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お披露目パーティー

とうとう会場に着いてしまったわ。本当は来たくなんてなかったのに……


お兄様が出て行かれる時は、カイ様やミールもいるし大丈夫と思っていたのだけれど、日が経つにつれて気分が重く、身体にも疲れが溜まるようになってしまった。


そんな時に、城から返事を求めて使いの方がいらしたので、【体調が優れないので不参加にさせて頂きます】と書いたお返事をお渡ししたのだ。


それなのに、昨日学園でちょっとした騒ぎがあって、今日の参加を余儀なくされてしまった。


「エリザベート様、ご機嫌よう」


「ご機嫌よう、ロリエッタ様」


いつもは取り巻き達と素通りする私の前に、わざわざ立ち止まって挨拶をしてきた。


「明日のお披露目パーティーに……来て頂けないんじゃないかと思って……心配で……」


ああ、それが聞きたかったのね。


「お返事なら使いの方にお渡し致しましたけど?」


私はそう言ってロリエッタを見たあと話を続けた。


「体調も悪く参加出来そうにありませんの。せっかくのお披露目パーティーなのに、申し訳ありません」


私は丁寧に返事をしてその場を立ち去ろうとした。


「えー!そんな……!私、エリザベート様に来て頂くのを楽しみにしていたのに……」


彼女は、私の体調を気遣う様子もなく、悲しそうに涙ぐむ。(いや、涙は出ていないみたいよ)


心配そうな顔をしたクラスメイト達が彼女に近づいてくる。その時、ロリエッタが言った言葉に耳を疑った。


「エリザベート様が、貴方のお披露目パーティーになんか、出席したくないって仰るの」


「貴方が聖女だなんて認めないって」


そう言って、隣にいたクラスメイトにフラリと倒れかかった。


「ロリエッタ様。しっかりなさって!」


クラス中が大騒ぎになってきた。


「不敬罪だ!」


「聖女様を侮辱するとは!」


ロリエッタは涙を拭う振りをしながら、クスッと笑う。

この騒ぎは学園長にも伝わり、ノイズ公爵家にも連絡が入った。


そして私は、今日のこのパーティーに、必ず参加しなければならない事になってしまった。


参加しなければ、聖女ロリエッタへの不敬罪に問うと、城から使いが来たのだ。


何かあるのね?

私の参加が必要な何かが・・

それなら仕方がないわ。

出て欲しいのなら、出てあげるわ。

エリザはもう迷わなかった。


そして今、とうとう会場に着いてしまったのだ。本当は来たくなどなかったのに……


今日のエリザは瞳と同じ菫色のドレスを着ている。ダークブロンドの髪をアップして、胸元には祖母レティシアからもらったダイヤのネックレスが光る。


華やかに、そして上品に。背筋を伸ばして前を向く。


聖女ロリエッタのお披露目パーティーの会場には優雅な音楽が流れ、華やかな装いの令嬢やご婦人方が楽し気に語り合う姿が見られる。


さあ、わざわざ私を参加させて、いったい何を企んでいるの?


そう思っていると、会場の中央付近からロリエッタを囲む数名の団体が現れた。


「エリザベート・ノイズ。お前を待っていた」


聞き慣れた声がした。


「ウィリ様?!」


驚いた。どうしてウィリ様がここに?


「エリザベート。お前には失望したよ」


「ウィリ様?なぜここに?」


何か様子がおかしなウィリ様に声をかけるが、それに対する返事はない。


「エリザベート、お前との婚約は解消する。僕は真実の愛を見つけたのだ」


「???ウィリさま??」


私達は婚約なんてしていないわ。どうしてしまったの?


『アレはニセモノだ。闇の使い手が化けている』


『ああ……だから変なのね。それを聞いて安心したわ。ありがとう、カイ様』


「ウィリ様、国王陛下には相談をされましたか?私達の事は私達が幼い頃に、国王陛下が決断されたではありませんか」


「アフレイド、エリザベート嬢、誠に残念だが、息子ウィリアムとの婚約の話はなかった事にして欲しい。すまぬ。」そう言って陛下は私とお父様に頭を下げられたのだ。


「覚えておられませんか?」


「黙れ!この悪女め!昔、父上が決めた婚約だから破棄されないとでも思っているのか!


