10 挨拶
目が覚めると、薄暗い。
ああ、幌の外の景色を遮断するだけじゃなくて、幌の前後を閉じて遮光してくれたんだ。
アレなおっさんには勿体無いくらいの優しい気遣いに、俺、ちょっと泣きそう。
幌の前側を開けると、
「おはようございます、ロイ様」
おはよう、セシエリアさん。
「もうすぐお昼なのに、おはようなの?」
そうだよ、ハルシャちゃん。
確か、芸事を生業としている人たちは、朝昼晩いつでもおはようなんだよ。
俺、この旅ではツッコミばっかりで、なんだかツッコミ芸人みたいだし。
って、ツッコミ芸人ってなんだっけ。
「おはようございます、おじさま」
おはよう、ニケルちゃん。
寝起きのおじさんの顔を、こんな近くで見せちゃってごめんね。
みんなに挨拶が済んだら、すぐに顔を洗ってくるから。
「ロイさん、お昼、なにか食べたいのある?」
そうだね、マクラちゃん。
みんなが楽しんで作ってくれたものなら、なんだってたくさん食べたいな。
「カミスから聞いた話しなのですけど、妻から何を食べたいかと聞かれてあやふやに答えるのは夫婦げんかの原因の上位三位に入るような揉め事の元、だそうですよ」
えーと、エルミナさん、
カミス君とはそんなことでけんかしないでくださいね。
「そうですわ、エルミナさん。 リノアさんはそのような理由では怒ったりなさらないでしょう」
すみません、ユイさん、
実はリノアは食べ物関係だけは結構気を使う事案が多いのです。
「乙女の、秘密、ですよ、ロイ様」
ごめんなさい、セシエリアさん、
リノアには内密に。
って、よく見たらその狭い御者席に全員で座っていたんですか。
「あらロイ様、今この場にいる乙女たちみんな、横幅で苦労している者はおりませんよ」
ごめんなさいセシエリアさん、許してください。
みんなもごめんね。
「では罰として、朝食抜きだったロイ様には、お昼はたくさん召し上がっていただきますね」
謹んでお受けいたします。




