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悪役令嬢になります

初めての学園生活はアメリアやウィリ様達のおかげで思いのほか楽しくて、アッという間に一年が過ぎ、私達はドリミア学園の2年生になった。


今年はウィリ様をはじめ、お昼仲間は皆んな同じクラスになった。


前世の記憶を取り戻してからは、家族だけではなく、お父様の執事のクロードをはじめ『ゲームには殆ど登場しなかった人達』との交流も、大切にするように努めてきた。


学園でも『ゲームの中のエリザベート』のような奇抜で悪目立ちするような派手なドレスも着ていない・・・はずだ・・・


通学用のドレスも自分に似合う派手すぎないものにしてもらっている。


記憶を取り戻した時、ゲームの中のエリザベートと同じ運命をたどらないようにしようと決めた。そしてこれから自分はどうしたら良いのかを考えた。


そうよ!あのエリザベートと正反対な事をしよう。悪役令嬢にならないように気をつければいいんだわ。


傲慢にならない。

ワガママを言わない。

食べ物の好き嫌いを言わない。

人には優しく。

感謝の気持ちをもって。

きちんと挨拶をしてお礼を言う。

その他いろいろ・・


この9年間、私は本気で頑張ってきた。


それなのに、私は今もまだ、傲慢で自分勝手なワガママ娘と言われ続けているらしい。


「ご機嫌よう。エリザベート様」


「ご機嫌よう。エリザベート様」


毎朝、必ず、私に挨拶しに来て下さるクラスメイトが何人かいる。


彼女達は、私が将来ウィリ様と結婚すると思っている。だから、まるで私が、すでに王妃様になっているかのように、恭しい(うやうやしい)態度で接してくるのだ。


「エリザベート様とウィリアム殿下は、お互いに、なんと呼び合っておられますの?私、前からお聞きしたかったんです」


その中の1人が聞いてきた。


「殿下は幼い頃から私の事をエリザと呼ばれますわ。私はウィリ様と呼んでいます」


「まあ!素敵!本当に仲が良ろしいのね。後の婚約者候補の皆さんの、入り込む隙なんてありませんわね」


「本当にそうですわ。お2人の間に割り込むような人がいたら、私たちが許しませんわ。」


「そうそう、エリザベート様。婚約者候補のお1人が、うちのクラスにいるのをご存知ですか?私、昨日の昼過ぎに、ウィリアム殿下がその令嬢のハンカチを拾ってあげてるのを見てしまいましたの」


「まあ。ウィリアム殿下が?」 


「ええ、その令嬢にとても優しい笑顔を向けておいででしたわ」


「まあ!許せませんわ。ねえ、エリザベート様」


それはきっと、マルティナ様のことだろう。彼女は今も頑張っておられるのね。


それにしても、この方達の情報網はすごいわ。彼女達はゲームに出てきた『取り巻き』なのだろう。


「いえ、そっとしておきましょう。ウィリ様は誰にでも優しい方なのよ」


「余裕ですわね。さすがエリザベート様ですわ」


私は彼女達の話に微笑みながら、当たり障りのない言葉を返していた。


「エリザベート様の今日のドレスも素敵ですわ。本当によく似合っていらっしゃいますわ」


「エリザベート様の知識の深さには脱帽いたしますわ」


取り巻きのクラスメイト達はいつも、私に話しかけては、褒めて、持ち上げてる。


ゲームの中の独りぼっちのエリザベートは、どんな気持ちでこの取り巻き達の話を聞いていたのだろう。


この取り巻き達が、婚約破棄のパーティーの夜、エリザに言われて仕方なくロリエッタを虐めていたと、証言するのは、まだまだ先の話だ。


彼女達の話に乗らないように注意しなければ。そう思っていたのに。


取り巻き達が私を囲んで井戸端会議をするのは、朝の挨拶が終わった後の数分だけだった。だから私は彼女達のペースに任せていた。


けれど、それが不味かったのだ。

私はまだまだ甘かったのだ。 


ここはやっぱり『王国の聖女ロリエッタ』の世界で、悪役令嬢エリザベートには冷たい場所だった。


毎朝、私に挨拶をした後、学園の噂話をして盛り上がっている彼女達が、別の場所で別の教室で、沢山の人に広げている噂の内容を、2年生になってから、アメリアが耳にしてきた。


「私達のクラスにはエリザベート様がいるから大変なのよ」


「毎朝、挨拶をしに行かなければ不機嫌だし」


「あの大きな縦巻きロールもご自慢のようだから、褒めないといけないの」


「隣りのクラスのウィリアム殿下に話しかけただけで、口も聞いて頂けないのよ」


「まあ!ひどい!」


「エドモンド様にご挨拶をしただけで、睨まれた方もいらっしゃるのよ」


「怖いわ」


「だから誰も、ウィリアム殿下とエドモンド様に近づけないのよ」


私はそれを聞いて呆れてしまった。


「はあ?何?それ?」


前世の私ならばきっとこう言っただろう。

そういう気分だ。 

前世でなくても言ってもいいだろうか?


「私は他の生徒の行動などに興味がない。

ウィリ様に話しかけるのなら、お好きにどうぞ。エドに挨拶するのもご勝手に」と。


挨拶も別に来てもらわなくて良かったのに。

この大きめの縦巻きロールも。自分が気に入っているから、それでいいのに。


なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。


アメリアからの情報だけではなく、エドにもお願いして、今までの私に関する噂話の情報を、集めてもらった。


「エリザ、お前も大変なんだな」


集めた噂話を教えてくれながら、エドが同情の眼差しを向けてくれる。


「ありがとう、エド。これで心が決まったわ」


「どう決まったんだ?」


「私、悪役令嬢になってもいいわ」


「「悪役令嬢?」」


「悪役令嬢か。面白そうだね。エリザに似合いそうだ」


「確かに、似合いそうだ」


「悪役令嬢になっても、私を見捨てないで。国外に追放しないでくれる?」


「大丈夫だよ、エリザ。約束しよう」


ウィリ様はやっぱり優しい。どさくさに紛れて、ウィリ様に国外追放をしないと約束させてしまったわ。


「追放されたら僕が一緒に付いて行ってやろうか?」


「僕も一緒に行きたいな」


「それは国外追放じゃなくて、外国旅行じゃないの」


「でも二人ともありがとう。私わかったの。黙っていても悪役令嬢にされてしまうって。だったら、きちんとした悪役令嬢になろうと決めたのよ。」


「エリザはやっぱり面白いな」


「それがエリザだからね。しっかり考えて、良い悪役令嬢になるんだよ」


「ありがとうウィリ様。私、良い悪役令嬢になるわ。だから、絶対に国外追放しないでね」


「わかったよ」


「『良い』悪役令嬢か。お手並拝見だな」


「なんだか楽しそうね。悪役令嬢の友達も必要じゃない?」


「アメリア。その役を頼める?」


「もちろんよ。『悪役令嬢エリザベートを見守る会』を作るわ」


「見守る会か面白そうだね、殿下」


「しっかりやるんだよ、エリザ」


何も知らないのに、私を応援してくれると言う貴方達がいるから、私は頑張れる。


お父様とお兄様はもう大丈夫だ。

アメリアと言う親友もできた。

少しずつ変わってきている。


ここで勇気を出して私らしく生きよう。それで悪役令嬢と言われるのなら、それでいい。


「明日のお昼は食堂に行きましょうか?」


そう言った私に3人とも笑って頷いてくれたのだった。

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