文学青年の独白
大正〜昭和期の文豪のエッセイを読むうちに着想した、レトロな掌編です。
今の僕には友達など居りません。
東京に見切りを付けて、これから田舎へ帰るのです。
読んで貰える宛てのない小説を、夜な夜な書いて居りました。
朝の醒めた頭で読み返し、原稿用紙を破り棄てる毎日でした。
僕はずっと、独り身で居りました。
嘗ての級友は皆、所帯持ちになりました。
暇乞いをする相手など居りません。
僕が居ないからと言って、淋しがって呉る人も、想い人も居りません。
唯、僕には好きな場所がありました。
日比谷公園に植わっている辛夷が好きでした。
白い花も、赤い実も、冬木の芽も、すらりと伸びた幹も。
僕は見つめていると、ひとときの憩いを感じられたのです。
舞い落ちてきた一葉を思い出に、停車場へ向かうとします。
さようなら、僕の愛した場所。さようなら、僕の青春の日々。