湖底の箱
ギィ…ギィ…
自然湖なのか人造湖なのか…
僕達は湖の上をボートを漕いでいた。
中島さんの行きたい場所では…無い。
先方から午前中は用事があるから昼からにしてくれと言われたらしい。
軽トラックを時間潰しに流していた道中で、たまたま大きな湖に出くわした。
地元の中島さんは興味無さそうだったが、僕は牧歌的な景色故か懐かしさを感じ
自販機でジュースを買いながら湖面のボートを眺めていた。
「乗ってみる?」
中島さんが貸しボート屋を指差した。
ユラユラと揺れながらボートは湖の中央辺りまで進む
「泳いだら気持ち良さそうですね!」
「いや、泳ぐ人は居ないよ」
そんな会話をしながら進んでいると浅瀬でボートが乗り上げてしまった。
知らない間に対岸に近付いていたようだ。
体を揺らしたりオールで押してボートはようやく浅瀬から離れた。
その時、湖の底に大きな箱が沈んでいるのが見えた。
「箱が沈んでますよ…サスペンス劇場なら中身は死体ですよね。」
「あれは農業用に汲み上げてる取水口だよ。」
中島さんは箱に繋がっているホースを指差した。
「でも、二人か三人は沈んでそう…」
そこまで言って僕は自らの口を抑えた。
昨日あんな体験をしながら不吉な事を言ったから…と言うより
このセリフに聞き覚えがあったからだ。
そう、自分ではない誰かが同じ事を言ったのだ。
誰だったのか…
だが、親しい人であったと記憶している。
なぜ、そこまで思い出して肝心な誰かを思い出せないのか…
携帯の呼び出し音が湖面に鳴り響く、中島さんの携帯だ。
「はい、もう大丈夫ですか?今から行きます」