捌の巻 狐払い
前回以上にシリアス回ですみません。
側室藤姫の受難の話ですが、藤姫本人は出てきません。
ええ、あくまでも政宗様と愛姫様のいちゃこらが書きたいだけなのです。
少々きわどいシーン有りですが、細かい描写なしだからR指定無しで大丈夫…でしょうか?
「藤姫を太閤に差し出しただと?!」
怒りに震える俺の足元には、伏して頭を下げる愛姫の姿。
「何の権利あってそのような馬鹿げたことをした!藤姫は俺の側室だ!俺の許可もなく誰の許しをもってそのようなことをしたのだ!」
「お怒りごもっともにございます…ですが…致し方なかったのでございます……」
顔を上げた愛の顔ははらはらと落ちる涙に濡れていた。
その瞼は毎夜泣いていたのか赤く腫れている。
おそらく藤姫を差し出したその日、いやそれを考えねばならなくなった日から涙していたのだろうと、怒り狂っていた俺ですら容易に想像できる程に。
その儚い妻の様子に激しい怒りが少し落ち着けば、己の妻に怒りをぶつける前に問わねばならない事やとるべき態度があったであろうと気付かされ、直情すぎる己の不甲斐無さに呆れるほかない。
優しいこの妻が、悋気や下らぬ理由からそのようなことをするはずもないのだから。
深く溜息をつきながら愛の前にしゃがみ、俺はその手をそっと取った。
「一体どうした仕儀でこのような事に相成ったのだ…愛」
「実は…当初は太閤様より…私を召しだすようご下命があったのでございます…」
「な…んだと……?!」
声は確かに聞こえていた。
しかしその意味を理解するまでに、しばしの時間を要した。
「愛に狐がついている…太閤様御自ら狐払いの祈祷をされると言われて…今宵登城せよと…」
「…あんのぉ色好みの禿げ太閤がぁ!!!」
あまりの怒りに握りしめた拳は震え、目の前が真っ暗になる。
俺は怒りに震えながら愛の細い肩を力いっぱい抱き寄せた。
「殿にご相談しようにも岩手沢は遠く…初めは私が…伏見へまいろうかと思ったのです…」
「馬鹿な!そんなことが許せると思うのか!」
「喜多もそのように申しました…しかし、断れば伊達家はいかが相成りましょう?おそらく太閤殿下のお怒りを買い、苦境に立たされることは目に見えておりまする」
俺の腕の中で俯く愛の涙を指で拭い、上を向かせるとそっと触れるだけの接吻をする。
愛は小さく震えていて、その日から恐怖の日々が続いていたことが分かる。
「だからと言ってお前は俺の正妻だ!そんなふざけたことがまかり通って良いはずがないだろう!」
「昨今の太閤様は、大名の妻子であろうと公家の娘であろうと所望されると聞き及んでおります。いっそ私も……利休様のご息女お銀様のように自害して果て……武将の妻としての覚悟を示そうとも思ったのですが…」
「ダメだ!そんなことは俺が許さん!!こんなことで何故お前を失わねばならんのだ!お前は俺のものだ…太閤だろうと誰であろうと渡せるはずがあるものか!!」
愛を掻き抱き、憤るその思いのままに組み伏せた。
涙に濡れた愛の瞼に唇を寄せ、額に、頬に、唇に、首筋に口づけを落としてゆく。
「き、北政所様に…ご相談をとも思ったのですが…ぁっ生憎…湯治に出かけられていて…あ…ぁは…」
懸命に話そうとしている愛の着物を乱し、裾を割り開いてゆく。
白い肌に俺の所有印を赤く散らしながら掌で肌の感触を確かめる。
愛の不安を罪悪感を少しでもなくしてやらねば。
そして今、確かに愛が己の腕の中にいるのだと確認せねばという俺自身の不安をも拭いたかった。
「それで…はぁっ……喜多がぁ…藤姫であれば…ぁあっ太閤殿下も…お気に召すのではと…ぃ…はぁ…」
「もういい…それ以上何もいうなっ!」
噛みつくように口づけて自分の着物を脱ぎすてた。
猛る己を愛に沈めながら俺は熱く頬が濡れるのを自覚した。
分かっている…分かっているのだ。
愛にも、喜多にも、もちろん藤姫にも罪はない。
断腸の思いで代理を頼んだ二人も、身を挺して伊達家と愛を守った藤姫も深く傷ついているのは間違いないことで。
藤姫を失ったのは偏に、天下を手に入れたのが俺でなくあの太閤だからなのだ。
あと10年。
あと10年早く生まれておれば、あのような男になど遅れをとらずに済んだであろうものを!
苛立ちも悲しみも悔しさも。
俺の全てを受け止めてくれる愛に今は溺れていたかった。
藤姫可愛そうだったよね…と思いながら書いた話です。
そして結局は愛に慰めてもらったんじゃないかなぁと。
太閤秀吉も関白秀次も色好みとして知られていた訳ですが、どういう叔父甥なんだかと思ってしまいます。
まあ、彼ら側から見ればまた違った風に見えるのでしょうが、それでもまだ年端もいかない若い娘や人の奥さんにまで手を出すとかはさすがに…。
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