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黒いサンタクロース

作者: 武正幸

 父の葬儀が終わったあと、実家に泊めてもらうことになった。

 

居間で母と、父との様々な思い出を語りあった。夜も更け、私が学生時代に勉強部屋として使っていた部屋で就寝することになった。

 私が高校卒業まで使っていた勉強部屋は、ほとんどそのままの状態で、母が残してくれていた。当時好きだったアイドルのポスターや、読んでいた雑誌がそのまま残っており、タンスには、高校の時のセーラー服までクリーニングから却ってきた状態でしまってあった。さながら大きなタイムカプセルのようなこの部屋で、何年か振りに寝る事となった。

 布団に横になった時、ふいに一冊のノートの存在を思い出した。確か勉強机の上から2番目の引き出しに入れていたが、今もあるだろうか。開けてみると、表紙に

「黒いサンタクロース」

と書かれた古い大学ノートが、出てきた。


 小学生の頃、いじめられた事があった。些細なことで仲間外れにされたが、その中心的な人物Yちゃんの失踪により、私のいじめは終結を迎えることになる。


 Yちゃんを中心とした、いじめに逢っていた頃、私は大切にしていたノートに、「黒いサンタクロース」という名前を付け、【このノートに書かれた人は、この世から居なくなる。】と、ノートの最初のページに独自のルールを書いた。それ以降、私はこの世から消し去りたい人を、このノートに書くことを決めた。カッターで指先を切って、自分の血をノートの表紙に垂らしたりしたっけ。この時はオカルトブーム真っ盛りで、黒魔術的なものをどこかで聞きかじったのだろう。今考えると、本当に稚拙なアイデアだったと思うが、このノートにYちゃんの名前を書いた数日後、事件は起こったのだ。

 

「Yちゃんが居なくなった。」

 私が最初に聞いたのは、同じクラスのCちゃんからだったと思う。次の日には、テレビのニュース番組でも報道されるようになり、小学校の校門前には連日大勢の報道陣が集まって取材合戦を展開していた。下校中、友達と別れ、家に着くまでの僅か150メートルの間で、彼女は忽然と姿を消したという。家出なのか、誘拐か、はたまた神隠しかと、連日様々なメディアで取り上げられたが、結局Yちゃんは発見されず、いつしかこの事件は忘れ去られていった。

 

 

 高校生の時、初めての彼氏ができた。さわやかな笑顔のN君だ。彼の自転車の後ろに乗せてもらい、駅までよく二人乗りで帰ったっけ。後ろから、彼にしがみ付いたら、体の線は細いのに、しっかりとした筋肉がついており、初めて男性を意識してドキドキした。付き合い始めて3ヶ月くらいたったころ、友人に、N君が、他の女の人と一緒にいるのを見たって言われたけど、初めは信じなかった。でも、その頃から彼の態度が変わってきたのが、分かった。


「別れよう。」

いつか言われると分かっていても、そのセリフを聞くまで信じられなかった。そして、あんなに好きだった彼が、憎く感じた。あの「黒いサンタクロース」のノートに彼の名を書いてしまったのだ。

 ほどなくして彼が失踪したと、人づてに聞いた。ノートに書いた2名の人間が二人とも失踪するなんて。私は恐ろしくなった。そして、これは単なる偶然だと信じたかったが、数年後、3人目の犠牲者が出てしまうことになる。

 

 大学を卒業後、工場事務として勤き始めた私は、所謂OLとしての充実した毎日を過ごしていた。社長は父との古い知り合いで、私がこの会社に入れたのも、父が社長に話をしてくれたからだ。入社から半年後、私はその社長の秘書となった。しかし、その頃から社長の私へのセクハラ、パワハラが始まった。本当に辛くて、何度も会社を辞めようと思ったが、せっかく父に入れてもらったこの会社を簡単には辞められない。私は我慢の日々を過ごしていた。

 

 ある日、父に相談しようと実家に帰ったら、半年振りに帰る娘に父も母も本当に喜んでくれて、夕飯は出前の豪華なお寿司で私を歓迎してくれた。終電を逃してしまったので、泊まることにしたが、とうとう最後まで父に社長の話を打ち明けられなかった。その日の夜、私は例のノートを思い出した。そう「黒いサンタクロース」のノートだ。

「気晴らしになれば、それでいいか。」

そんな軽い気持ちで社長の名前をノートに書いてしまったが、数日後、社長は会社に現れなかった。元々ギャンブル好きで、様々な所で借金をしていたらしく、返済のめどが立たず、身を隠したんだろうと、いうことになったらしい。でも、私だけは知っていた。これは「黒いサンタクロース」のノートの呪いだと。

 

 

 

父の葬儀の翌日、私と母は、父が経営していた工場を訪れていた。

「崎田製鉄所」の古ぼけた看板が私たちを出迎えてくれた。工場の中はすでに機械など運び出されており、がらんとしていた。

「お父さんとともに、この工場の魂も、天国に昇っていくのね。」

 母は、静かに語りだした。

「あなたは覚えているか分からないけど、この工場の奥に、鉄を溶かす溶鉱炉があったの。」

 鉄を溶かし、不純物を取り除くための溶鉱炉。昔は添加物を直接投げ込んでいた為、溶鉱炉に誤って落ちて作業員が亡くなる事故があったらしい。溶鉱炉の中は約5500度という高温の溶けた鉄が満ちている。そこに人が落ちたら、命を落とすのは当然だが、溶鉱炉の上に数秒立っただけで、着ている服が発火してしまう程の凄まじい温度だったらしい。


「母さん、どうして今、その話を?」

「・・・黒いサンタクロース。」

「えっ?」

私の心臓がびくっと跳ねるのが分かった。


「昨日、お父さんがお葬式で、荼毘に付されたでしょ。火葬場で遺体を焼く温度は、約1000度だって。だから私たちは、お父さんの遺骨を拾って骨壺に入れる事が出来た。でも溶鉱炉の温度は、5500度。人間なら骨も残らないわ。」















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