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魔法返し

1人になって初めての朝がきた。

縦巻きロールも念入りにして私らしく華やかに。久しぶりに真っ赤な通学用ドレスにしよう。ポケットには緑の精霊ミールが寛ぎやすいように、柔らかいハンカチを入れておこう。


「いざ!戦場に!」いや違った。「いざ!学園に!」


エリザは2年A組の教室の前で深呼吸をした。そして、いつものように、何食わぬ顔をして、ドアを開けた。わいわい騒がしかった教室が急に静かになったような気がした。


今日からウィリ様もエドもいない。さあ、胸を張って、前を見なさい。エリザベート!


エリザは自分の席に向かって歩きだした。するとその時、近くにあった椅子がエリザに向かって飛んできたのだ。


「!」


けれど椅子はエリザには当たらなかった。急に方向転換をして、ある1人の生徒目掛けて飛んで行った。


その生徒は、咄嗟のことで避けることが出来ずに、足の骨を折る大怪我をした。もしエリザに当たっていたら同じ怪我をしていたのだ。魔法返しとはそういう魔法なのだから。怪我をした生徒は自業自得なのだ。


その魔法を使ったのはエリザではない。魔法返しをしたのは精霊王カイだった。


気配を感じて横を見ると、紺碧の髪を一つにくくった美しい男性が立っていた。


『我の姿が見えるようになったのだな。ヴァイオレットの聖女、エリザベート。心の中で声に出さずに話せば、われと会話することが出来る』


エリザの頭の中に声がした。その声には聞き覚えがあった。


『精霊王カイ様?』


『カイと呼べばよい。こやつは其方そなたを傷つけようとしたから、魔法返しをしたのだが。どうする?命を奪ってやる事もできるが?』


精霊は優しい存在ではない。その気になれば平気で命を奪うことも出来るようだ。


『いえ、先ほどの魔法返しで十分です。そして反省した様子なら、怪我も治してあげて欲しいんです』


『我の力であの者の怪我を治す気はない。其方を傷つけようとしたのだ。それに、そこに居る聖女と名乗る者も動かぬではないか。


この者も確かに光の魔法を使う力はあるにはあるが、其方とは比べものにならぬくらいに弱い。我がここにいる事に気付きもしない。


弱い力ではあるが、あのような怪我なら治せるであろうに。なんとも優しさに欠けた聖女であることよ。』


授業の前なので、その場にはロリエッタもいた。けれど、彼女は光魔法で彼を助けようとはしなかったのだ。助けようと言う考えが咄嗟とっさに浮かばなかったのだろう。


怪我をしたその生徒は、その後、魔法が全く使えなくなった。怪我の方は回復ローションで治す事は出来たようだけれど。


其方そなたに攻撃をしてきたのだ。全ての精霊にあの者の詠唱えいしょうには答えないように命じた』


『カイ様、やり過ぎではありませんか?』


『いや、あの者はそれだけの事を行った』


魔法が使えなくなったその生徒は、数日後に学校から去って行った。


同じような事は何度か起こった。エリザが1人で廊下を歩いている時に、火魔法で攻撃された事もあった。


この時も、急にエリザを守るバリアが現れて、その火魔法攻撃を跳ね返した。その後、その攻撃をした生徒は自分の攻撃により大火傷を負った上、魔法が使えなくなった。


学園にある回復ローションで火傷は治ったけれど、暫くしてその生徒も学園を去っていった。


「エリザベート・ノイズに魔法攻撃をすると魔力がなくなる。彼女はきっと闇魔法を使うんだ」


そんな噂が広がり、いつしか、エリザに暴力を振るったり、魔法攻撃をしてくる者はいなくなった。


今では、レティシア様の誕生パーティーで『幸運を呼ぶお守り』をもらい、そっと身に付けている生徒以外は、聖女ロリエッタが行う事の全てを褒め称えるようになっていた。


そしてその誰もが、エリザベートを世紀の大悪党を見るような目で見るようになっていた。


ロリエッタはもう魅了の魔法を使う必要もなかった。ふわふわピンクブロンドの髪は軽やかに風に揺れる。


「ああ素敵!なんて清楚なお姿。風の精霊すらも、あの方に挨拶して通り過ぎているようだわ」


「木々の緑もあの方に囁きかけているように見えるわ。緑の精霊にも愛されているのね」


「それならきっと、物語に出てくる精霊王の加護も受けていらっしゃるのよ」


学生に限らず学園の教師やそこで働く人々は、いつの間にか、「聖女様は精霊王にも愛されている」と噂するようになっていった。


『どうしてミールがあんな女を愛さなきゃいけないのよ』


人々の様子を見ながら、緑の精霊ミールは憤慨している。


『それに、パールがあんな女に挨拶するわけがないじゃないの。エリザに挨拶するならわかるけど』


ミールは平気で悪態をついているが、すぐ近くに聖女ロリエッタがいる。


以前、精霊王カイが自分の姿が見えるのは、聖女とリアムだけだと言っていた。


だから、ロリエッタにもミールの姿が見えていて、私達の話しも聞かれているのでは?と、エリザは先ほどからハラハラしているのだ。だから聞いてみた。


『ねえミール。ロリエッタ様に貴方の姿は見えているのかしら?』


『見えてないわ。私たちの姿が見えるのは、私たちが認めた者だけよ』


『聖女だから精霊が見えるのかと思っていたわ。じゃあ、私たちの話し声も聞こえないのね?』


『すぐ横にいても聞こえないよ。私の姿も見えてないし。気配も感じてないみたい』


『あー良かった。ミール、私の側にいてちょうだいね』


エリザは安心して全身の力を抜いたのだった。


もうすぐ『ドリミア王国の聖女ロリエッタ』のお披露目パーティーが開かれる。そのパーティーにエリザも招待されている。何か起こりそうな予感がする。


まだ時間はある。お兄様や風の精霊パール。精霊王カイや緑の精霊ミールも居てくれる。私は今回の人生をあきらめたくはない。しっかりしなければ。


前回の記憶にはない、『ドリミア王国の聖女ロリエッタのお披露目パーティー』開催日まで、あと数日にせまっていた。

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