アルベールの決意
生徒会長室の前にロリエッタが現れ、謎の男ドルマンの声を聞いた翌日、アルベールとリアムはドリミア王国の『魔法騎士団の特別室』にいた。
魔法騎士団総団長のアフレイド・ノイズと第二部隊の隊長ベルトン・アラール。そして隣国の聖女レティシアがいた。
話をする場所に『魔法騎士団の特別室』を指定したのはレティシアだった。
この部屋には盗聴防止の結界が何重にも張ってある。今からする話は、決して外に漏れてはいけない内容なのだ。
お互いに挨拶を終えた後、最初に口を開いたのは、レティシアだった。
「本日は大変重大なお知らせがあって、皆様にこの場所に集まって頂きました。
長い話になりますので、座ったままで失礼いたします」
そう言って、部屋の中にいるメンバーの様子を1人ずつ目で確認していった。
アフレイドと目が合った。少しお互いに見つめ合ったあと、アフレイドが頷いた。
それを受けて、レティシアも頷いた。
「恐ろしい事が起ころうとしています」
レティシアは話し始めた。
「私の孫娘エリザベートやウィリアム殿下が、今、王都学園に通っているのはご存知でしょう?
彼らが学園を卒業する頃、この世界に瘴気が発生します」
「!」
「瘴気ですか?」
ベルトンが聞き返した。
「そう。瘴気です。闇魔法をつかって異世界から瘴気や魔の物を、呼び寄せようとしている者がいます」
「!」
「瘴気を見た事がありますか?」
「いえ。禍々しいものとは聞いていますが見たことはありません」
レティシアと目が合ったベルトンが答えた。
「そう、瘴気は普通の人には見えないのです。そして、誰にも気付かれずに人々を取り囲んでいくのです。
闇魔法の使い手がいるのを知っていますか?」
「知っています。聞いた事があります」
今度はアルベールが答えた。
「彼らも善良な国民だったのですよ。それが闇魔法に興味を持ち、瘴気を使って人々の心を操る術を使うようになっていったのです。
彼らは、この世界の聖女達が代々にわたり強化してきた結界を、破ろうとしています」
「!」
「そんな事をして彼らに何の徳があるというのだ?」
「禍々しい瘴気の主人とも思われている魔の物を呼び寄せるためです。
人々の弱った心に忍び込み、悪意を抱かせ、戦争をよび、この世界を飲み込もうとしているのです」
「!」
「そんな恐ろしいことを!」
「私は力の及ぶ限り瘴気を浄化して、結界を護る覚悟でいます」
誰もレティシアから目を離さない。真剣な表情で次の言葉を待っている。
「私は瘴気の浄化は出来るのですが、現れる魔物は、私の魔力だけでは倒せないのです。
アミルダ王国も含めて発生する瘴気を浄化している時に、それを追って現れる魔物達を倒して頂きたいのです。
アフレイド様、魔法騎士団の力を貸して頂けませんか?」
「勿論です!レティシア様」
レティシアはアフレイドと目を合わせ、頷き合った。
「ありがとうございます。アフレイド様が率いる魔法騎士団の力があれば、瘴気を追ってやってくる魔物達を退治することができます。
これだけなら良かったのですが・・」
「まだ何か起こるのですか?」
ベルトンが尋ねた。リアムもアルベールも緊張した表情をしている。
「私とアフレイド様が国外に出ている間に、その隙を狙ったかのように、このドリミア王国に別の瘴気が発生します」
「!」
まるで1度経験してきたかのように話すレティシア様は、そこでリアムとアルベールをしっかりと見た。
「王都学園には光属性を持つ女生徒がいますね。名前はロリエッタ・トリエール。彼女の浄化の力が必要です」
「!」
「!」
「彼女は昨日、闇魔法を使う輩と行動を共にしていたと聞いています。それを承知で伺います。なんとかなりませんか?」
アルベールとリアム。昨日の出来事が2人の脳裏に浮かんだ。
しばらく沈黙が続いた。
「わかりました。僕がなんとかします」
そう言ったのはアルベールだ。
「彼女は僕が自分の魅了魔法にかかっていると思っています。僕が彼女の側にいましょう。
これからは、皆様に不愉快な姿をお見せする事になるでしょう。敵を欺く(あざむく)にはまず味方からと言います。
僕がロリエッタ嬢の魅了魔法にかかっていない事は、ここだけの秘密にして頂けませんか?」
「アルベール君。嫌な役を押し付けてしまってすまない」
魔法騎士団総団長のアフレイドが、頭を下げた。
「本当に申し訳ない!私が引き受けられれば良いのだが、その令嬢との関わりがないんだ・・」
第二部隊の隊長ベルトンも頭を下げた。
「アル、本当にいいのかい?エリザの敵になるんだよ?」
「分かっていますよ。国を瘴気から守る為です。ロリエッタ嬢の魅了にかかったふりをして、彼女という人物をしっかり見てきますよ」
重い空気が流れた。
「アルベール様、大変な事をお願いして申し訳ありません。よろしくお願い致します。」
レティシア様もアルベールに頭を下げる。
心惹かれる女性を誹謗中傷する側に回るのだ。よほどの覚悟がなければ出来ない事だった。
「アルベール様、ロリエッタ嬢は聖女です。誘導さえ間違わなければ大丈夫です。
性格に問題がありそうな方ですけれど、それは、闇との戦いには関係ありません。
その時には、聖女としての自覚を促してみて下さい。
彼女は『まだ』闇には染まっていませんから」
「それを聞いて安心しました。きっと、彼女を導いてみせますよ」
「アルベール様」
そう言って、レティシアはアルベールに近づいた。そして、先日加護を与えた右手の加護に手を添えた。
「独りにさせてしまうのです。何か困った事があったら、この薔薇に手を添えて私の名を心の中で唱えて下さい。私と念話ができます。私達はいつでも貴方の側にいますよ」
アルベールはレティシアの顔をみた。
エリザと同じヴァイオレットの瞳が優しく彼をみていた。
「ありがとうございます。連絡させて頂きます」
「瘴気が発生するのは2年後。まだ、時間があります。
昨日、学園に闇魔法の使い手が現れたと孫息子のリアムから連絡があったので、良い機会だと思いました。
アフレイド様とも相談して、今日、皆さまに集まって頂いたのです」
「孫息子!・・レティシア様!」
リアムが珍しく焦っていた。
「あら?リアム。どうしたの?貴方はマーガレットの息子なのですから、私の孫息子でしょ?
間違ってはいませんわよね?アフレイド様?」
「間違いありませんよ。お義母さま」
レティシアに話しを振られ、アフレイドも楽しそうだ。
「その孫息子の友人にもお会い出来て、とっても嬉しいわ。アルベール様。これからも、リアムの良き友人でいてあげて下さいね」
今度はアルベールが焦った。
「いや僕が友人だなんて。でも、レティシア様にそう言って頂き光栄です」
この若者2人の焦った顔を拝めるとは!
アフレイドとベルトンは思わず笑ってしまった。今日は本当にいい日だ。
『魔法騎士団の特別室』からレティシアが姿を消した。そのあと、若い2人が姿を消した。残ったのはアフレイドとベルトン。
「大変な話を聞いてしまいました」
「2年などアッと言う間だ。我々もしっかりと対策しなければ」
真剣な表情で頷き合う2人だった。
それから暫くして、魔法騎士団の魔法攻撃の訓練が強化され、沢山の団員が悲鳴をあげる日々が続く事になるのだった。
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