王都学園の入学式
エリザベート達はドリミア学園を卒業した。アメリアとエドモンドの婚約式も無事に終わり、ついに王都学園に入学する日がやってきた。
入学式は学園長の挨拶と新入生代表の挨拶などを中心に滞りなく終了し、いよいよ新入生の魔法属性と魔力を測定するイベントが始まる。
ドリミア学園の入学前に、生徒が確かに貴族の子女であるかを確認する為に、魔力測定を行っているので、殆どの生徒は魔力測定の経験はあった。
しかし、16歳になる年に王都学園に入学し、その入学式のあと生徒の魔法属性を調べるのが、この世界の伝統らしい。
魔法属性の調査は国家を上げての行事である。そのため、毎年、宰相と魔法騎士団の総団長が出席する事になっている。
今年はウィリアム殿下とエリザベートが入学するので、来賓席に国王陛下と王妃様、そして魔法騎士団の総団長とその妻マーガレットの席も用意されていた。
来賓席の近くに、魔法騎士団の団員が護衛として控えている。
魔法騎士団と近衛兵数名が一般客に混ざって、会場全体を守っている。
「只今より新入生の魔法属性と魔力量を測ります。測定後に属性とクラスを発表します。名前を呼ばれた生徒から順に壇上に上がり、水晶玉に手をかざして下さい」
壇上に大きな水晶玉が運び込まれた。
さあ!いよいよイベントが始まる。
この世界の魔法属性は大きく分けて5つある。
『土』『水』『風』『火』と『光』
その他にも、精霊魔法や闇魔法なども存在するのだけれど、今日の測定の対象ではなかった。
まず最初の学生が出て水晶玉に手をかざした。
「土属性、C組」
水晶玉が自動的にアナウンスする仕組みになっている。魔力量は測定時に見てるので、大々的には発表しないようだ。
「風属性、C組」
「火属性、C組」
「風属性、B組」
次々と名前が呼ばれクラスが決まって行く。
ウィリ様の名前が呼ばれた。
「土水風火の4属性、A組」
ウィリ様は光以外の全属性だった。
次はエド。
「水火の2属性、A組」
アメリアは
「土属性、B組」
エリザベートは
「土水風火の4属性、A組」
レティシア様に光魔法が測定されないようにする指輪を頂いての結果だった。
国王陛下の承諾も得ている。
エリザベートはウィリ様と同じ光以外の全属性と発表された。
アメリア以外はみんな特別クラスのA組に、アメリアはB組になった。
サウスパール王国のアンソニーは
「水、B組」
レオンは
「火、B組」
彼らはB組のようだ。
A組は『特別クラス』と呼ばれる。魔力と学力の両方が高い生徒のクラスらしい。
B組、C組、D組は、平均したら同レベルになるように、生徒が分けられている。
新入生の殆ど全員の属性の発表と、クラス分けが終わろうとしていた頃だった。
「ロリエッタ・トリエール」
先生が名前を呼んだ。
(ロリエッタ・・)
その女生徒は、フード付きのコートを着ていて、今まで全く目立たずにいた。
前に出て壇上に上がり水晶玉の前に立つ生徒は、全員、コートを脱がなければならない。
彼女は着ていたコートを脱ぎ、今まで座っていた椅子に置いた。
現れたふわふわブロンドの髪は、窓から差し込む太陽の光を浴びて少しピンクっぽく輝き、マリンブルーの瞳は真っ直ぐ水晶玉に向けられている。
エリザベートはすぐに分かった。
その可愛らしい女生徒ロリエッタは、壇上の水晶玉にゆっくりと手をかざした。
すると水晶玉は皓々(こうこう)と輝きはじめ、会場はその柔らかな光に包まれていった。
「光、A組」
水晶玉のアナウンスの音声が響く。
「光属性!」
「水晶玉が!」
「なんて清い光なんだ!」
「おお!神よ!」
会場は騒めき人々は感嘆の声を上げた。
来賓席にいた教会の関係者が彼女に歩み寄り、涙を流して膝を折り深々と礼をした。
ゲームの中と同じ風景だった。
このあと彼女は壇上から降りる事なく、生徒会長のアルベール・ロレーヌに手を取られ、沸き立つ会場全体に笑顔を向けるのだ。
