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帰宅
湖から吹き上げる風は、ますます勢いを増し
焼け残ったコンクリートの壁以外、ほとんど雨風を凌げる場所は無い。
壁の文字とは違い、とてもではないが歓迎の雰囲気ではなかった。
窓枠が落ちたのだろうガラスが砕け散る音が階下から響く
「もう、行くよ」
僕は彼女の部屋を出た。
廊下に出るとボロ切れとなったカーテンが狂ったように暴れ行く手を阻んでいたが
金具が外れたのだろう、階下に向け走り去るように飛ばされて行った。
実際、彼女の事をどう思っていたのかは自身の記憶ながら定かではなかった。
小学生の自分が記憶から排除したほどなのだから
恐ろしかったのだろう
しかし、起きた事を鮮明に思い出した今
彼女に対して嫌悪も恐怖も抱けなかった。
屋根が焼け落ちた二階は叩き付ける様な雨に洗われる。
雨は階段から滝の様に一階のホールへ落ちて行く。
ほとんど天井が抜けている一階も外と変わらぬ土砂降りで
風によってだろうか、天使像が傾いていた。
焼け落ちた壁から外に出ると、軽トラックのホーンが鳴り
ライトの光が近付いて来た。
終わったのだ…