長い休みの後で
長い休みが終わって久しぶりの学園で、エリザベートは驚く光景を見てしまった。
いや、別に驚かなくてもいいのだけれど、なんというか、まさか?と言うか、本当に?と言うか、不思議な感じがした事は確かだった。
アメリアとエドモンドが同じ馬車で、一緒に仲睦まじいく登園して来たのだ。
ザワザワザワ
ザワザワザワ
驚いているのはエリザだけではないようで、遠巻きにしながら皆の目が、今、ブラウン伯爵家の馬車から降りてきた2人を見ている。
驚いて足が止まってしまっていたエリザだったが、その時、アメリアと目が合った。
「エリザ、ご機嫌よう」
そう言ってアメリアが駆け寄って来た。
「アメリア、ご機嫌よう。貴方達が、2人で同じ馬車で登園するって何があったのかしら?驚きすぎて馬車から降りるのを忘れそうだったわ」
「驚いたでしょう?」
アメリアはニコニコしながら答える。
「休みの間に色々、色々、沢山の事があり過ぎてね。私、エドと婚約する事になったのよ」
「!」
まさかとは思ったけれど、やっぱり、そのまさかだった。
けれど最高のカップルだわ。
「まあ!おめでとう、アメリア!」
「おめでとう、エド!」
後から追いついてきたエドにもお祝いを言った。その後は慌しい人の流れの中で、詳しい話しも聞けずに、午前の授業が始まってしまった。
「エド、私達の婚約のことがエリザにバレちゃったわね。良かった?」
アメリアに言われて僕は頷いた。
「すぐに分かることだろ?大々的に宣伝してもいいぐらいさ。アメリアは僕の恋人だよってね」
アメリアは少し頬を染めて、
「バカね」
と言って笑った。
学園に入った頃から、エリザが僕の想い人だという事を、何故かアメリアは知っていた。
僕はエリザに、6歳の頃からだから、かれこれ9年ぐらい片想いをしていた。
彼女を殿下の婚約者候補と思っていたぐらいだから、自分の恋人になって欲しいとは考えた事はなかったけれど、あの光魔法で身体を癒してもらった日から、彼女は僕にとって聖女様のような存在だった。
身体が、疲れ切っている事にも気が付かず、ただ、殿下に寄り添い、良き理解者でありたい。良き側近でありたい。きちんと警護出来る者でありたい。そう思って、ひたすら頑張り続けていた僕に、
「頑張り過ぎているわ。元気の補充が必要よ」
と言って、不思議な力で本当に元気を補充してくれたんだ。
「もう大丈夫、貴方は自由よ」
この言葉で僕は本当に自由になれた気がしたんだ。まるで神様に自由に行動してもいいんだよ。と言ってもらったような気がしたんだ。
殿下もエリザに恋をしていた。
近くでずっと見ていたから、僕には分かったんだ。
けれど、エリザは僕や殿下に恋をしていない。それどころか、時々、本当に時々、サッと壁をつくる時があるのを、僕もきっと殿下も知っているんだ。
何をそんなに怖がっているのだろう?
大丈夫だよ。
僕も殿下も君の味方だよ。
そう言ってあげたいんだけれど、その言葉すら掛けられない拒絶。
エリザは気づかれていないと思っているんだろうけど、僕も殿下も知っているんだ。
前に『悪役令嬢になる。』と言っていた事があったけれど、
「悪役令嬢になっても、私を見捨てないで。国外に追放しないでくれる?」
と、僕らに本気で懇願していた。
何をそんなに怖がっているんだろう?
「追放されたら僕が一緒に付いて行ってやろうか?」
「僕も一緒に行きたいな」
僕と殿下がそう言うと、
「それは国外追放じゃなくて、外国旅行じゃないの」
と言いながらも、安心した表情をみせていたんだ。殿下は何か知ってような気がしたけれど、それでも何も出来ない感じだった。
だから、きっと、君を本当の笑顔に出来るのは、僕らじゃないんだ。
殿下もそれがわかったから、アントワーズ様と付き合い始めたんだと思う。
この休みの間に、アメリアにも僕にも、色々な事があったんだ。
ブラウン家には弟のクロードがいる。
アメリアは1人娘で、グレイシャス家を継ぐ為に好きでもない男と婚姻を結ぼうとしていた。
そんな彼女とひと月、一緒に行動していて分かったんだ。
2人なら近くにいて支え合っていけるって。
いつの間にかお互いが大切な人になっている事に気がついたんだ。
僕はアメリアと結婚して、グレイシャスを名乗ってもいいと思った。
彼女を愛している事に気が付いたんだ。
殿下にはもう報告してある。
その日の昼休み、アメリアとエドモンドは、ウィリアム殿下とエリザベートに散々冷やかされる事になるのだった。
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