「今日この式典で水晶玉の輝きを見る事が出来て、僕は感動している。諸君!我が国にもとうとう聖女様が現れたのだ」
そう言って生徒会長のアルベールはロリエッタに跪き(ひざまずき)、先ほどの聖職者と同様に、深々と頭を下げたのだった。
会場は割れんばかりの拍手がおこり、歓声に包まれた。
(ああ!また繰り返されるのだわ・・)
エリザベートは涙を流してロリエッタの元に駆け寄った教会の関係者を見ながら思った。
「聖女さま!」
父兄がいる一般席から誰かが叫んだ。
教会の関係者は彼女の手をとり、新入生を迎える言葉を述べる為に、壇上の中央にいたアルベールの近くまで案内した。
そして自分は来賓席へと戻って行った。
アルベールは静かにその様子を見ていた。
「君の名前は?」
壇上で自分に近づいてきた女生徒に、アルベールは尋ねた。
「ロリエッタ・トリエールです」
「ロリエッタ嬢、まずは、稀に見る光属性おめでとう」
「ありがとうございます」
ロリエッタは彼にニッコリと親しげな微笑みを向けた。
会場から大きな拍手がおこった。
「大変申し訳ないんだが、誘導者が間違えたようだ。君の来る場所はここではなく、新しく決まったクラスの席なんだ」
アルベールの言葉を聞いてロリエッタは、マリンブルーの瞳を見開き、驚いた表情を見せた。
アルベールはニッコリと微笑んで、彼女の手を取り壇上から壇下へと導いていく。下まで降りた時に彼女の手を離し、片手で彼女の座る席を示した。
そして彼はゲストにお礼の拍手をする時のように、その場で彼女に対して拍手をしたのだった。
会場全体に拍手は広まっていき、ロリエッタは拍手に押されて、先ほど決まったAクラスの席に向かって歩きだした。
彼女が脱いだコートがその場所に届いていた。
アルベールは壇上にもどり来賓席に対して敬意を表した。
「見事なものだ」
来賓席にいた国王陛下が言った。
「流石1年生の時から生徒会長に選ばれるだけの人物ですね」
アフレイドが答えた。
彼らから少し離れた場所に座っている宰相は、熱に浮かされたような表情で、ウットリとロリエッタを見ている。来賓席にいる他の人も、同じような表情で彼女を褒め称えている。
国王陛下とアフレイド、それに、教会の大祭司と学園長など、あの日、聖女レティシアの誕生パーティーに参加していたメンバーは、いつもと変わる事なく冷静に、この様子を見守っていた。
「彼女がそうだと思うか?」
「はい。おそらくは」
国王陛下の視線の先には、Aクラスの席に座ったロリエッタの姿があった。
アフレイドも同じように彼女を見ていた。
ゲームの中のアフレイドは、熱に浮かされ、陶酔した瞳でロリエッタを見つめ、彼女を褒め称えていたのだけれど。
壇上では生徒会長のアルベールの挨拶が続いていた。彼は今から始まる新しい学園生活について語り、全ての新入生にエールを送った。
「この学園には今年は王太子殿下も入学されました。他国の王族の方々もいらっしゃると伺っています。
また、この王都学園は貴族だけではなく、魔力と学力があれば誰でも入学できる学園です。皆、学びの中では平等であり、沢山の友達をつくる権利があります。
敬意は必要ではありますが、共に学び、成長していく姿勢が大切だと僕は思っています。
先ほどの光属性を持つ彼女も同様です。聖職者や聖女様が決まるのは学園を卒業してからです。
特別な扱いをする事なく、全ての学友に敬意を持って接することが大切だと僕は思っています。
新入生の諸君!一緒に有意義な学園生活を作り上げて行こうではないですか」
アルベール会長の話に会場は沸き立った。
王都学園の入学式と国家を上げての一大イベントでもある、入学生の魔法属性と魔力測定が終了した。
そして新入生のクラスが決まったのだった。
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