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独りじゃないわ

生徒会長のアルベール様が急に身近な存在になった。記憶が戻って前世の記憶を思い出してからは、どこかで彼を警戒していた。


卒業パーティーで婚約破棄された後、ウィリアム殿下とエドモンド、あと数人の男子生徒に、ロリエッタに悪質なイジメをしていた悪女と言われ、身に覚えの『無いこと』『無いこと』で責められた。


そこにアルベール・ロレーヌ会長が現れて、誰よりも厳しく私を糾弾してきたのだ。


そして感情にまかせて火魔法で攻撃してきた。焼け死ぬかと思った恐怖を覚えている。


そのアルベール様に『貴方を火魔法で攻撃した夢を見た。ゴメン』と謝られたのだ。


『すまない』と言ういつもの彼らしい言い方ではなかった。


彼にゴメンと言われた時に、私の中でゲームの中の(前回の)彼は消えた。


遠い存在だった『アルベール様』が消えて、「ゴメン」と謝ってくれた不器用な先輩の『アル』がそこにいた。


たとえ夢の中でも、自分が私を攻撃していたことがショックだったのだろう。目を覚ました彼は夢の話をして謝ったあと、恐々(こわごわ)と私に触れた。


そして、私は彼に抱きしめられていた。


「!」


「少しだけ、少しでいいからこのままで」


アルはそう言って抱きしめる腕に力を込める。


脳裏に幼い頃から独りで大人の中で生きている、アルベール少年の姿が浮かんだ。

(彼女の中の聖女の力が見せた映像だった)


気がつけば私も彼の背中に手をまわしていた。


ああ・・この方もお兄様と同じ。大人達に期待をされ、同世代に憧れられながら、共に歩む友人もなく、独りで頑張っているのだわ。


私はドリミア学園の食堂の汚職事件を調べて解決の糸口を見つけてくれた、アル(アルベール会長)の事を覚えている。


私にとってお兄様の次に尊敬できる先輩だと思っている。この王都学園の現生徒会長として、活躍している姿も見てきている。


そんな偉大な先輩を「アル」と呼ぶのは、失礼な気がしていた。けれど、もう迷わない。


貴方には気の許せる友人が必要なのね。沢山の人々に囲まれているのに、貴方は独りぼっちなのね。


「アル、また生徒会の会長室に遊びに来てもいい?」


「もちろん。君なら何時でも歓迎するよ、エリザ」


後日、私は改めてアルにアメリアを紹介した。私とアルが親しげに話す様子を見て、彼女は驚いていた。


アルはアメリアとエドが婚約した事も知っているようだった。


そして、それからは時々、アメリアと一緒に生徒会長室を訪ねるようになった。


「アル、また来てしまったわ。何かお手伝い出来ることはあります?」


「よく来てくれたね。君達が来てくれるから仕事がはかどるよ」


生徒会長の仕事は思っていたよりも多そうで、私とアメリアは忙しい間だけでもと、手伝いを申し出ていた。


「『疲れた時の気晴らし要員』が欲しかったんだ。ありがたいよ」


結局は訪ねて行って美味しいジュースや紅茶、それとお菓子まで出して頂いて、アルの仕事を増やすだけの訪問者になってしまうのだけれど。


それでも『気晴らし要員』は喜ばれた。


アメリアが先に瞬間移動で帰り、私もそろそろ帰ろうと生徒会長室を出た時だった。


「なんで貴方がここにいるのよ!」


「アル様が忙しい時に手伝うのは、私のはずなのに!なんでアナタが、エリザベート・ノイズがここにいるのよ!」


ロリエッタだった。

彼女は怒っていた。


わかる、わかるわ、ロリエッタ。貴方は転生者だもの。『王国の聖女ロリエッタ』を知っているものね。


そう、今のアル様は『あの時』とは違うのよ。貴方のとりこには、なっていないわ。


それに今回は全校生徒の前での聖女としてのお披露目もなかったわ。


貴方はまだ聖女ではないもの。もちろん生徒会の女王様でもないわ。


今の貴方はあの時とは違うのよ、ロリエッタ・トリエール。


だから腹立たしいのでしょ?

