天才生徒会長と精霊王
☆☆☆入学式を終えて☆☆☆
入学式を終えた学生達が〈玄関のエントランス・ホール〉にやって来た。
保護者たちは屋敷からの迎えの馬車で、もう帰途についている。
今日から学生達の寮生活が始まるのだ。
「はい、皆さん。ここで『学園の生活魔法』を使います」
先生の声がホールに響く。
「先程も言いましたが、ここから自分の寮の部屋まで『瞬間移動』出来る仕掛けがしてあります。
他の場所にも行けるのですが、それは明日『学園の生活魔法』の説明をしっかり聞いて下さい。
皆さんは昨日までに、入寮の手続きは済ませてますね?手続きが終わっていれば大丈夫です」
「瞬間移動だって!すごいな」
「やってみたかったんだ」
ホールがザワザワと騒がしくなる。
「私の説明の最中に消えてしまう生徒がいては困りますので、寮からここに移動する方法を先にお伝えしておきます」
先生の声が響く
「明日、学園に来る用意が出来たら、カバンなど荷物を持って
『エントランス・ホールに移動』
と唱えます。それだけで、ここに瞬間移動して来れます」
「ほんとに出来るかしら?」
「私も不安だわ」
ホールがまた騒つく。
「練習してみましょうか?
今から寮の自分の部屋に戻って、すぐにまた
『エントランス・ホールに移動』
と唱えてここに戻って来て下さい。
すぐに戻って来なかった生徒には、理由次第で学園からご両親に連絡を入れさせて頂きますからね。必ず戻ってくるんですよ。
『自分の部屋に移動』
そう唱えたら、ご自分の部屋に戻れます。
では、練習してみて下さい」
アッと言う間に全ての生徒の姿が消えて、そしてまた、全員が戻ってきた。
「すごい!」
「もう戻ってきたわ!」
生徒達の歓喜の声がホールに響く。
「全員戻って来れましたね。これで安心したでしょう?
それでは解散します。ご機嫌よう。また明日お会いしましょう」
「ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
挨拶の声と共に、生徒たちの姿は次々に消えて行った。
☆☆天才生徒会長と精霊王☆☆
この世界には全属性に共通して使える魔法がある。
それは、ドアを自動的に開けたり、部屋を綺麗に片付けたりする生活に密着する魔法。『生活魔法』と呼ばれている魔法だ。
ほんの僅かな魔力さえあれば、誰でも使える生活魔法は、貴族達が優雅に過ごす為には欠かせない『力』だった。
王都学園に入学してくる殆どの生徒は、ドリミア学園の魔法学教室で、自分に適した生活魔法の使い方を身につけて来ている。
それ以外の生徒も〈自分に適した生活魔法の使い方〉を習っていないだけで、ごく一般的な生活魔法を使うのに、不自由する事はない。
しかし、この『王都学園で使える生活魔法』は画期的だった。
王都学園には〈学園の敷地内全体〉に大きな魔法がかけられている。
そして〈男女各寮を含む学園の敷地内〉で、生徒や先生を含む、学園の関係者だけが使う事ができる『学園の生活魔法』があるのだ。
その『生活魔法』は、前生徒会長のリアム・ノイズが発案したものだった。
彼は王都学園が開校されて以来の天才だった。その頭脳もさることながら、その魔力には底がないのでは?と思わせるものがあった。
彼は1年生で生徒会長になって、すぐに全ての生徒と教師を対象にして〈学園で不便に思っていること〉〈改善して欲しいと思うこと〉の調査を行なった。
その調査を元に、天才リアム・ノイズは、『王都学園の大改革』をやってのけたのだ。
その改革を行う為に、学園長、先生方、魔法騎士団総団長、国王陛下、などなど、沢山の人々への説明が必要だったのだけれど。
リアムが学園の敷地内の土地に、生活魔法のベースを練り込んだ魔力を流していた時だった。
『面白い事を考えつくものだな』
フェナンシル伯爵領で聞いた事のある声がして、紺碧の光の球が現れた。
その中に紺碧の髪をした美しい男性の上半身が映っていた。
「精霊王」
「久しぶりだな、リアム」
「広い範囲に我が血族の力を感じたので見に来てみれば、やはり其方だったか。この結界内だけに使える魔法か」
「はい。この学園の敷地内なら誰にでも、少ない魔力で、瞬間移動できるようにしたいのです。条件などは付けますが」
「面白そうだ。我も手を貸そう」
球体が消えて、紺碧の髪を後ろに流し、リアムには黒に見えるが、角度によって様々な色に見える長めのガウンを羽織った、美しい男性が現れた。
精霊という存在は気まぐれだ。それが例え王であろうとも。その気まぐれな精霊王が興味を持った。
敷地内の土地に必要な条件を盛り込んだ魔力を流すのは、精霊王カイがあっさりとやってくれた。
リアムは男女各寮と玄関のエントランス・ホールを結ぶ瞬間移動と、各教室と食堂と自分の寮の部屋を結ぶ瞬間移動を考えていた。
けれどカイは、〈あれも〉〈これも〉と大掛かりな魔法陣を組んで、イタズラ心満載に何やら楽しんでいる様子だった。
学生達の迷惑にならないのなら、この精霊王に任せておこう。
「2年後にエリザベートがこの学園に入学してきます。レティシア様から一度目の悲劇について聞いています。
彼女が聖女と出会うのはこの学園。
精霊王、僕は詳しくは知らない。もし知っているのなら、もしもの時に役立つ仕掛けも、練り込んでおいてもらえないでしょうか?」
この精霊王はきっと一度目の悲劇を知っているはずだ。だから、対策も練れるはず。
「それなら大丈夫だ。新しい聖女のことはどうでも良いが、瘴気が襲ってきた時の仕掛けはしておいた」
「瘴気が来るのですか?」
「そうだ」
「そうですか」
「さあ、遊びは終わりだ。久しぶりに楽しませてもらった。また、我に用がある時は名前を呼ぶと良い。『カイ』と」
「ありがとうございます。カイ。今日は助かりました」
精霊王カイは、満足そう頷いて消えて行ったのだった。
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