魅了の魔法
トントントン
生徒会室をノックする音がする。
「どうぞ。カギは掛かってないよ」
中から返事があった。
アルベール会長の声だ。
「食堂から定食を届けに来ました。失礼します」
そう言って、食堂の女性スタッフが生徒会室に入って来た。そしてアルベールの指示するテーブルの上に出前の定食を置いた。
「ありがとう。食堂にいく時間がなくてね。助かったよ」
配達してくれた女性にアルベールはお礼を言った。
「アルベール・ロレーヌ会長ですね。初めまして。私は食堂で働くエレナと言います。以前からアルベール会長に憧れていました。握手をして頂いてもいいですか?」
「それは光栄だな。じゃあ僕も改めて自己紹介しないとね。生徒会長のアルベール・ロレーヌです。いつも美味しいお昼ご飯を届けてくれてありがとう」
片手を出したアルベールの黒い瞳を見つめて、柔らかい微笑みを浮かべたエレナは、ゆっくりと彼に近づいてその手に触れた。
アルベールの瞳がゆらりと揺れる。
「エレナ嬢、君から目が離せない。僕はどうしてしまったのだろう」
いつの間にか二人は、まるで恋人達が愛を囁きあう時のように見つめ合っていた。
「貴方は私の恋の虜になってしまったのよ。アルベール会長」
エレナが優しい声でそう言った。
「君の綺麗な瞳に僕が映っているのが見えるよ。なんだかとても不思議な気分だ。可愛いエレナと呼んでもでいいかい?僕の事はアルベールと呼んで欲しい」
「ええ、もちろんよ。アルベール」
エレナは妖艶に微笑みながら、ますます近づいてきて、口と口。鼻と鼻がくっつきそうなほど近くから、アルベールの黒い瞳を覗き込んだ。
「ねえ、可愛いエレナ。僕の瞳に君は映っている?その綺麗な瞳も映っている?」
「ええ、貴方の瞳にも私が映っているわ。私の瞳も映っているわ」
それを聞いてアルベールは妖艶に微笑んで、エレナの髪を優しく撫でた。
「可愛いエレナ。もう一度、君がかけた恋の魔法をかけて欲しいな。
僕の瞳を見ながら恋の魔法をかける、君の声が聞きたいんだ。愛しいエレナ」
エレナは満足そうに目を細める。
「魅了の魔法が効いているのね。アルベール。貴方の瞳を見ながら、もう一度、魅了の魔法をかけてあげる」
「口に出して唱えて欲しいな。その優しい声を聞いていたいから」
「仕方がない人ね。アルベール。わかったわ。口に出すのは初めてなの。頑張ってみるわ」
「可愛いエレナ、君の瞳の中に僕がいるね。嬉しいよ。
まるで君の瞳の中の僕が、僕の瞳の中の君を見ているみたいだね。そんな風にみえればいいのに。
ねえ、本当に僕の瞳にも君は映っている?その綺麗な瞳も映っている?
もっと見つめて確かめてくれない?可愛いエレナ」
「まあ!可愛いのは貴方よ!アルベール。そんな事を考えるなんて。ウフ。
でも本当にそうね。貴方の瞳の中にいる私が、幸せそうにこちらを見ているわ」
エレナはアルベールの瞳をうっとりと見つめている。
「可愛いエレナ。嬉しいね。しっかりと僕の瞳の中の君の瞳を見つめて、魅了魔法を唱えてね。ワクワクするよ。」
エレナは魅了魔法を唱えた。
「これで、貴方は目の前の私の虜よ。貴方はもう私のものよ」
「そうなんだね?貴方は目の前の僕の虜。貴方はもう僕のものだよ」
「貴方は私になら、なんだって話せるの。貴方の秘密も家族の事も、人には言えなかった悩み事も」
「そうなんだね?貴方は僕になら、なんだって話せるんだよ。貴方の秘密も家族の事も。人には言えなかった悩み事も。
貴方はもう、僕の虜になったんだよ。可愛いエレナ」
「ええ、私はもう貴方の虜よ。アルベール」
「魅了魔法の続きを唱えてよ。可愛いエレナ。僕の瞳に映る君の瞳をもっともっと覗き込みながら。
僕の瞳に君は映っているかい?」
「ああ、愛しいアルベール。貴方の瞳に私が映っているわ!なんて素直な表情をしているのかしら?」
「僕の瞳の中の君にお願いして欲しいんだ。いいかな?可愛いエレナ」
「ええ、勿論よ」
「可愛いエレナ。オーバンや宰相セザールに何か怪しい動きがあれば、すぐに僕に知らせたくなるんだよ。
その日のお勧めのランチを持って、ここに話をしに来たくなるんだよ。
僕に秘密を話したら、とっても幸せな気持ちになれるから」
「オーバンやセザールに怪しい動きがあった日は、貴方にお勧めランチを持って来るわ。
注文がなくても必ず話をしに来るわ。貴方に秘密を聞いてもらえるのが楽しみだわ」
「最後の呪文がまだだろ?可愛いエレナ。僕の瞳の中の君に話しかけるんだよ」
「そうだったわ。今、ここで聞いた事も、見た事も、全部全部、忘れてしまうのよ。
とっても楽しい夢を見たの。貴方はもう私のものよ。」
「今、ここで聞いた事も見た事も、全部忘れてしまうんだよ。わかったね。とっても楽しい夢を見たんだよ。
アルベール・ロレーヌは君の魅了魔法の虜になったと報告するんだよ。わかったね。可愛いエレナ」
「ああ、アルベール。私のアルベール。わかったわ」
「さあ、食堂に戻る時間だ」
「ああ、戻る時間だわ」
「アルベール・ロレーヌは何も知らないみたいだよ」
「そうね、何も気がついていないみたいね」
「彼には興味を無くしたと、言うんだよ」
「ええ、もうアルベール・ロレーヌには何の興味もないと言うわ。愛しいアルベール」
「可愛いエレナ。さあお行き。僕の事は、忘れるんだよ。楽しい夢を見たんだよ。
そうそう、君はもう、誰にも魅了の魔法をかけてはダメだよ。今、かけている人以外は。君はもう僕の人形なのだから」
「わかったわ。アルベール。もう誰も虜にしないわ。今かけている人以外は。私はもう貴方の人形なのだから」
食堂の女性スタッフのエレナ。
君が悪いんだよ。
僕に魅了魔法をかけようとするから。
これからは、僕の手足になって働いてもらうよ。宜しくね。可愛いエレナ。
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