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緑の精霊ミール

お兄様と一緒にフェナンシル伯爵夫妻の眠る丘を訪れた日から、時々、不思議な事が起こるようになっていた。


朝、起きたらベッドの横のテーブルに綺麗な花が置いてあったり、庭の芝生が急に生き生きして、緑の絨毯を敷き詰めたようになっていたり。


昨日まで蕾もついていなかった木に、沢山の花が咲いていたり。


とても楽しくて、ワクワクするような不思議な事が起こるようになっていた。


不思議な事と言えば、あの日、亡くなったはずの、お兄様のご両親とお会いできた事もその一つだ。


『ゲームの中』のフェナンシル伯爵は、不思議な力を持っている方だった。


毒を盛られてから亡くなるまでの間に、闇に侵されていない領地に結界を張り、その結界の張られた地に、フェナンシル伯爵家の家宝を隠したりもしていたはずだ。


これはゲームの情報だから言わない方がいいわね。


隠された家宝の事は、いつかリアムが戻ってきた時に精霊王カイが伝えてくれる。

フェナンシル伯爵はそう信じていた。


風の精霊パールの宿るフェナンシル伯爵家の当主の指輪は、今、お兄様の左手の中指にある。


つむじ風を起こして瞬間移動が出来るのも、風の精霊パールの力なのだろう。


先日、フェナンシル伯爵領を訪れた瞬間に感じた神聖な空気の衝撃。


自分自身の中に流れ込んできた強い気配に、しばらくの間、意識を失ってしまっていた。 


倒れはしなかったので、お兄様は気がつかなかったようだ。


ハッと気がついた時に感じた神聖な気配。あれは精霊王カイだったのだろうか。 


フェナンシル伯爵夫妻が現れた時には、その気配はなくなっていた。


『ゲームの中』ではリアムが闇に堕ちた時に、風の精霊パールも黒い精霊に変わっていた。


風の精霊パールと同じように、沢山の精霊達が闇魔法に侵されて、黒い精霊に変わってしまっていた。


精霊王カイは、その黒い魔力に侵されはしなかったけれど、力が弱り、この丘の周りに結界を張るのがやっとだった。


今はお兄様は闇に堕ちていないので、風の精霊パールも黒い精霊にはなっていない。


きっと、このフェナンシル伯爵領には沢山の元気な精霊たちが暮らしているのだろう。


精霊王カイはどうしているのだろう?

自分の清い浄化の力で、精霊王カイが完全に復活できた事などしらないエリザは、ゲームの中で、弱り果てていた精霊王カイに思いを寄せるのだった。


自分が精霊王カイの加護を受けている事も、緑の精霊ミールが自分の守り手になって側にいる事も、何もしらないエリザだった。


10年前にアフレイド魔法騎士団総団長が率いる、魔法騎士団のメンバーが、フェナンシル伯爵夫妻に毒を盛った正妻ジャンヌ夫人や、ジャンヌ夫人の実家のジールデント家の者達、それに関わる闇魔法の使い手達を倒している。


その時、聖女レティシア様がフェナンシル伯爵領を、光魔法で浄化したおかげで、精霊達が正気を取り戻し、領土全体が生き返ったのだ。


先日訪れたフェナンシル伯爵領の空気は綺麗だった。お2人が眠る丘には精霊王カイの気配がまだ残っていて、お会いしたご両親も優しい気配に包まれていた。


良かった。


そんな事を考えて部屋で寛いでいると、緑の光が現れて、私の手のひらの中に収まった。


「ヴァイオレットの聖女さま」


その緑の光から声がした。


「ヴァイオレットの聖女さま」


光が薄れてそこに現れたのは、手のひらに乗るくらいの大きさの、透き通る緑の服を着て、薄い綺麗な緑の羽をもった可愛らしい女の子だった。


「まあ!」


エリザはヴァイオレットの瞳を丸くして、手のひらの中の、小さな訪問者を見つめた。


「私はヴァイオレットの聖女様ではないのよ。小さなお客様」


「ミールよ」


「こんにちは、ミール。私はエリザベート。エリザと呼んでね」


「わかった。ヴァイオレットの瞳のエリザ。私は緑の精霊ミールよ」


緑の精霊ミールは、フェナンシル伯爵領から私のポケットに入って付いて来たらしい。


「さっきミールが呼んでいた、ヴァイオレットの聖女さまは私のお祖母様なの。聖女様でなくて、ごめんなさいね」


「いいの、いいの。聖女様でもそうでなくても。私はエリザがいいの。エリザのポケットは気持ちがいいもの」


「まあ!ありがとうミール」


そんな話をした日から、ミールはよく私のポケットで休むようになった。


「私はエリザの守護精霊なのよ」


そんな事を言って、1人でポケットに入ったり、小さな不思議を起こしたり。 

こうして、『小さな緑の精霊ミール』が私の友人に加わったのだった。

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