春の種
子リスが地面をせっせと掘っています。雪はようやくとけたというのに、まだ春はやってきません。冷たい風に身をふるわせながらも、子リスは地面を掘っていきます。
「やぁ、ぼうや。いったいなにをそんなに掘っているんだい?」
見かねた北風が、子リスにビュービューとたずねました。北風だというのに、子リスは少しもいやな顔をせずに、にっこり笑って答えました。
「種を探しているんだよ」
「種? あぁ、君たちリスは、冬ごもりの食料として、種をうめるんだったね。それを探しているのかな?」
北風の質問に、子リスは首をふりました。
「違うよ、おいら、自分がうめた種を探しているんじゃないんだ」
この答えに、北風は少し大人ぶった、しかるような口調でとがめました。
「いけないな、じゃあ君は他のリスたちがうめた種を探しているのかい?」
北風の質問に、子リスは少し驚いたような顔をして、それからブンブンと首をふりました。
「まさか、違うよ。おいらが探しているのは、他のリスたちの種じゃない」
「じゃあいったい、なんの種を探しているんだい?」
いくぶんか優しい口調になって、北風が再びたずねました。子リスは胸を張って答えました。
「春の種さ」
「春の、種?」
北風がとまどったように聞き返します。子リスは自信たっぷりに続けました。
「そうさ。お母ちゃんがいっていたんだ。地面の下には、春の種がうまっているんだ。それで、その種が芽を出したら、この寒い冬も明けて、あたたかな春がはじまるって。だからおいら、探しているんだ」
「そうだったのか……」
それ以上はなにもいえずに、北風は子リスが地面を掘るのを見ていました。手がかじかむのでしょうか、ぶるぶるとふるえています。それでも子リスは、地面を掘っては、なにも見つけられずにまた他のところを掘るのです。北風は思わずたずねていました。
「春の種なんて、ないんじゃないのか? 春はただただやってくるだけだ。春の種を探すなんて、そんなむだなことはもうやめなさい。お前の手は、ずいぶんと赤切れだらけになっているじゃないか」
北風にいわれて、子リスは顔をあげて立ちあがりました。ぼうぜんとした表情で、じっと北風を見ていましたが、やがて首をふりました。
「……春の種は、あるよ。きっとある。おいら、お母ちゃんがうそつくとは思わないもん。……それに、春が来ないと、お母ちゃんは……」
それ以上はなにもいわずに、子リスはどんどん地面を掘っていきました。北風はしばらくそこにたたずんでいましたが、やがてゴォッと強い風になって、そして地面を、木を、森を、大地を、すべてに吹き抜けていったのです。それを感じた動物たちは、いっせいにこうさけびました。
「春一番だ! やったよ、春一番が吹いたんだ! 春が来るよ!」
子リスはようやく顔をあげました。