オヤスミ、たぬきさん
--ある人里はなれたところにあるキレイな森に、いたずら好きのたぬきさんがいました。
たぬきさんには、友達がいません。
たぬきさんは、きつねさんもりすさんも、はとさんもからすさんも、いのししさんもみんなみぃんな、大好きでした。
けれど、 きつねさんもりすさんも、はとさんもからすさんも、いのししさんもみんなみぃんな、たぬきさんの事を大嫌いでした。
「家に、帰らなきゃ、家に、家に、早く」
たぬきさんは沢山沢山悩んでいました。
『きみなんて友達じゃあないよ』
口を揃えてみんなみぃんなそう言います。
「帰らなきゃ、家に、そうしないと、ね、ね、だめだから、だめだから、急がなきゃ、ね」
たぬきさんは、こうべをたらして半ば身体を引き摺るようにして森の奥へと歩いていきます。
道中たぬきさんは、ホーホーと鳴きながら首をかしげるフクロウさんを見付けました。
声は、かけませんでした。
ダリアが咲いています。
白詰草も。
ピョンピョンと蓮のはっぱの上を艶々と背中を艶めかせて跳ねるかえるさんも見付けました。
目を、逸らしました。
たんぽぽがふわふわゆれます。
チューリップがたぬきさんを嘲笑うように感じました、笑いなんてしないのに。
ペタリペタリと足音が聴こえ、皿に反射した光がたぬきさんの目に刺さりました。
たぬきさんは重たい身体を引き摺るようにして駆け出しました。
「怖い、早く、家に、ごめんなさい、家に」
キリギリスの鳴き声が乱暴に脳髄を切り裂くようで耳を塞ぎます。
砕けた足元のりんごには、蟻が群がっています。
たぬきさんは、泥濘に浸かったように重たい足を加速させます。
また、木々の隙間を縫うようにパカラパカラと蹄の音がします。
這いずるように、にじりよって来ます。
ポニーちゃんのキレイなたてがみを横目に見て、たぬきさんは足音を忍ばせて、森に溶け込むように、沈み込むようにして家路を急ぎます。
乾いた太陽に照らされないよう、努めて木陰を選択しました。
地響きがします、地響きがします、無花果の香りがする、べとついた感触が。
百合が、不快に香る、猫じゃらしが足に刺さる、チクチクと、痛痒い。
巨人に掛けられた言葉がリフレインする。
たぬきさんは足を早めながら「違う、違う、ごめんなさい、違う!!」と言います、景色が吹き飛ぶように後方へ流れていきます。
走馬灯のように、今までの行いが脳内を流れていきます。
たぬきさんは堪えきれずに、「あ"あ"あ"あぁぁぁぁっっ!!」と顔面を掻き毟り叫びだしてしまいました。
--パタリ、と音を立てて、地面の横穴に掘られたたぬきさんのお家のドアが閉じられました。
たぬきさんは、何も考えられずにベッドへ倒れ込み、そして、枯れるまで泣きました。
ズタズタになった顔の傷に涙がしみて、でもなんだかそれにたぬきさんは安心して、目を瞑りました。
明日の明日のそのまた明日のために、ゆっくりと、固く目を瞑ました。
さて。
今日のところはオヤスミ、たぬきさん。
また、明日……
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