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参の巻 梅おむすびと鳥鍋の夜

素直になれない政宗と、そんな政宗を気遣う愛姫。

そんな2人を微笑ましく眺める腹心たちの一コマです。

(めご)…これは何だ?」




戦の前夜、小十郎や成実と部屋に籠って軍議を重ねていたところに(めご)がやってきた。


その手元には普段見るより小ぶりな握り飯がいくつも盛られた皿…。




「何と申されましても…おむすびでございます…」


「それは見れば分かる!そうではなくて、何故このようなものを持ってきたかと聞いている!」




芳しくないと報告を受けている戦況に少し苛ついて、つい声を荒げてしまった。


途端に悲しげな瞳で俺を見上げ、少し怯えたように手元が震えたのがみえた。


しまった…どうしていつも俺はこうなんだ。


結局(めご)に甘えているのではないかと、己が情けなくなる。




「あの…もう日も落ちて明日は出陣ですのに、皆さま夕餉もとられず部屋に籠っておいでで…。城の者もこちらの部屋に入るのが憚られるが、食事はどうなさるのかと心配していたので…その」


「…なんだ、申してみよ!」


「おむすびでしたら軍議しながらでも食べられるのではないかと思ったのです。初めて自分で作ってみたのですが…女の浅知恵で…あまり上手にできておりませんが…」




それを聞いて小十郎は破顔して、成実は待っていたとばかりに膝を打った。




「おお、これは奥方様がお手ずから作ってくださったものですか!確かに握り飯であれば軍議中でも簡単に食べることができますからな!(めご)姫様のご配慮、ありがたく存じます。我々も頂いてよろしいのでしょうか?」


「は、はい…つた殿のようには上手くありませんが…」


「よし!俺はさっそくもらうぞー!!…お!中に入ってる梅干しがいい塩梅で空腹にはたまりませんよ!姫は初めて作ったと言われたがどうしてどうして!」




あの小さな手で俺のために慣れぬ握り飯を作ったのかと思うと愛しさがこみあげる。


2人がそれぞれに素直に握り飯を褒め、成実に至っては俺より先に(めご)姫の作った握り飯をほおばる。


先ほど俺から強い物言いをされて沈んでいた(めご)も、表情が明るくなり柔らかい笑みを浮かべている。


それに引き換え、俺はさっき声を荒げた手前、なんとなく褒めることも食べることもできずにいた。




ーーーくそ!なんだか妙に気に入らん!!




2人の間で薄く頬を染めて俯き加減に控えている(めご)姫をこの場にいさせたくない。


胸の中で沸々と黒い気持ちが沸き上がってくる。




「ーー(めご)!!!!」




強い口調で呼ぶと、弾かれたように(めご)の表情が再び強張る。


小十郎や成実も驚いたように手を止めて俺を見た。




「明日は出陣だから夕餉に鳥鍋を用意するように申し伝えておけ!それから今宵は部屋で待っていろ!いいな!!」




(めご)の透き通った瞳が俺をじっと見つめたあと、花が綻ぶように微笑んだ。




「承知いたしました、殿」




鳥鍋の準備を申し伝えに部屋を辞そうとする(めご)の後ろ姿に、小さな声でぽつりと呟いた。




「…握り飯食べて軍議は早くすませる…」




(めご)は首だけで振り返ると、嬉しそうにふわりと笑って出て行った。


ふと振り返ると握り飯を食べる2人…。


悟りきった顔で頷く小十郎とニヤニヤと笑う成実をジロリと睨んで握り飯の皿を取り上げた。




「これは俺が食べる!!!」




2人に背を向けてムシャムシャとちょっと不格好な小さい握り飯を食べ始めた。


顔が火照る気がするのは、さっき大きな声を出したせいだ!!


絶対そうだ!!




くそぉ…(めご)のやつ!


今夜はしっかり教え込んでやらねばならん。


俺以外の男の前であのような表情をするなど許しがたいということを…。




そんな俺の背後で2人が目を合わせて笑いあっていたことは空の月だけが知っていた。

私がその場にいたら多分殿の頭をハリセンで叩いていたと思います(笑)

夜がどうなったかは想像で補完しておいてください。


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