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冬童話2021 『さがしもの』

春の種

作者: 小畠愛子

 子リスが地面をせっせと掘っています。雪はようやくとけたというのに、まだ春はやってきません。冷たい風に身をふるわせながらも、子リスは地面を掘っていきます。


「やぁ、ぼうや。いったいなにをそんなに掘っているんだい?」


 見かねた北風が、子リスにビュービューとたずねました。北風だというのに、子リスは少しもいやな顔をせずに、にっこり笑って答えました。


「種を探しているんだよ」

「種? あぁ、君たちリスは、冬ごもりの食料として、種をうめるんだったね。それを探しているのかな?」


 北風の質問に、子リスは首をふりました。


「違うよ、おいら、自分がうめた種を探しているんじゃないんだ」


 この答えに、北風は少し大人ぶった、しかるような口調でとがめました。


「いけないな、じゃあ君は他のリスたちがうめた種を探しているのかい?」


 北風の質問に、子リスは少し驚いたような顔をして、それからブンブンと首をふりました。


「まさか、違うよ。おいらが探しているのは、他のリスたちの種じゃない」

「じゃあいったい、なんの種を探しているんだい?」


 いくぶんか優しい口調になって、北風が再びたずねました。子リスは胸を張って答えました。


「春の種さ」

「春の、種?」


 北風がとまどったように聞き返します。子リスは自信たっぷりに続けました。


「そうさ。お母ちゃんがいっていたんだ。地面の下には、春の種がうまっているんだ。それで、その種が芽を出したら、この寒い冬も明けて、あたたかな春がはじまるって。だからおいら、探しているんだ」

「そうだったのか……」


 それ以上はなにもいえずに、北風は子リスが地面を掘るのを見ていました。手がかじかむのでしょうか、ぶるぶるとふるえています。それでも子リスは、地面を掘っては、なにも見つけられずにまた他のところを掘るのです。北風は思わずたずねていました。


「春の種なんて、ないんじゃないのか? 春はただただやってくるだけだ。春の種を探すなんて、そんなむだなことはもうやめなさい。お前の手は、ずいぶんと赤切れだらけになっているじゃないか」


 北風にいわれて、子リスは顔をあげて立ちあがりました。ぼうぜんとした表情で、じっと北風を見ていましたが、やがて首をふりました。


「……春の種は、あるよ。きっとある。おいら、お母ちゃんがうそつくとは思わないもん。……それに、春が来ないと、お母ちゃんは……」


 それ以上はなにもいわずに、子リスはどんどん地面を掘っていきました。北風はしばらくそこにたたずんでいましたが、やがてゴォッと強い風になって、そして地面を、木を、森を、大地を、すべてに吹き抜けていったのです。それを感じた動物たちは、いっせいにこうさけびました。


「春一番だ! やったよ、春一番が吹いたんだ! 春が来るよ!」


 子リスはようやく顔をあげました。

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― 新着の感想 ―
[一言] レビューからきました! 面白かったです。 春一番が吹くと春が来る。 暖かい春待ち遠しいですね。
2023/04/23 14:14 退会済み
管理
[良い点] こんにちは。 タイトルに惹かれて読ませて頂きました。 春の種ってどんな種だろう?と思ったら……とても優しいお話に胸があたたかくなりました。 子リスに「春が来て良かったね」と言ってあげたい…
[一言] 春一番と言うと春風さんが吹かせているものと思っていましたが、北風さんが去っていく時の置き土産だったのですね。 春一番って、厳しい冬をよく耐えきったねっていう、北風さんからの称賛なのかもしれな…
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