ぜんぜん思い通りにならないんだものね。


「私とアメリアがアルベール会長の手伝いをしたら、何かいけない事でも?」


私は素知らぬ顔をして彼女に尋ねた。


その時、私の後ろのドアが開いてアルが出てきた。


「エリザベートさま!お許し下さい。私に悪気わるぎはなかったのです」


突然、ロリエッタがそう叫んで私に擦り寄ってきた。


「エリザ、まだ帰ってなかったのか。何があったの?」


アルが言った。


「なんでもありません。私が、私がアル様のお手伝いをしたいと言ったから・・


エリザベート様に叱られてしまったのです。


『私のアルベールを取るな』と・・。私がいけなかったのです」


ハンカチで涙を拭う(ぬぐう)ふりをするロリエッタ。この構図はいけない。


悪役令嬢が心優しい聖女をいじめているシーンそのものでは?


「『私のアルベール』を取るなと言ってキミを叱った?エリザが?」


ロリエッタはパッと顔を輝かせた。


「そうなんです、アル様。私はただ、アル様のおそばで、お手伝いがしたかっただけなんです。ごめんなさい。ごめんなさい。エリザベート様」


なんという演技力


自分のふわふわピンクの髪が、どうやったら魅力的に見えるか良く知っているのだろう。


マリンブルーの瞳を少し伏し目がちにしながら、上目遣いにアルを見る。


そして、少しずつ前に立っているアルに近づいて行って、彼の腕に自分の手を添えた。


アルはしばらく黙ってロリエッタを見て、彼女の話を聞いていたけれど、彼女の手が彼の腕に添えられた瞬間、それをサッと払いのけた。


ロリエッタはハッとした顔をしてアルを見上げた。


「エリザが本当に『私のアルベールを取るな』と言ってくれたのなら、そんなに嬉しいことはない」


そう言って私を見たアルは、とても優しい表情をしていた。


「ロリエッタ・トリエール嬢。私の名前はアルベール・ロレーヌだ。気安く『アル様』などと呼ばれるのは不愉快なんだが?」


「エッ?」


ロリエッタは驚いた顔をした。


「ここに居るエリザベート嬢と友人のアメリア嬢には、私から手伝いを依頼したんだ。キミの気持ちには感謝するが、これ以上の手伝いは不要。お引き取り願いたい。ロリエッタ嬢」


「アル様。私は光の聖女ロリエッタなのよ。どうして、どうしてなの?どうして私にそんなに冷たく出来るの?」


ロリエッタの言葉を聞きながら、アルは冷めた瞳で笑った。


「君に魅了魔法をかけられた夢を見たよ、ロリエッタ嬢。あれが予知夢かどうかはわからないが、君が今、僕に魅了魔法を使っているのは分かる。


禁止されている魔法をこれ以上使うようなら、僕は君を国に訴えるよ」


ロリエッタは驚いた顔をした。そして独り言のように声を張り上げた。


「おかしいわ。こんなの可笑しすぎるわ。ドルマン、そうでしょう?」


『お嬢、今日のところは戻っておいで。少しストーリーが変わっているようだ。さすがエリザベート・ノイズ。やってくれるねぇ』


ドルマンと呼ばれた男の声。


「わかったわ」


「アル様、

それでも貴方はもうすぐ私のとりこになるのよ。フフフ、楽しみだわ」


「悪役令嬢エリザベート・ノイズ。どんな手を使ったのかは知らないけれど、ヒロインは私なのよ。


まあ、ヒロインと言っても貴方には分からないでしょうけどね。それではご機嫌よう。『私のアルさま』」


そう言って、ロリエッタは瞬間移動で消えていった。

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