伍の巻 寝顔
酒に酔って眠いのに、愛姫の所に甘えにきちゃうダメ政宗です。
「愛~~?」
ふらつく足で政宗は館の廊下伝いに歩いていた。
既に夜は更け、天には月が煌々と輝いている。
今宵は芦名攻めのからくりを指示したものの、折れた足の痛みに苛つきが収まらぬ。
苛つくままに、夜更けに医師からも妻からも控えるように言われていた酒をしこたま呑んでいたが、そのうち一人で呑むのもつまらなくなり、今はふらつく足で館の廊下伝いに愛の部屋へ向かっていた。
「愛ーーー!愛おるかぁ~?」
酔った勢いのまま、愛の部屋の襖を開け放った。
ふらつきに任せた身体は襖にぶつかり、その音と勢いによもや討ち入りかと、すでに寝床に入っていた愛は、急なことに心底驚いて飛び起きた。
寝乱れた髪を手櫛で整え、寝巻の襟元をかき寄せ不安げな瞳で俺を見上げている。
「…殿?このような夜更けに何かございましたか?」
寝起きの姿に仄かな色香を感じ、吸い込まれるように愛の夜具へ近寄ると、その問いに答えるでもなく、政宗は折れてまだ痛む足を投げ出すようにして片膝をたてて座り込んだ。
驚いて身を退こうとする愛を腕の中に閉じ込めて、首筋に顔を埋める。
大きく息を吸って愛の髪の香りを吸い込むと苛ついていた気持ちがふっと軽くなった気がした。
「愛~…俺は、強いと思うかぁ?」
「…はい、殿はお強うございます。奥州を平定し、天下にその名を轟かせるお方にございます」
「俺はぁ~芦名攻めにかかろうという大事な時に……しくじって足の骨を折るような男だぞぉ?それでも愛は俺を強いと申すのかぁ?」
「もちろんでございますよ。我が殿は満海上人の生まれ変わりにございます。今度の怪我も、今はしばし待てという神の思し召しにございましょう。待った方が勝ち戦につながるということなのやもしれませぬ」
愛の声を子守唄のように聞きながら、意識は次第に虚ろにな っていく。
しかし寝所で掻き抱く愛の感触も心地よいので、眠りに落ちそうな頭を軽く振り、政宗は睡魔に抵抗してみることにした。
夜具の上にそっと押し倒し、愛の襟元を開いて肩口に接吻を落とした。
腕の中で微かに震え、小さく吐息を零す様に欲を煽られ、白い肌に赤い花びらを散らすと思わず薄い笑みが零れる。
しっとりした肌を掌で楽しんでいると、不意に愛が軽く胸を押し返してきた。
「……何故、俺を拒む…」
「殿、かなりお酒を召しておられますね…?医師に足の傷が熱を持つから控えよと言われていたのではありませぬか?芦名との戦に備える為にも、お酒はいましばらくお控くださいりませ。早く治して頂かねば、愛も心配でございます。それに…その…私は嬉しゅうございますが、夜伽は傷に障りましょう…。お疲れのご様子ですから、このままお休みくださりませ…」
「俺は和尚から、夜伽の時にしか寝顔は見せぬようにと言われて育ったのだぞ?」
「ふふ、では私と殿との秘密にございます」
やわらかい笑みを浮かべる愛に甘えているようで…いや、実際政宗は事あるごとに妻である愛に甘えているのだ。
抱き寄せるままに愛を胸の上に抱えるように仰向けにころがった。
今はこの柔らかな重みにさえ己を必要としてくれている気がして、幸せと安堵を感じてしまう。
「愛には甘えてばかりだ…すまぬ…」
寄り添う愛の髪をゆるゆると撫でているうちに、次第に政宗の意識は落ちていった。
「おやすみなさりませ…殿」
眠りについた政宗の腕にすがりつくようにして囁かれた声は、深い眠りに落ちた政宗の意識には届いていなかった。
いつも甘える男は嫌だけど、自分にだけ甘えてくれるっていうのも女性は結構好きかなと思います。
ダメンズウォーカーな人はこれを極めちゃった感じなのかなと。
独占欲と母性本能が同時に満たされる感じなのかも?
政宗が武将たるもの夜伽の時以外は寝顔をみせるなと言われて育てられたって下りは、以前放送されていた大河の中に何度か出てきます。
昔の武将はそれほど命が危険にさらされていたということかもしれませんね。
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