これは僕の問題だ。本当に太々しい(ふてぶてしい)やつめ!」


「ウィリ様、エリザベート様がお可愛そうですわ。もうそのくらいに・・」


純白のドレスに身を包んだロリエッタが、弱々しく偽ウィリ様に寄りかかる。


「この清らかな聖女ロリエッタの事も、学園でイジメていたと聞いた」


「ウィリ様、私ならもう大丈夫ですわ。あまりエリザベート様を責めないで」


ロリエッタはしらじらしく困った顔をして、偽ウィリ様にすがる。


本当に白々(しらじら)しい演技ね。


エリザは怒りよりも、ロリエッタの演技力に思わず感心してしまう。


「この優しく清らかなロリエッタ嬢を、お前は階段から突き落としたと聞いた。そんなお前に、これは私からの贈り物だ」


突然、ロリエッタの後方から現れた神父ルタールが、感情を露わにしてエリザに火魔法攻撃をして来た。


どれも少しずつ横に外れた。しかし、数発めの攻撃はエリザに向かって真っ直ぐに飛んできたのだ。


周りの人々から悲鳴が上がった。


しかし、その攻撃はエリザに命中する事はなかった。彼女の前で突然向きを変えて、神父ルタールに戻って行ったのだ。

ルタールは全身に大火傷を負い、その場に倒れた。


「ロリエッタ様、癒しの魔法を!」


後ろからアルベールが叫んだ。

その声に周りの人々が反応した。


「聖女様!」


「ロリエッタさま!」


皆の注目を浴びてロリエッタは光魔法を使った。聖女になって初めて、パフォーマンス以外で光魔法を使った。

ロリエッタは神父ルタールに手をかざし祈った。


『ルタール、どうか助かって!光魔法よ発動して!でないと困るの!光魔法、癒しの魔法、回復魔法。どれでもいいから発動して。私を助けて!神父ルタールの怪我を治して~』


ロリエッタの必死の祈りが届いたのか、神父ルタールは光に包まれ、そして回復した。


「聖女さま!」


「聖女さま!


「ロリエッタさま!」


人々は初めて見る光魔法に興奮した。そして、それは歓喜の声に変わって行った。


仕組みは分からないが、パーティー会場の様子が各地の空に映し出されていた。


ロリエッタが光魔法で宰相デイビスを癒し回復していく様子は、ドリミア王国全土で映し出され、国中が歓喜の声に溢れたのだった。


しかし、神父ルタールから魔力が完全に消えてしまった事には、この時、誰も気が付かなかったのだ。


それと同時に、悪名高いエリザベート・ノイズ公爵令嬢が神父ルタールに魔法攻撃している映像も、何度も何度も繰り返し流された。


宰相デイビスは、ルタールがエリザを攻撃している様子は一切映さずに


魔法返しで攻撃がエリザからデイビス本人に戻っていくところから、


まるで、神父ルタールを狙ってエリザが攻撃しているように見える映像を流したのだ。


「エリザベート・ノイズ公爵令嬢を国外追放に!」「国外追放だ!」「追放だ!」


誰かが最初に先導した。その声は画面からの広がりもあり、あっと言う間に全国土に広がっていった。


ゲームの強制力もあるのかしら?やっぱりこうなってしまうのね。


『もう良いではないか。其方そなたはやれるだけの事をやった。この国に瘴気が発生して困るのは、此奴こやつらだ。放っておけば良い』


『ミールもそう思うわ。こんな国、こちらから捨ててしまえば良いのよ』


エリザベートは目の前にいる偽ウィリ様を見た。そして次にロリエッタを。神父ルタールを。そして、生徒会副会長のアルビー・グレスールを。1人1人をゆっくり見た。最後にアルベールと目が合った。


「国民がお前の国外追放を望んでいる。僕に婚約破棄されたお前にピッタリの、罰ではないか。


王太子ウィリアムの名において、エリザベート、お前を国外に追放する」


王太子ウィリアムの名においてって、貴方、ニセモノじゃないの!ロリエッタもドルマンも、自分の記憶を過信し過ぎているわ。私とウィリ様が婚約したかどうかなんて、調べれば直ぐに分かる事だったのに。抜けてるわね。


「婚約破棄は全く構いません。けれど国外に追放される覚えはございませんわ。


私も私の家族もこのドリミア王国を愛しています。父と兄は国を救う為に、今、異世界からやってきた魔物との戦いの中にいます。


隣国の聖女でもある祖母も今、自分の持つ聖女の力で瘴気を払い、浄化することに全力を注いでいます。


祖母である聖女レティシアが、次はこのドリミア王国に瘴気が発生すると言われました。


私はその時この国を救う手助けがしたい。そう思ってここに残っています。全ドリミア王国の皆様。私は噂されているような事は何もしていません。


私は皆さまを、この国を救いたいのです。信じて頂けませんか?私は聖女ロリエッタ様の手助けをするために、この国にいなければならないのです。」


エリザは偽ウィリ様にではなく、自分の姿が映っている空に向かって話しかけた。

しかし残念ながら、エリザの思いは人々に伝わらなかった。


「お前なんか出て行け!」


「嘘を言うな!聖女様でもないくせに!」


「お前なんかいらない!」


「瘴気を浄化するのは、ロリエッタ様だ。お前なんかいらない!出ていけ!」


「出ていけ!」


「出て行け!」


「出て行け!」


先ほどの偽ウィリ様の「国外に追放する」と言う言葉を受けて、「出て行け」の声が広がって行く。


「本当にいいのね」


エリザはロリエッタに言った。


「ロリエッタ様、本当に私が居なくても大丈夫なのね?」


「フフフ・・」


ロリエッタはエリザを馬鹿にしたように笑った。


「エリザベート様、私は聖女なのよ?祓えない瘴気なんてないの。貴方が居て何の役に立つと仰るの?」


なるほど。もう心は決まった。好きにすればいい。これから発生するだろう瘴気も何もかも、自分達で浄化したらいい。 


自分達が戦えばいい。私はもう知らない。アル、ごめんなさい。そこで頑張ってくれているのに。


そう思ってアルベールを見た。目が合った。その漆黒の瞳が真っ直ぐにエリザを見て頷いた。


「もういいよ、エリザ。もうこれ以上、頑張らなくてもいいよ」


その瞳がエリザにそう語っていた。


「わかりました。私はこの国を出て行きます」


そのひと言を残してエリザベート・ノイズ公爵令嬢は、聖女ロリエッタのお披露目パーティーの会場を後にした。


そしてその夜、精霊王カイはエリザを連れて姿を隠してしまったのだった。

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