陸の巻 露天風呂
久しぶりの更新ですみません。
夫婦で露天風呂に入るだけの話です。
「愛!いいかげん入って来い!」
「…でも…政宗さま…」
満月の月明かりの下、大きな岩越しに交すこの会話も、今宵何度めだろうか。
なかなか懐妊しないことを、母上から日頃いろいろと言われている愛が不憫に思えた俺。
今朝早くから愛を連れ出し、一緒に飲めば子宝に恵まれると言う領内の神水を飲みに行ってみた。
効果が有る無しはともかく、愛の気分転換にでもなれば良いと思ったのだ。
しかも、愛は秋保は初めてだと言っていたからな。
日暮れも近くなったので、所有している内のひとつ、温泉近くに作らせた休憩用の館に泊ることにした。
大岩に囲まれた露天風呂に一緒に入ることにしたのだが…。
「俺しか見ておらぬ。第一、俺はお前の肌は隅から隅まで知っているのだぞ?今さら隠すこともなかろうが…」
「し、寝所と屋外では訳がちがいまする…愛は、愛は……恥ずかしゅうございます…」
湯着を着ている愛は、先ほどからこのように恥ずかしがってなかなか入って来ない。
このままでは愛も風邪をひいてしまうし、俺も一緒に入る前に逆上せてしまうではないか。
「分かった!俺はそちらに背中を見せておくゆえ、それなら入れよう?」
「…本当でございますか?…でしたら……ご、ご一緒いたします…」
ようやく決心がついたのか、躊躇う様なか細い声の後、岩の向こうでシュルリと衣ずれの音がする。
ひたりひたりという足音が近付いて来て、ようやくかと小さく笑ってしまった。
パシャパシャと掛かり湯らしき音がして、チャポンッと湯が小さな音を立てて揺れ、柔らかな波紋が広がった。
「どうだ?気持ちよかろう…」
「はい、殿。屋外の湯は恥ずかしゅうございますが…とても気持ち良いものなのですね」
一緒の湯につかっているはずなのに、愛の声が遠い。
あたりは既に日も暮れ、湯の近くに焚いた小さな篝火と月明かりだけが湯に映ってとぷりとぷりと揺れている。
立ち上がる湯気の中、振り返ってみれば愛はこちらに背をむけて少し離れた湯船の端で小さくなっている。
おそらく自分の肌をみられるのも、俺の肌を見るのも恥ずかしいのであろう。
だが、この微妙な距離が俺にはどうにももどかしい。
出来るだけ湯を揺らさぬよう愛に近寄る。
髪が濡れぬよう束ねて頭上にまとめ上げた後ろ姿は、普段見せぬ項が見えていた。
月明かりの中、湯に濡れた白い肌が俺を呼び寄せるように艶めかしい…。
吸い寄せられるように後ろから愛を抱きしめて腕の中に閉じ込めるとそのまま項に唇をよせた。
チュク…
「ひゃぁ!ま、政宗様?!」
「ククッ…愛、なんだその間の抜けた声は」
「政宗様…さ、先ほどこちらへは背中を向けておくとおっしゃったではありませんか…」
湯で火照っているのか羞恥の為か、愛の白い肌が胸まで桃色に染まる。
お前は気付いていないのであろうな…。
肌を重ねるようになってからも随分経つというのにこの少女のような反応が俺を昂らせることを。
「愛、誰がずっと向こうを向いておくと申した?ここは俺の湯だ、俺が好きなように入って何が悪いというのだ。お前は俺の妻だ、俺が抱きたいときに抱いて何が悪い?」
「だっ…!?こ、このようなところで…っん…」
反論しようと腕の中で身を捩った愛の唇を、言葉と一緒に接吻で閉じ込めた。
愛の柔肌を湯の中で掻き抱き、唇を抉じ開けて接吻を深く熱くしていく。
先ほどまで焦らされていた苛立ちをすべて注ぎ込むように…。
湯の中で、休憩用の館で、何度でも…。
今宵は2人で月を見上げて良き夢を見よう。
子宝に恵まれるよう神水も飲んだのだ。
せいぜい子作りに励まねばならんからな。
昔あった大河ドラマでは、猫御前は恥じらう様子も見せずに政宗と一緒に温泉に入っていました。
猫様はそうかもしれませんが、でもね…。
たぶん愛姫だったら恥じらうと思うんですよ。
というかそうであって欲しいというか…。
そんな気持ちで書いた作品です。
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