エドモンド・ブラウンの夢
僕の名前はエドモンド・ブラウン。ウィリアム殿下の側近で、王都学園1年A組の学生だ。
昨日の朝、学園の裏庭で『今まで出会った事もないような失礼きわまりない女』に出会った。
その女の印象が強烈過ぎたのだろう。あろうことか、その女が出てくる過去最低の夢を見てしまった。
☆☆エドモンド・ブラウンの夢☆☆
王都学園の入学式で僕は天使を見たのだ。
沢山の生徒たちのクラスが次々に決まっていき、僕はウィリアム殿下と同じA組になれた事に安堵していた。
幼い頃から殿下に信頼して頂けるように、日々努力をし自分を高めてきた。
王都学園の誉れ高い特別クラス『A組』になったからには、これまで以上に精進して、良き家臣、良き側近として、殿下と国の為に頑張らなければ。
僕はとても誇らしい気持ちで、残りの生徒達のクラスが決まっていく様子を見ていた。
フード付きのコートを着た生徒が立ち上がって、着ているコートを今まで座っていた椅子に置いた。
コートの下から現れたのは、ふわふわと柔らかなピンクの光をまとったブロンドの髪。
窓から差し込む太陽の光を浴びてキラキラと輝き、返事をした時に見せた笑顔に胸がときめいた。
そのマリンブルーの瞳。
僕は彼女から目が離せなくなった。
まるで聖堂の壁画にある天使のような姿。
その天使は壇上の水晶玉にゆっくりと手をかざした。
すると水晶玉は煌々と輝き、その女生徒はその光の中で、少し恥ずかしそうにしながらお辞儀をしたのだ。
守ってあげたくなるような儚さ(はかなさ)を感じた。
来賓席にいた聖職者が彼女に歩み寄り、涙を流して膝を折り深々と礼をした。
そして、彼女を壇上中央に導いていった。
生徒会長が彼女を迎えに行き、演台の前に導いた。
「今日この式典で水晶玉の輝きを見る事が出来て、僕は感動している。諸君!我が国にもとうとう聖女様が現れたのだ」
そう言って生徒会長はその天使に跪き(ひざまずき)、先ほどの聖職者と同様に深々と頭を下げたのだった。
会場は割れんばかりの拍手がおこり、歓声に包まれた。
その数日後だった。
1人で調べたい事があって図書館に行った時に、目の前にいた女生徒がフラッとよろめいて、持っていた数冊の本をばら撒いたのだ。
僕はまず、倒れかけたその女生徒を受けとめた。僕はすぐに気がついた。彼女だ!ドキドキが止まらなかった。
「大丈夫ですか?」
そう言って近くの椅子に座らせた。
彼女は机にうつ伏せてしまった。
僕はばら撒いた本を拾ってから、もう一度声をかけた。
「大丈夫ですか?」
彼女はそっと顔を上げてボンヤリとした様子で僕を見た。
ブロンドの髪がピンクに輝いて眩しい。
マリンブルーの瞳がゆっくりと僕をとらえ微笑んだ。
「貴方が助けてくれたの?」
まるで友達に話しかけるような話し方に心が軽くなる。
「近くにいたからね」
「ありがとう。私はロリエッタって言うの。貴方は?」
なんて気さくに話す子なんだろう。
そんな事を思っている間に、ロリエッタはどんどん僕に話しかけてきて、気がついた時には、僕達はすっかり親しくなっていた。
彼女が微笑むと僕の胸はときめき、親しげに話す声を聞くと心が安らいだ。
「エドは頑張り過ぎなのよ。ウィリアム殿下もわかって下さるわ。自分の楽しみも作らなきゃ。私が協力してあげるわ」
何時の間にか、彼女にウィリアム殿下の側近であることも話してしまっていたようだ。
キラキラとした彼女を見ていると、僕は幸せな気持ちになれた。今までの疲れが取れていった。
「貴方と友達になれて良かったわ。エド。また会おうね」
そう言ってニッコリと微笑むロリエッタ。
『エド』
幼い頃は両親にそう言われていた。
懐かしい響き。
こんな風に親しく名前を呼ばれたのは何年ぶりだろう。
『友達』
ああ、この天使は僕を『エド』と、『友達』と、呼んでくれるのだ。
「僕もまた会いたいよ。ロリエッタ」
その声を聞いたあと、その天使はまるで先ほど倒れたのが嘘のように、サッと立ちあがり
「またね」
と言って走り去ったのだった。
☆☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その時だった。
僕は誰かに優しく起こされた気がして目が覚めた。
右手の指輪の下で、紫の薔薇が輝いていた。
驚いたことに、その日の昼過ぎに、まるで昨夜の夢の再現のような事が起こった。
偶然に図書館に行く用ができて1人で行ったのだけれど、まるで夢の中の出来事のように、僕の前でフラッとよろめいて倒れた女生徒がいたのだ。持っていた数冊の本をばら撒いたのも同じだ。
僕は、『あっ、同じだ。』
と思ったので、タイミングが一瞬ずれてしまった。
その間に僕の隣にいた男子生徒が、その女生徒を助けていた。
その男子生徒も夢の中の僕と同じように、近くの椅子に座らせていた。
そして、その女生徒は机にうつ伏せていた。
そのうつ伏せた女生徒の髪は、ピンクががったブロンド。きっと夢の中と同じ人物だろう。
用は簡単な事だったので、さっさと終わらせてその場を離れた僕は、図書館を出る時に先ほどの場所を振り返った。
思ったとおり、そこには瞳をキラキラと輝かせて、少し頬を染めながら話し込んでいる男子生徒と、その男子生徒の手を握って微笑んでいる、昨日の失礼きわまりない女がいた。
あの女に気をつけろって、夢で神様が教えてくれたのかも知れないな。レティシア様の加護のおかげだ。あのロリエッタという女生徒。気をつけなければ。
僕は夢の中のような、情け無い自分にならなかった事に感謝しながら、図書館を後にしたのだった。
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