?」
「そうだよ。この状態で相手にもされない聖女様も寂しいね。なんかザマアミロって感じよね」
「ミールったら、大袈裟ね。でも、この森に来てワクワクが止まらないわ」
エリザベートは瞳をキラキラさせながら、緑の精霊と話し込んでいた。
「ヴァイオレットの聖女の慈愛と加護を自ら放棄するとはな。あの国の民の愚かなことよ」
精霊王カイは昨日のパーティーの様子を思い出しながら、エリザを見ていた。
いつの間に現れたのか、カイの隣で闇の精霊テネーブが、興味深そうにエリザベートを見ていた。
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