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退屈しのぎの生徒会長

僕の名前はアルベール・ロレーヌ。

ドリミア学園の生徒会長をしている。


僕が入学した時、このドリミア学園には1人の天才が存在していた。

その人はただの天才ではなかった。

魔力、知力、カリスマ性。どれをとっても全て他の生徒と比べものにならないレベル。

そして授業など受けなくても、何もかもを知っているのではないかと思う程の豊富な知識量。


その人は生徒会長だった。


「ようこそ、ドリミア学園へ」


彼は初めにそう言って話し始めた。入学してきた僕達や家族に祝辞を述べ、先生方にも丁寧な挨拶をした。


「このドリミア学園は生徒の意見を尊重してくれる学園です。その為に生徒会があります。

この学園で僕達と一緒に、沢山の事を学んで、自分達で考え、行動し、問題を解決して行きましょう。

今から始まる学園生活を、共に謳歌出来ればと思っています」


僕はまるで何かに打たれたように、


その人の姿を見ていた。


今まで何をしてもつまらなかった。


勉強も遊びも魔法も。

教えてもらったら、その場で出来た。

新しい事もその場で覚えてしまった。

いつも、いつも、称賛された。

なんだか、つまらなかった。


きっとこの人も同じだ。

そんな気がした。


入学式が終わって数ヶ月して学園にも慣れてきた頃だった。


「ドリミア学園での生活はどうだい?」


教室に1人残っていた僕に、その人から声がかかった。


「まあまあですね」


「まあまあか」


生徒会長のリアム・ノイズ


「もうすぐ、次の生徒会長を決める選挙があるんだけど」


「選挙ですか?」


「アルベール・ロレーヌ君。やってみない?」


「生徒会長をですか?」


「そう、生徒会長」


「僕はこの間、入学したばかりの1年生ですよ」


「知ってる」


「どうして僕なんですか?」


「君ならやってくれると思ったから・・かな。退屈そうだし」


「・・退屈そうですか?」


「そう。生徒会長は忙しいよ。やる事が沢山あって」


「貴方はもうすぐ卒業されるのに、次の生徒会長にこだわる理由はなんですか?」


「ハハハ・・」


彼はおそらく僕と考え方が似ている。

自分が在籍していない学園の運営になど、全く興味は無いはずなのだ。

その彼が僕に生徒会長を薦める理由に興味があった。


「君が生徒会長になるなら、教えてあげる」


「貴方は退屈が紛れましたか?」


「紛れたよ。なかなか楽しかったかな。まあ・・僕の場合は家が賑やかだからね。ここ8年くらいは退屈してなかったんだけどね」


「それは羨ましいですね」


「やってみる?」


「退屈が紛れるのなら、やってみましょうか」


「じゃあ、決まりだね。僕が推薦しておくよ」


「『次の生徒会長にこだわる理由』を聞いていませんけど?」


「ああ・・。僕の妹がね、来年、入学して来るんだよ」


「それが理由ですか?」


「そう。それが理由。学園を、いや、妹を、きちんと守れる人物に生徒会の長になって欲しいんだ。

僕が守れればいいのだけれど、僕は卒業してしまうからね」


「過保護ですね」


「そう。過保護なんだ」


「わかりました。引き受けますよ」


「ありがとう。宜しく頼む」


その後、直ぐに僕は生徒会長になった。

学園の長い歴史の中で、1年生で生徒会長になったのは、リアム・ノイズ会長と僕だけらしい。


『学園を、いや、妹を、きちんと守れる人物に生徒会の長になって欲しいんだ。

僕が守れればいいのだけれど、僕は卒業してしまうからね』


あの日、あの人は僕にそう言った。

守ると約束したのに。

それなのに、半年前の魔法学教室の事件が起こってしまった。

あれは結局、某国のお家騒動がらみの事件だった。

生徒会が介入できる範囲の事件ではなかったのだけれど。


それでも・・・

僕は守ると言ったのに 


あの人の妹が緊急魔法を使うほど、危険な事件だったというのに、僕は気が付かなかったのだ。


彼女が緊急魔法を使った直後、魔法騎士団のアフレイド総団長と殆ど同じタイミングで、リアム会長も現れたと聞いた。妹を助ける為に。


約束していたのに。

僕には出来ると思っていたのに。

僕は守れなかった。


とんだ思い上がりだった。

自分の力を過信していた。


学園の食堂のランチが美味しくないという理由で、ノイズ公爵家のシェフが、毎日ドリミア学園にお昼を届けるようになって、もうすぐ1年。


『食堂の料理は私の口には合いません。』


彼女ははっきりそう言っていた。

あれから僕はすぐに調査した。

そして、食堂の食材のレベルが落ちている事を突き止めた。

食堂の責任者と学園の幹部職員が関わった汚職が、背後にある事もつかんだ。


超一流のシェフが調理すれば、食材のレベルを少しぐらい下げても、ほとんど味は変わらなくなる。それはそれで良いのだけれど、彼らはシェフの腕を悪用していたのだ。


食堂の責任者は長年勤めていたシェフが辞めたあと、自分の知り合いのシェフを採用していた。


