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聖女レティシアの孫娘

☆☆☆アントワーズ視線☆☆☆


私はアミルダ王国のアントワーズ。

私には憧れて止まない人がいる。


それは、隣国に住んでいる私の従姉妹。

エリザベートお姉様だ。


お姉様は私よりも2歳年上の15歳。今は隣国のドリミア学園に通っていらっしゃる。


そのドリミア学園には、私がお付き合いをしている、ウィリアム殿下も通っていらっしゃる。


私と隣国のウィリアム殿下との婚約の話は、何年も前から進められている。


けれど、ドリミア国民のほとんどが、ウィリ様のお相手は、エリザお姉様だと思っているのだ。


そういう事になっているのには、とても重大な理由があるのだけれど、それは、ここでは省略しておこう。


エリザお姉様は5歳になったばかりの頃に、ウィリ様のお父様(国王陛下)から、


「息子ウィリアムとの婚約の話はなかった事にして欲しい」


とはっきりと言い渡されている。お姉様と一緒に聞いていたアフレイド叔父様は


「承知いたしました」


とすぐに返事を返されたらしい。


婚約の話が無くなったのは、エリザお姉様が、神のお告げのような夢を見たから。

それがビックリするような有り得ない話で。(夢なのだから、有り得ない話でもいいはずなのだけれど。)


ウィリ様がお姉様に、パーティー会場で婚約破棄を言い渡すという内容だったらしい。


このエリザお姉さまの夢こそが、ウィリアム殿下と婚約をした後の未来を見せた、神のお告げだと判断されて、婚約の話が白紙に戻ったのだ。


1人の令嬢の夢がそんなに重く受け止められるのには、訳があった。それは私達のお祖母様に関係している。お祖母様は、アミルダ王国の聖女レティシア様なのだ。


エリザベートお姉様はお祖母様に良く似ている。


お祖母様と同じヴァイオレットの瞳。

その上、お姉様は少しだけ光魔法が使えるのだ。


お祖母様は、エリザお姉様が光魔法を使える事は、公表しないようにと告げられた。ごく身近な信頼のおける者とアミルダ王家、ドリミア王家だけの秘密。


幼い頃にノイズ家の屋敷に遊びに行った時に、足を挫いてしまった事があった。

お姉様が両手を私の足に当てて、


「大丈夫よ、治してあげるから」


そう言った途端に、お姉様の両手と挫いた足が白い光に包まれて、そしてゆっくりと消えていった。


「動かしてみて。まだ痛い?」


「!」


痛くなかった。

さっきはあんなに痛かったのに。


「お姉様、痛くなくなりました」


「私は小さな光が使えるの。その小さな光でアントワーズの痛いのがなくなって、良かったわ」


そう言って頭を撫でて下さったのを覚えている。今から思うと、あの時、お姉様は6歳くらいだった。


少し大きくなってから、その時の話をすると、


「あの時は私もどうしたら良いかわからなくて、つい、光魔法を使ってしまったのよね。ワーズがとっても痛そうだから、焦ってしまったわ」


そう言っておられた。


「家の外で光魔法を使えるのは聖女様だけ。私が使って、もし聖女様と間違えられたら大変だから。世間が混乱してしまわないように、私は気をつけないといけないのよ。お祖母様に言われているの」


エリザお姉様はそう教えて下さった。


すごい!

聖女様と間違えられるほどの光魔法を使えるなんて!

やっぱり私の憧れのお姉様だわ。


私とウィリ様を引き合わせて下さった、私達の恋のキューピット。


私もそんなお姉様に負けないくらい、素敵な女性になれるように頑張りますわ。 



☆☆☆ アフレイド視線☆☆☆


マーガレットが出産の為に、実家のアミルダ城に里帰りをした時の話だ。


マーガレットが心配なあまり、実家にまでついて行った私をレティシア様(お義母様)は大歓迎して下さった。


そして、今のレティシア様の住まいであるアミルダ教会(城のすぐ近くにある)に、私達の部屋を用意して下さった。


それから数日後にエリザベートが生まれた。


「マーガレット!女の子だ!僕らの天使、エリザベートの誕生だよ」


名前はもう決めていた。


(実は男の子だった時の名前も用意していたのだけれど。)


