表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

国家の衰亡に於ける一寸法師との因果関係

作者: 福日木健


 一寸法師をご存知だろうか。


 一寸(3cm)ほどの身長を持つ主人公が京へ行き、鬼から宰相の娘を救出すべく、鬼の撃退方法として体内に侵入し、針で胃を刺した。そして鬼の落とした打ち出の小槌により、主人公は六尺(182cm)にまで大きくなり、娘と結婚する。という異常誕生譚だ。


 今回、このサイトに投稿するのは、一寸法師に関連するだろう書籍を日本語に訳したものである。



 この書籍は大和12年11月4日に富士山の(ふもと)で、堆積した火山灰の中から、木炭のような状態で発見された。それはさながら、フィロデモスの巻物のようだった。


 こちらは放射性炭素年代測定により、紀元前一万三千年前の物だと判明した。確かにその時期、富士山は断続的に溶岩を流出させていた。


 それは驚くべき発見だった。最古の紙と呼ばれる『放馬灘紙(ほうばたんし)』でさえ紀元前150年頃とされているのに、これは一万年以上も前のものだからだ。



 表面は高熱により炭化しているので脆くなっている。しかし、炭化は中央部まで至っていないので、X線により内部を確認できた。


 外側の炭化している紙は白紙であり、中央部分の紙には文字が書かれていた。その文字は楔形文字のように見える。



 文章の解読ができたのは、文字を抽出してから百年という速さだ。


 その文章の驚くべき部分として、長さ・質量の単位がある。それは東アジアの尺貫法、イギリスやアメリカのヤード・ポンド法にかなり類似している。それに加え、技術が現代に引けを取らないほど発展していることである。


 文章の内容は、その(ほとん)どが富士山より南にあった『オルク』という国の衰退から滅亡までが記され、残りは北にあった『ユクホ』の物語について記されている。


 この『ユクホ』の物語が、一寸法師に一部類似した内容となっている。


 この書籍を、一寸法師と類似する作品の一つの資料として、閲覧してほしい。


 今から公開する書籍は、単語を一部補完し、単位はメートル法に(のっと)り変更したものだ。



 (つい)にユクホの矜持(きょうじ)を破壊できる。※螺旋形情報体(以後『遺伝子』と称する)を変異させた(たね)は、ユクホ内にばらまいた。ユクホは我々オルクの『(みにく)身体(からだ)』を身体に延々と刻みつけることになる。このままいけば、私の推定では、オルクは三十年すれば滅亡するが、ユクホは百年か二百年ほど経てば、オルクと化す。これで我々オルクが滅することはない。遺伝子が失われようとも、血脈は受け継がれる。すなわち、オルクは永遠の存在となるのだ。


 ユクホは愚かだ。それを後世のオルクに伝えるべく、これを記している。いずれユクホは滅ぶから、ユクホについて詳しく記そうと思う。オルクがユクホにならぬよう、ユクホのように愚かにならぬよう、記さねばなるまい。


 ユクホは※不死山(ふじさん)(原文では『不死の山』という意味になるのでこちらに変換した)より北に存在する国である。長期的に寒い国であるが、野菜や穀物はよく採れ、よって食糧には困らない。しかし日照時間が短いので(うつ)になる者が多く、自殺者が多い。平均寿命が三十歳だ。ユクホ人の特徴を挙げる。



・身長は170cm~190cmが多く、男女の身長差は殆どない。


・脚が胴より長い。


・肌は青白く、太い血管が透け出ている。


・茶髪、または赤髪。


・虹彩は茶色、もしくは(ほの)かに青みがかった茶色。



 これが愚かなるユクホである。続いて、栄光なるオルクについて記す。


 オルクは不死山より南に存在する国である。長期的に暑い国であり、そのせいで野菜や穀物はあまり採れない。よって食糧難に(おちい)っている(食糧難はとある形で解消された)。しかし日照時間が長いので鬱になる者が少ない。平均寿命が四十歳だ。オルク人の特徴を挙げる。



・身長は110cm~130cmが多く、男女の身長差は10センチほどある。


・脚が胴より短い。


・肌は黄色く、太い血管が浮き出ている。


・黒髪、または濃い茶髪。


・虹彩は黒、もしくは濃い茶色。



 愚かなるユクホはこの特徴を『醜い』と言った。我々オルクの時代背景を知らずにそう述べるのだ。


 次に、オルク人の身長について記そう。


 オルク人は二百年ほど前まで、平均身長が160cmほどあった。どうしてここまで身長が低下したのかと言えば、それは食糧難に立ち向かうためだ。


 当時のオルク王はユクホ王に食糧を分けていただくよう頼み込んだ。しかしユクホ王はそれを拒否し、オルク内の食糧難は加速していった。ここでオルク王は一つの提案を述べた。それはオルク人の大きさを小さくし、食糧を今より摂らなくても生き延びることだ。


