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森のおともだち  作者: ゆーみん
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微笑む巨人

「やぁ、こんにちは」


 ズシンズシンと、不自然に小さな歩幅でお山の上を歩く巨人さんがいたので、たぬきさんは声をかけました。

巨人さんは一言、『やあ、こんにちは』と言って大きな手のひらにたぬきさんを乗せると、肩口へと一息に運びました。

 なやめるたぬきさんは巨人さんに相談してみました。


「ねぇねぇ、なんでぼくには友達ができないんだろう?ぼくはみんなが大好きなのに」

「それはね、君が好きの伝え方をまちがっているからだよ」


 たぬきさんはとても戸惑いながらまた聞きました。


「好きの伝え方って?」

「君はさ、自分が楽しいことなら、相手も楽しいはずだと思っていないかい?」


 胸に手を当てて考えてご覧よ、巨人さんがそう言うと、たぬきさんは胸に手を当てることなく口を開きました。


「ぼくが楽しいなら、みんな楽しいはずだよ」


 --少しばかりの静寂のあとに、いつもよりも雲に近い巨人さんの肩の上に、柔らかな風が吹き抜けます。

ぽかぽかとお日様が笑います。

ウグイスも楽しげにたぬきさんに向けて歌を歌います。

枝下桜も恥ずかしげに揺れています。

 巨人さんは、にっこりとたぬきさんへ微笑みかけて言いました。



「だから君には友達がいないんだよ」



 ズシン、ズシン。たぬきさんには、訳がわかりませんでした。

地響きのような足音がお山に響きます、たぬきさんの腹にもズシン、ズシンと地響きが鳴ります。

なんだかドキドキしてたぬきさんがずっと何も言えないでいると、その間も巨人さんは優しい口調で続けます。


「君はね、感情に疎いんだよ。自己を他人に投影する割に、他人には感心がないのさ」

 何も言えないながらも、たぬきさんは考えます。

 よく、わかりません。

「想像力に欠けているのさ」

 どういうことでしょう。

「例えばね、君が生爪を剥がされるとしたらどうだい。痛いのは嫌だろう」

 目が、泳ぎます。

 痛いのは、嫌です。

「身体を汚されるのは?あぁ、嫌なんだね。じゃあ体毛にいちじくの絞り汁を垂らされたらどうだろうか」

 汚いのも、嫌です。

「試しに、君を肩口から払い落としてみようか。地面に落ちた君はきっと潰れた無花果(イチジク)みたいで、きっときっと綺麗で僕はとても楽しくなるだろうね。そうしたら君も、楽しいかな」

 楽しくなんて、

「行動にはね、必ず他者の反応が紐付いているんだよ」

 考えたことも、ありません。

 巨人さんが立ち止まっているというのに、地響きが止みません。

「だから必ず行動する前に立ち止まって考えるんだ。自分がされたらどうだ?って、ね」

「爪を剥がされたら、尻の穴に茎を刺されたら、頭を石で殴り付けられたら、果汁を身体に浴びせられたら、どうだ?って」

 ぐるぐると視界が回ります、地響きがします、お日様が照らします、眩しい、目眩がする、いちじくの香りがする、視界が、回る。


「君は、欠陥があるということを自覚して、他人に対して慎重になるべきだ。なるべくね」


 たぬきさんは、ひとしきり考えた後に、小刻みに震えるようにして巨人さんのお顔も見られずにコクコクコクと頷きました。

 対照的に満足げにゆっくりと頷いた巨人さんは、たぬきさんを大きな手のひらに乗せて花畑の真ん中へ優しく下ろすと、そうだ、と一言呟いてたぬきさんへ投げ掛けます。


「なんでぼくがずっと微笑んでいるか、わかるかい?」


 たぬきさんは、フルフルフルと小刻みに半ば痙攣するようにして首を横に振りました。

 巨人さんは、それはね、と前置きをすると、

「かわいそうだからだよ」

と言って、不自然に小さな歩幅で、努めて生き物を踏まないようにして山の向こうへ歩いていきました。


 たぬきさんは、ふわふわとした感覚に捕らわれながら顔を上げていられずに足元に目を向けました。

草花の茎に蜘蛛が卵を産み付けています。

太陽にミミズの死骸がカラカラに干されています。

嫌に生ぬるい風が吹いてます。

種類もわからぬ無数の虫達が、無機質に鳴いています。




 たぬきさんは、お花畑の真ん中で、膝を抱えて泣いてしまいました。

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