「初めまして!エリザベート。僕が君のお父様だよ」


私の胸は喜びで満ち溢れていた。


一緒に来ていたリアムも赤ん坊に話しかけたり、笑いかけたり、楽しそうにしていた。


「おめでとうございます、アフレイド様。おめでとう、マーガレット。頑張ったわね。私にも可愛い孫の顔を見せて頂けるかしら?」


レティシア様はそう言って、生まれたばかりのエリザベートを抱き上げた。


『お帰り、エリザ。貴方を待っていたわ』


この時、レティシア様が生まれたばかりのエリザベートの耳元でそう囁いた(ささやいた)のを、私達は知らなかった。


エリザベートが生まれた3日後の夜、私とマーガレットはレティシア様の部屋に招かれた。


生まれたばかりの、エリザベートを連れてくるようにとの事だった。


寝ているリアムの側には、レティシア様の指示で、信頼のおける侍女がついてくれていた。


私達が訪ねた時に部屋にいたのは、レティシア様だけで、メイドは誰もいなかった。


用意されたベッドにエリザベートを寝かせ、私達にソファーをすすめた後、レティシア様が飲み物とお菓子を用意して下さった。


「わざわざ来て頂いてごめんなさいね。この部屋には盗聴防止の結界が張っているので、大切な話も安心して出来るのよ」


レティシア様はいつもの優しい表情だけではなく、アミルダ王国の王妃様だった頃の厳粛な雰囲気を漂わせて、私達を見ていた。


「アフレイド様、マーガレットはヴァイオレットの瞳を持っているのに、光魔法を使えないのはご存知よね?」


「勿論、知っておりますよ。お義母様」


「この赤ん坊、エリザベートも私達と同じ色の瞳をしているのも知っているわね?」


「ええ、知っていますわ。お母様」


私とマーガレットは顔を見合わせて、レティシア様の次の言葉を待った。


「エリザベートは光魔法が使えるわ。

ヴァイオレットの瞳を持つ聖女。

私と同じ存在になり得る子供です」


この世界には何人もの聖女が生まれる。

けれど、最高位の色ヴァイオレットを身につけた聖女の誕生は、数百年に一度、あるいは千年に一度と言われている。


レティシア様の前に、最高位の色を身につけた大聖女様が現れたのは、今から千年近く前だと聞いている。


ヴァイオレットの瞳を持つレティシア様が、アミルダ王国の聖女になった時の国民の喜びと興奮の様子は、今でも物語になって語り継がれているほどだ。


聖女の儀式が終わってすぐに、レティシア様は時の王太子、今は亡き、前国王と婚約した。


今のアミルダ国王のジョルジュ2世は、彼女の息子で、マーガレットの兄だった。


「『マーガレットは、ヴァイオレットの瞳だけれど、光魔法は使えない』このことは、両国の国民と両国の王家が知っています。


『マーガレットが産んだエリザベートも、ヴァイオレットの瞳を持つけれど、小さな光魔法しか使えないようです』


このように両王家に伝えて、この子の光の力と膨大な魔力を封印するのなら、私は協力を惜しまないわよ。


もし、この子を聖女にと望むのであれば、私が引き取り、しっかりと立派に育て上げてみせましょう」


聖女レティシア様の発言に、私は目を見張った。マーガレットも驚きの表情を浮かべていた。


「この子が・・・。お義母さまのような、レティシア様のような、大聖女様になるだけの魔力を持っていると仰るのですか?」


レティシア様は黙って頷かれた。


「ドリミア王国にはもう1人光魔法を使える子供が生まれます。誰にも話してはいませんが、神託がありました。


神託がなかったのは、この子の存在です。

だからこそ、貴方達に尋ねます。


この子をどう育てますか?

アフレイド・ノイズ魔法騎士団総団長殿」


「私は手元で育てたいわ。身内の聖女様はお母さま一人でじゅうぶんです。娘まで教会に渡してしまいたくは、ありませんわ」


「立場上、この事は王家に秘密には出来ない。けれどレティシア様にきちんと光の力と魔力を封印して頂けるのであれば・・。


普通の娘として育てる事を希望してもいいのでしょうか?


国王陛下への不敬にはならないでしょうか?」


「この子の光の力は大きすぎるわ。全て封印する事は私にも出来ません。


『光魔法は使えるけれど、聖女様になれるレベルではなく、小さな光を操れるだけ。

屋敷の外でその力を使うと、聖女様と間違えられて、世間が混乱するから、外では絶対に使ってはいけません。』


両王国にも、エリザベート本人にも、このように話せば良いではありませんか。


貴方がそこまで国王陛下を大切に考えているのですもの。不敬にはならないでしょう。


もし大問題になった時は、今、この場での事を映像にして、ドリミア王国の国王陛下に見て頂きましょう。


子を思う親の気持ちをきっとわかって下さいますよ。


それに、もし本当の事を話せば、この子は王家に囲われてしまいますよ。それほど魅力的な存在なのですから」


「私はこのアミルダ王家に嫁ぎ、陛下亡きあとは、アミルダ教会に入って、ゆっくりと余生を過ごしています。


この生き方も、それはそれで、後悔はしておりません。


けれど、この子には普通の令嬢として育つ自由が与えられているのです。


誰もこの子を予言していません。

誰も気がついていないのです。

それを生かさない手はありませんわ」


私はその通りだと思った。

だから、もう迷わなかった。

マーガレットも同じ気持ちなのだろう。


私達は見つめ合った。


「レティシア様。宜しくお願い致します」


「お母様、この子を守って下さい」


「本当に後悔はしないわね?」


私とマーガレットに迷いはなかった。


レティシア様は少し微笑みを浮かべ、目の前の赤ん坊の両手をしっかりと握って光魔法を使った。


赤ん坊は光に包まれて、神々しい程に輝き、そして、ゆっくりと輝きは消えていった。


輝きが消えた赤ん坊の右の胸の下に、赤い薔薇の花の形のあざが現れた。


「封印は終わったわ。この赤い薔薇は私からの祝福よ。人に聞かれたらそう言うといいわ。可愛い孫娘に幸運を」


そう言って、聖女レティシア様はマーガレットを抱きしめた。


「大丈夫よ、マーガレット。可愛い孫を産んでくれてありがとう」


あの日の事を忘れる事はないだろう。

エリザベートは何も知らずに、自分の光魔法を小さな光と呼んでいる。


大聖女のレティシア様でも封印しきれなかった光の力。封印しきれなかった魔力だけでも、ドリミア学園に入学する時の測定で大騒ぎになった程だ。


私の愛する天使、エリザベート。

君はどんな人生を歩んで行くのだろうね。

お父様は少し怖くなる時があるんだ。


けれど大丈夫だよ。

レティシア様もいる。

私やマーガレットもリアムもいる。


幸せになるんだよ。

私達のエリザベート。


アフレイドはあまりにも大きな力を持って生まれた愛娘の、幸せを祈らずにはいられなかった。

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