 オルク人は当初反対したが、オルク王の嘆願に、オルク人は感涙を流し了承したのだ。身長を低下させる方法としては、身長を(つかさど)る遺伝子情報を組換え、それをオルク人に注入することだ。そうすれば、次代のオルク人からは身長が徐々に低下していく。そして(あらかじ)め設定した身長、すなわち100cm~130cm程度に低下したところで、この計画は終了し、現在に至る。


 この政策は功を奏した。現在、餓死する者は年に十数人となった。つまりこのオルクの身長は誇りなのだ。この誇りをユクホは(けな)すのである。


 今から二十年ほど前、ユクホ王ホルウが『オルク』を蔑称として扱ったのだ。それは我々オルクの怒りを買ったことになり、オルク王であるルベは、ユクホに宣戦布告する。これが三年続く戦争の始まりだ。


 最初、オルクは優勢だった。我々の技術はユクホを凌駕(りょうが)していたからだ。しかし、我々は一つの失敗を犯した。それがオルクを劣勢に導き、遂に滅ぶこととなり、オルクはユクホに統一されることとなった。


 オルク人は迫害され、ユクホの奴隷のように扱われる日々だ。私もそうだった。(むち)に打たれながら休むことなく肉体労働を強いられていた時期があった。



 あれは三年前だ。オルク人の英雄が誕生した。それはロクという少年で、ユクホに抵抗するため多くのオルク人を従えさせた。しかし一年が経った頃、ロクはユクホにより暗殺されてしまう。英雄を失い、残されたオルク人は捕らえられ、結果、鎮圧されてしまった。そしてユクホは残虐非道な行為に及ぶ。


 ユクホはオルク人を虫の息になるまで拷問した。しかも宮廷の前で、ユクホ人に公開したのだ。我々オルク人は怒りと共に悲しみ、そして永劫(えいごう)苦しむこととなった。



 さて、そろそろ『一つの失敗』について記さねばなるまい。


 それは『オルクとユクホの混血』を諜報員としてユクホに送ったことである。


 オルクにはヤンという頭脳明晰な少年がいた。ヤンは一見ユクホに見えるが、身長は149cmほどで、虹彩は黒かった。


 オルクはヤンをオルク人として認めていた。何故ならば、ヤンにはオルクの血が流れており、我々と同じようにオルクの誇りを抱いていたからだ。


 戦争が始まった時、オルクはどうしてもユクホの内部情報を入手したかった。画策しているのを知れば、我々はいくらでも対処でき、ユクホを絶望に(おとしい)れられるからだ。我々は諜報員としてヤンを選んだ。選考方法は十人での多数決であり、賛成は八人で反対は二人だった。


 賛成派は、


「ヤンはオルクの誇りを抱いている。たとえユクホの血が少しでも流れていようとも、オルクの誇りがある限りオルク人だ」


 と言った。


 反対派は、


「ヤンにはユクホの血が流れている。その時点でユクホ側につく理由となる。その可能性がある限り、ヤンに諜報員は任せられない」


 と言った。


 今思えば、この反対派の意見を呑めばよかったと思う。私を含むオルク人の殆どは、ヤンこそ諜報員に任せられると思っていたからだ。


 多数決から一週間後、ヤンはオルクの象徴である椀と箸を持ち、ユクホに向かった。補足するが、椀と箸にはそれぞれ、食糧にありつけられるという意味がある。椀と箸は、食事以外に両方使うことがないからだ。最初はヤンに持っていかないよう説得した。これがある限り、オルクだと思われてしまうからだ。しかし、ヤンはどうしても持っていきたかったのか、出発の日の夜、ヤンの家からヤンの椀と箸が消えていた。勝手に持っていってしまったのだ。


 それからしばらくヤンについては分からない。しかしその折、ユクホは我々の策略に感づき始めたのである。そして徐々に劣勢となり、オルクは敗戦した。


 ヤンがユクホに寝返ったと聞いたのは、オルクが統一される一ヶ月前のことだ。その時、私はユクホにいたのだが、そこでユクホとオルクの混血がユクホを救済したという(うわさ)を聞いた。私はその混血はまさに『ヤン』だと察した。


 それは事実だった。ヤンが国を救済したとして、勲章を受章されたという報道が成された。


 その後、ヤンは大臣まで出世した。現在でも大臣を勤めている。


 あの報道からもう十七年だ。オルクはとうに滅亡し、オルクはユクホの街から少しずつ消えていく。私はオルクという国が我々オルクから消えてしまうのが怖かった。どうすればオルクを存続できるのか考える。