長年勤めていた優秀なシェフは、病気の妻と一緒に、隣国にある快適な療養所で過したいから、という理由で退職していた。


その療養所を紹介したのは、汚職に関わっている学園の幹部だった。


何か裏があるのでは?アルベールも前のシェフには会って話した事がある。本当に彼は退職を望んでいたのだろうか。

あれほど食材にこだわりながら、自分の仕事に誇りを持っていた人が。  


ドリミア学園の食堂は注文と同時に支払いをする。その時、生徒の名前が分かり、家の貴族階級も分かる。


汚職に関わる者達は用意周到で、生徒会役員から注文があった時や、上位貴族、王族の子息、令嬢には、以前と同じ上質の食材を使っ達料理を出していた。


そしてそれ以外の生徒には、数段おちるレベルの食材を使った料理を出していたのだ。


数段落ちるレベルの食材でも、シェフの腕でグッと美味しくも出来る。ここで問題になるのは、レベルを下げた食材を使ったランチの値段を、こだわりのある今までの高級食材を使っていた時と、同じ値段で提供していることと、食材のレベルを下げた事を秘密にしていることだった。


僕達がその事を突き止めて学園長に知らせたので、すぐに改善されるはずだった。


けれど、あとは学園側に任せて欲しい、と学園長から言われてしまった。大きな事件との繋がりがあるらしい。


僕は残念だったが学園長達に任せる事にした。そして、例外ではあるけれど、エリザベート嬢にもその経緯を説明した。


彼女達が入学した週は沢山の国家行事があった。だから王太子殿下もその週は学園には来られていない。


エリザベート嬢が、毎日食堂に通っていたのはこの頃だ。


まさか、ウィリアム王太子殿下の最有力婚約者候補の、エリザベート・ノイズ公爵令嬢が、1人で食堂に通っているとは誰も思わなかったのだろう。


彼女が学園に入学して来た事を知っていた関係者、彼女の顔を知っている者達は皆、登城して留守だった。


だから、彼女は上位貴族の関係者として扱われなかったのだ。


この姑息な犯罪に関わった者にとって不幸だったのは、ノイズ公爵家の令嬢、エリザベート・ノイズ嬢の舌が天下一品だったことだ。


それともう1人。

ブラウン伯爵家の息子、エドモンド・ブラウン 


ウィリアム殿下が休みでも彼は毎日通学していた。そして食堂でランチを食べてから登城していたのだ。


「お腹が空いてたら、頭も回らないし、力も出ないですからね。お昼を食べるのも、側近の職務の一環ですよ。それに、次の週から殿下が食する食堂の味も、知っておきたかったし。」


忙しい中でどうして毎日、食堂に通ったのか尋ねた時、彼はそう言っていた。


食堂の関係者は、彼がウィリアム王太子殿下の側近だと把握していなかったのか。

伯爵家は彼らにとって上位貴族に含まれなかったのか。


おそらく彼の顔を知る者も全員、登城してしまっていたのだろう。


本物の味が分かるとは。さすが王太子殿下の側近に選ばれる人材だ。


よりによって、この2人の顔を把握していなかったとは!情け無い奴らだ。

けれど1番情けないのは、まんまと騙されていた自分自身


それにしても・・・


貴方が『家が賑やかだったから、退屈しなかった。』と言った意味が、なんとなく理解できてしまいましたよ。リアム会長。


魔法学教室での事件は不覚だったけれど、この汚職の件は、僕がこの学園の生徒会長をしている間に解決したい。


案外ぼくは生徒会長に向いているのかも知れないな。


1年前、生徒会のメンバーの女生徒に


「エリザベート・ノイズ嬢とはどんな令嬢か知っている?」


と尋ねたことがある。リアム会長の妹がどんな人物か知りたかったから。


僕の質問に驚いた顔をしたその女生徒は、こう教えてくれたのだ。


「最近の事は知らないのですが、本当に幼少の頃、3、4歳くらいの頃に、お城のパーティーで、何度かお話しした記憶があります。


何というか、当時はとても行動的でわがままな令嬢でした。

華やかな見た目と家柄。王家との関係。全てを自慢気に友達に語っておられました。


ウィリアム王太子様はそんな彼女を優しく見ておられました。


もう9年ほど前の幼い頃の記憶ですが、その時のエリザベート・ノイズ様は、プライドが高く傲慢なわがままな次期王妃殿下。そんな印象を受けました。」


「とんでもない令嬢だね。」


僕がそう言うと


「出来たら関わりたくはないですね。」


いつもは温厚で真面目な生徒会役員。

そんな彼女はそう言って自分の席に戻って行った。


食堂のランチが口に合わないだけで、学園の中庭に、自宅から一流シェフと料理を運び込んでしまう令嬢だ。

その幼い頃の事を聞いても頷ける。

ただ・・

僕の印象とかなりかけ離れているのが気になるところだ。


リアム・ノイズ会長が僕を生徒会長にしたかった本当の理由。

エリザベート・ノイズ嬢。


「出来たら関わりたくない・・か。」


真剣な顔をして、食堂の料理の味について語っていた勝ち気そうな女生徒を思いだして、フッと目を細めるアルベールだった。

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