 そして思いつく。ユクホをオルクにすればよいのだと。


 私は遺伝子学について知悉(ちしつ)しているので、早速私の遺伝子を元に、ユクホにオルクの遺伝子を発現させるための組換え遺伝子を作製した。私はその遺伝子を持って、そこらにいるユクホの子供十数人ほどに注入した。この組換え遺伝子は、世代が進むにつれてオルクの特徴が顕著になるものだ。つまり、あの注入された子供の子は、まだユクホだ。だが、百年ほど経てば、ユクホからオルクが誕生するだろう。


 この遺伝子により、確かにオルクになるのだろうが、いずれはこの遺伝子すら消失する可能性がある。だが、問題ない。別段、後世の住人がオルクになる必要はない。ユクホのみがオルクになればいい。ユクホはいずれ滅ぶ。その時まで、ユクホがオルクになってくれれば、私は清々しい気持ちになれる。


 さて、私については以上だが、ここからは少し脱線する。それはヤンについてだ。ヤンがユクホの英雄になって、様々な英雄譚が広がっているが、その中で私が面白いと感じたものを一つ紹介しようと思う。




 小さいヤンは、野蛮なオルクの血を持ちつつも、清楚なるユクホの血を持つ者である。ヤンはオルクに生まれ、オルク人に育てられたが、しかしヤンは、その身に流れるユクホの血がある限り、オルクに呑まれることはなかった。


 ある日、ヤンは真のユクホ人になるために、オルク人の眼を盗んで、ユクホと共に戦うことを胸に抱きつつも、何故かオルクの象徴である椀と箸を持って脱出した。


 ユクホに到着したヤンは、ユクホ王に謁見する。すると王の前で、オルクの象徴である椀と箸を踏み潰した。つまり、敵国であるオルクを蹂躙(じゅうりん)するという意味だ。このために椀と箸を持ってきたのだ。これを観覧した王は感銘を受け、共に戦うと誓った。


 そしてユクホと共に戦い、ヤンの(たぐい)(まれ)なる才能で、卑怯な手段(糞尿を投げる等)で戦うオルクに劣勢だったユクホは次第に優勢になり、ユクホは勝利を収めた。


 数日後、神様がヤンの前に現れた。ユクホを救ってくれたことに神様は礼を述べ、神様の魔法でヤンは徐々に身長が伸び、真のユクホ人になった。


 真のユクホ人となったヤンは、宰相の娘と結婚し、遂には大臣となり、ユクホは発展していった。オルクの金銀(すなわち技術)を手に入れたからだ。


 こうしてヤンは豊かに幸せに暮らしていった。




 これが英雄譚の概要である。


 何とも滑稽(こっけい)だ。全体の殆どは嘘だ。真のユクホ人というが、ヤンは我々の技術の一つである骨延長術を施しただけだ。その(まなこ)にある虹彩は間違いなくオルクのものだ。どこが真のユクホ人なのだろうか。


 ああ、一つ書き記すことがあった。それは遺伝子学についてである。この技術がユクホの手に渡れば、ユクホは自らの遺伝子を組換え、崇高なる神となるだろう。そのようなことになれば、オロクが勝利する兆しは延々に現れない。よって、敗戦するより前に、遺伝子学に関する書物や道具の殆どを焚いた。残されているのは、今私が所持する物だけだ。



 この書を執筆し終えれば、これを使者に託して箱の中に入れ、不死山の麓に埋めてもらうことにする。不死山は火山であり、いつ噴火するのかは不明だ。その高熱でこの書が消失する可能性を考慮し、(さら)に複数枚の紙で覆った。溶岩に覆われなければ、この書は後世のユクホの末を知る人物によって見つけられる。そして、ユクホは非道なのだと世に知らしめることとなるだろう。



 最後に、これを読む者へ告げる。


 この書を公開することこそが貴殿の使命である。


 それが成し遂げられれば、私からようやく悔いがなくなる。


 ちなみに私はもうすぐ暗殺されるだろう。背後からよく視線を感じるからだ。だが、心配いらない。オルクの人々に応援を頼んだ。よって、この書は麓で保管され続ける。そして、私の所持する物全てはこれから焚く。これでこの世から遺伝子学が完全に失われることになる。


 オルク人は私によく気遣ってくれる。大変申し訳なく思う。


 とにかく、これを読む者よ、よろしく頼む。




 第28代オルク国王 ルベ



 以上で文章は終了する。


 第28代オルク王の遺言通り、この書籍を公開した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